はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

上を向いて歩こう

2019-05-25 19:40:57 | はがき随筆

 某ホテルのロビーには白いグランドピアノが置かれた。孫らは夏休暇で、つい先まで渓谷の清涼な水と戯れていた。娘婿は半袖姿でポピュラーソングを奏でる。家族はピアノの周りで楽しそう。「上を向いて歩こう」のメロディーは親しみ深い。誰もが、いつでもハモる。ホテルのお客様も、知らない方々だが手をつなぎ輪になった。はちきれんばかりの歌声と手拍子、笑みを振舞ってロビーは和やかなムードに包まれ、幸せの瞬時に家族は強い絆に結ばれる。旅の思い出を大学ノートの隅のページに記した。未来の夢をつなげよう。上を向いて歩こう。

 鹿児島県姶良市 堀美代子(74) 2019/5/9 毎日新聞鹿児島


花よりだんご

2019-05-25 19:32:54 | はがき随筆

 今日は取ってくるかなぁ、いやだめかなぁと思っていた。

 夫は今日私の期待を背負ってゴルフ大会に行った。わが家のスキヤキは、ゴルフ大会の商品にかかっている。前回はブービー賞で、今回は雨のため大会は中止になり商品のくじ引きがあり、運がいいというか、ついているというか、何と3位を引き当てたという。ブービー賞より重い牛肉をちょっと照れ臭そうに持って帰ってきた。

 私にとっては、優勝でもブービーでもくじでもいい。花よりだんごがいい。さあ今夜は今年2回目のスキヤキ。いただきます。

 宮崎県日向市 黒木節子(72) 209/5/9 毎日新聞鹿児島


楽しい朝の電話

2019-05-25 19:24:34 | はがき随筆

 6時起床。近くの小学校でウオーキングそしてラジオ体操。みそ汁をこしらえ、朝食。新聞を片手にTVの朝ドラをのぞき込む。持病の薬を数えてはさ湯で飲み込む。やれやれとかけ声かけて椅子を立ち、食器を洗う。分刻みの行動には慣れているはず(現役時代の習慣)ですが、年のせいかなかなかしんどい。

 8時半、突然の電話。「Kです、おはようさま、お元気? 随筆書いてますか? 私90歳の大台を超したのよ。アハハー。遊びにおいでよ」と先輩女史の大きな声。「ハハハイ」と答えるだけ。しかし、楽しい朝の電話となりました。

 熊本市中央区 木村寿昭(86) 2019/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載


母の旅立ち

2019-05-25 19:15:11 | はがき随筆

 好奇心旺盛な母だった。戦前は北京で暮らし、戦後は40歳を過ぎて洋裁学校に通い、若い人たちと一緒に学んだ。近所の学生たちを招いて麻雀とダンスも習った。麻雀で母は「ポン」と叫び身を乗り出すと、かつらが台の上に転がり、3人はびっくり仰天。自分も驚いたと、ちゃめっ気たっぷりに話していた。

 母は2月に103歳で旅立った。葬儀の献奏曲に母が好きだった童謡「ふるさと」をリクエストした。2人の女性がバイオリンとフルートで厳かに演奏したが、涙があふれてとまらない。私は促されて、やっと遺族を代表してあいさつした。

 鹿児島市 田中健一郎(81) 2019/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載