「おばさんは、鯵の握り鮨を全部食べたらしいよ」。いつになく夫の声が明るかった。
おばさんとは、わが家が数十年来親しくしている人だ。
夫が釣った鯵をすぐさばいて、私が握った鮨を車で届ける。
「誰が、こんげな旨いもんを食わせてくれるやろうか?」。その度に老夫婦でよろこんでいると聞いていた。
それから半月過ぎた頃に、おばさんの訃報が入った。
その日の朝は、黄色いラッパ水仙がかすかに揺れていた。
柔らかい風に吹かれて、甘い香りが漂っていた。
宮崎市 津曲久美(60) 2019/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載