はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

入院中

2019-05-26 22:06:34 | はがき随筆

 1日、2日の遅れながら息子便で病室へとどく新聞。今年ちょろっとしか桜を見ずにいたら、5月6日の歌壇・俳壇欄に「北上へ花を追い」と高田正子の花談がなにもかも語っていて、まるで私も同道した。

 さすがと感慨にひたり、心満ちつつ更に桜に思い及んだ。4.5年前、京の三条の春、加茂川の桜はこぶしを握りしめていた。二条のも。

 しかし、文で花や景をみると、おのずと心に浮かぶ表現力にみちびかれて楽しいし、なかなか消えない。「車窓の景色は季節を巻き戻してゆく」という。表現とともに。

 鹿児島市 東郷久子(84) 2019/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載


五月人形

2019-05-26 21:50:21 | はがき随筆

 昭和43年。大坂の専門店で大型の五月人形「兜差し」を買った。地下鉄、阪和線を乗り継いで最寄駅まで。そこから1㌔歩いた。ケースがかさぱって抱えるのに難儀しながら、休み休みようやく持ち帰った。

 東京、宮崎を転居後も、飾る度に天袋からの出し入れに難儀していた。年老いて昨年、ケースを廃棄し人形だけ養生し納めた。今年「令和元年」。天袋からの下ろしが容易であった。

 今までガラスケースに納まった人形が、ケースから解放され、よりたくましく立派に見えた。お陰で息子、孫、私を含め男たち。皆元気で活躍している。

 宮崎市 貞原信義(80) 2019/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載


感謝

2019-05-26 21:43:37 | はがき随筆

 間もなく結婚50周年を迎える。結婚当初、夫は優しさとユーモアで包んでくれ、私はうれしく幸せだった。子どもが小さい頃、社会勉強と言って職場見学に連れていったり、息子とはよく相撲を取ったりとスキンシップや教育にも関わってくれた。

 ラジオで野村克也さんが、奥さんが亡くなり心残りだったことはなんですか、と聞かれて「結婚生活は幸せだったか聞きたかった」と言われていた。

 人生も残り少なくなり振り返って思うのは、思いやりのあるしっかり者の娘と、優しく暖かい息子を贈ってくれた夫への感謝です。ありがとう。あなた。

 熊本県合志市 古城紀久子(74) 2019/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載


今年も春が香る

2019-05-26 21:20:51 | はがき随筆

 

 

 母屋の玄関を開けると甘い香りがフワーッと流れ込んでくる。玄関のすぐ前にある棚に、カミさんが小鉢に株分けしたギンギアナム、その少し右手にはオガタマ、庭の中央ではシンビジウムが存在をアピールしている。花たちの間を通り抜けてくると、香りが迫って来る。

 写真を撮ってみた。目で見るのと違い、意外と見栄えがいい。「なんだか豪邸の庭みたいだわね。写真はがきを3枚作ってね」とカミさん。関東の友人への近況報告に使うのだ。

 毎年この時期になると、同じように香りを楽しみ、幸せをかみしめている老夫婦である。

 鹿児島県西之表市 武田静瞭(82) 2019/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載

 


今夜は私を選んでください

2019-05-26 21:12:26 | はがき随筆

 「私を選んでください」「いや僕を選んでください」「私の方は1カ月もそのままなのよ」「僕はどうしてくれるんだね」「私なんて毎日使ってもらいたいのに」「私は彼女からのプレゼントなんですからね。もっとちゃんと使ってちょうだいよ」「僕なんてあんたの使い方が悪いから、ケガをしちゃったじゃないか」「ああなみなみと私を満たしてほしいわ」「私に口づけを」「あなたの優しさを証明して」「もうこれ以上こんな所に引っ込んでるのは嫌だぜ」……。

 棚に並んだぐい飲みたちが囁く。さて今日はどれを選ぼうか。だれやみの始まりです。

 宮崎市 谷口二郎(69) 毎日新聞鹿児島版掲載


退職祝い

2019-05-26 20:58:59 | はがき随筆

 若い日に職場が共通した縁で、交流が続く4人の仲間がいる。飲み会は酒量が増すにつれ放談で笑いの渦が巻く。孫を持ち風貌は変わったが、会のスタイルに変化はなくストレスを発散し近況を確認し合う場となる。仲間が退職するとその度に祝い、今年は4回目となった。私は料理教室に通い多少の心得があったので手料理のお祝いを恐る恐る提案した。

 さて、私の中華料理数種と母直伝の白あえに妻の料理を並べた。不安は仲間の食欲が吹き飛ばしてくれた。その夜も心は青年期にタイムスリップし話題は果てしなく広がっていった。

 熊本市北区 西洋史(69) 2019/5/21 毎日新聞鹿児島版掲載


犯人検挙

2019-05-26 20:52:48 | はがき随筆

 今回は尾籠な話になり恐縮ですが……。

さてその瞬間はあっけなく来た。排尿のとき何かがチンチン内を通過した。と思った。腰を浮かして便器の底を注視すると……。あるある。拾い上げた。アサガオの種大の茶褐色でギザギザした石だ。なんと半年もの間、私の体内に無賃で間借りし、たびたびの激痛のもととなった犯人である。

