はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

同期のさくら

2019-05-30 12:02:44 | はがき随筆

 47年前に廃校になった吉利中の古稀同窓会があった。95名の卒業生のうち15名が早逝されていた。そして不明7名であった。自分が心を痛めたのは不明者の方である。うわさによると自己破産して住所を明かさない人、配偶者から逃げるために身を明かさない人、同期仲間のひとりとして役立つ事は何かないかと思案しているが……。

 桜もつぼみのうちに折られる枝、花3分で風に吹かれ飛ぶさくら、満開の花として絶賛のさくら。さくらんぼの実を結ぶものもある。同期のさくらも十人十色の人生の花を咲かせていると嘆息している。

 鹿児島市 下内幸一(69) 2019/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載


カメラの前の義母

2019-05-30 11:52:44 | はがき随筆

 近くの畑で鍬を打っている義母に、若い男女がマイクとビデオカメラを近づけてきた。「こんげな姿じゃき映さんで下さいよ」と言いながらまんざらでもなさそうに笑って話している。

 某TV局が、延岡市のここ北方町を取材しているという。「全国を訪ねているけど、お婆ちゃんみたいに会話のできる人っていないよ、ほんとに97歳?」と聞く。生きがいは何かと問われると「野菜作りとグランドゴルフかな」と答える義母に驚きの2人だ。

 「百歳はぜんぜん余裕だよ、お婆ちゃんは」「そうじゃね」とさらりと言う義母だった。

 宮崎県延岡市 川並ハツ子(74) 2019/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載


平成から令和へ

2019-05-30 11:45:59 | はがき随筆

 平成も終わり、令和を迎えた。5月1日はテレビの前にくぎ付け。思えば私たちの学生時代は「天皇陛下」との言葉を聞けば、直立不動の姿勢をとり「現人神」の教育を受けた。行幸に際しても列になってお迎えし、頭をたれ、通過される足音を聞き、後ろ姿を遠くから拝する習わしだった。

 今は悲惨な戦禍の跡や災害発生地に赴かれ、膝ついて励まされるお姿に心打たれる。時の移ろいでこんなにも変わるものかと驚かされるが、国民がこぞって愛する皇室になられたことをよろこび、ご繁栄をお祈りする。

 熊本市中央区 原田初枝(88) 2019/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載


哀れな傘

2019-05-30 11:38:34 | はがき随筆

 雨模様の午後、誘われて霧島路のさくら桜サクラを愛でに行く。散策道があるというので娘孫の女3人で挑戦。林の中を抜けて、木の根が張り出して歩きにくい道の先には花房の滝、その荘厳な眺めに歓声をあげる。このとき雨傘がつえ代わりとなって大いに重宝する。帰り道は楽で近く感じるから不思議。神話の里まで足を伸ばし、高揚した気分で温泉にはいり、ご機嫌で帰宅。ところが相棒の雨傘の調子が悪く開かない。私の体重を支えて頑張ってくれた傘が壊れて使用不能になるなんて。犠牲になってしまった傘がなんとも哀れで仕方がない。

 鹿児島県霧島市 口町円子(79) 2019/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載


おじさんって、変?

2019-05-30 11:30:31 | はがき随筆

 表通りで、小学生に「お早う」と言うと返事もしない。いきなりバタバタと駆け出した。まずいなあ。出掛けに「やたら子供に声掛けないで。怪しまれるよ」と妻に言われていたのだ。きっと親から「知らない人と話したらダメ」としつけられたのだろうが、よく守っているよ。

 また帰りに、小学生に会う。その一人が「おじちゃん、今何時?」と袖を引っ張る。腕時計を見せると「ありがとう」とお礼をいった。人見知りしない元気な子だが、かえって心配だ。

 妻に「小学生が話し掛けたよ」と言うと「怪しい人かどうか試したのね」と笑う。あ~あ。

 宮崎市 原田靖(78) 毎日新聞鹿児島版掲載


変わらぬ文体

2019-05-30 11:23:22 | はがき随筆

 妹が実家の整理をしていたら出てきたと、古い原稿用紙をくれた。それは私が中学2年の時、修学旅行で訪れた別府での地獄めぐりを書いたものだった。鉛筆で、原稿用紙2枚半くらい。山地獄、海地獄、血の池地獄、ワニ地獄について、それらの様子、印象、感想を書いている。技巧をこらしたり、奇をてらうこともなく、素直に表現していた。

 今も私はこんな文体で書いているなあ。かっこよくとかおしゃれには書けない。子どもの時からあまり進歩していない。けれどこのスタイルが私らしさかもしれないと思った。

 熊本県玉名市 立石史子(65) 2019/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載


愛しきもの

2019-05-30 10:50:26 | はがき随筆

 「あったかい」。そっと触れて確かめる。規則正しい呼吸に息をあわせる。時々いびきがまじる。そばにいるのは子供? 孫? 犬なんて意識は遠いかなたに感じる。

 我が家に来た時は、片手に乗せていた。「まだ散歩は駄目よ」と言われ抱いて歩いていると「可哀そうに歩けないの?」と言われたことが懐かしい。

 今では、愛嬌のある子ブタの風情。立派な老犬になった。大病もせずありがたい。夜はさっさと枕に頭を乗せてゴロリ。おやつをねだったり人間と少しもかわらない。まだまだ元気でいてネ、桃太郎。

 熊本県八代市 鍬本恵子(73) 2019/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載