 体内に潜んでいるところを衝撃波で粉砕したこともあったが、この手で検挙したのは2度目。これで危惧していた荒治療も免れスッキリだ。ありがとうございました。

 鹿児島県霧島市 久野茂樹(69) 2019/5/20 毎日新聞鹿児島版掲載


鶴は千年亀は万年

2019-05-26 20:45:34 | はがき随筆

 「子供ん頃、誕生日は必ずそうめんと巻きずしだった」と言ったらカミさんが「なんでそうめんと巻きずしなの?」「好物だから」。

 早食いの私はささっと食べられるものが好きなのだ。炊事は祖母が全てやっていたが、献立の明確な誕生日は作りやすかったのだろう。

 祖母は私の早食いをいさめて、「ツルツル飲みこんだら千年やけど噛めば万年や。よう噛んで長生きしィ」と言った。質素な家族そろった誕生日の夕餉。あれ以上の何をも望むべきでなかったと、今は思う。

 私の早食いは直らなかった。

 宮崎市 柏木正樹(70) 2019/5/19 毎日新聞鹿児島版掲載


旅人のひとり言

2019-05-26 20:38:21 | はがき随筆

 妻を亡くしてむなしい。でも九州の長官としては悲しんでばかりはいられない。2月にしては暖かで風も穏やかなので梅見の宴を開いた。山上憶良君と唐の文学論を交わしたのも一興。濁り酒を飲みながら皆で32種の歌ができたので私が漢文で序を書いた。

 何だか下界が騒がしい。私のくだんの序文から2文字を選んで令和という元号にしたそうだ。意味は美しい調和だと。それは少しこじつけのような気もするが、まあ良いか。騒ぎすぎのような感じもするがね。ま、一杯飲んで私はまた眠りにつこう。

 熊本市中央区 増永陽(88) 2019/5/18 毎日新聞鹿児島版掲載


お猿さんと猪君

2019-05-26 20:29:20 | はがき随筆

 店頭に並ぶ新タマネギ。スライスしたサラダは実においしい。主人の唯一の趣味、家庭菜園で育てたタマネギが今年は全滅。昨年は近隣の人の気配に敵も遠慮したのか、無事に口にできた。無残に茎をちぎって食べた跡があった。犯人はお猿さん。友人に嘆くと、以前、同様な被害にあい、食べごろの柿を猿軍団にしてやられた。枝からもぐ、落果した実を拾う係と役割分担し、全て食べられたそうだ。みごとな連係プレーにただただ感服。前年には猪君に里芋を持っていかれたばかり。空振り続き。その度に義父の「よろっで食べればよか」を思い出す。

 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(69) 2019/5/17 毎日新聞鹿児島版掲載


乙女の頃

2019-05-26 20:21:32 | はがき随筆

 モノクロキャビネサイズの写真に、整理中の手が止まった。「ワァー懐かしい、あったなー、こんな事が」。昭和40年代前半、西鹿児島駅(現鹿児島中央駅)で、谷山出身の歌手西郷輝彦氏を真ん中に、総勢35人で撮ったもの。「君だけを」という大ヒット歌の映画化でロケのため来鹿。勤務先の会社のブラスバンド部が歓迎セレモニーを行った。「私たちも生輝彦に会いたい」と上司に懇願、許可が出た。目の前に大スターが! 部員外の私たちは端っこに静かに納まった。だが20代の胸は震えていた。あの頃のフレッシュな気分に戻れた一瞬であった。

 鹿児島県鹿屋市 日高美代子(72) 2019/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載


当たった!

2019-05-26 20:14:37 | はがき随筆

 めげずに続けていると、幸運の女神はときとして微笑んでくれるものだ。日曜の毎日新聞に掲載されるクロスワードを解くようになって久しいが、ついに「おめでとうございます。抽選の結果貴方に……」ときた。

 始めた発端は随筆仲間の先輩が「脳トレで毎回トライしている」と知ったことにある。

 よし、ならば賞品のクイズ雑誌をゲットして、それをこの先輩にプレゼントしよう、と目標を決めた。とはいえ投函しても投函しても、強運も味方になる必要があった。運は使い果たした感があるが彼女のたまげた喜び方が痛快でならない。

 宮崎市 藤田悦子(71) 2019/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載


おせっかい

2019-05-26 20:08:08 | はがき随筆

 市電で大学生グループと乗り合わせ。1人が財布を見ながら「1万円しかない」と首をかしげている。「立て替えておこうか」と仲間が言っているところに「両替できるよ」と声をかける。

 ほどなく水前寺公園に到着。「先ほどはありがとうございました」と頭を下げて下車した。どこから来たのか確認しなかったが、日ごろ通学などでICカードを使っているなら、国内の大抵のものは共通使用できると教える方が、より現実的でなかったろうか。おせっかいの割に肝心なところがあと一つ抜けていたなと反省しきり。

 熊本市東区 中村弘之(82) 2019/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載