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はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

飛びっきりの笑顔

2021-01-05 17:20:54 | はがき随筆
 「こんにちは」「こんにちは」と、どの児もニコニコ、可愛い大きな声。公園までお散歩かな。引率の保母さんも笑顔。集団でいろんな事を学んでいる。男の児も女の児も仲良し。エネルギーあふれる子どもたちを見ると何か凄いものをいただいた気がして胸が熱くなる。こっちもうれしくて笑顔になっている。
 このご時世、危ない事が多く気軽に子供にも声をかけにくい。公園で遊ぶ子供たちの写真を撮ろうとして、「やめてください」と言われた事がある。「プライバシーを守るためですから」と。そうかと思う反面寂しかった。金木犀の香りがする。
 熊本県八代市 鍬本恵子(75) 2020/11/24 毎日新聞鹿児島版掲載

動物エサやり機

2021-01-05 17:08:32 | はがき随筆
 未経験レベルという台風10号の予報に、娘宅へ避難し心強かった。朝7時ごろに「チャリ、チャリ、チャリ」と音がする。横に寝ていたトイプードル犬のマロンちゃんが枕を蹴散らして走り出した。朝食です。「自動エサやり機」からエサが出てくる音でした。時間とエサの量が設定されているとか。この利器に驚きながら、一心不乱に食べている姿をしばらく見ていた。むかし雑犬を飼っていた頃は缶詰もなく、手作りのエサを与えていたのを思い出す。「お茶が入りましたよー」。娘の声に食卓へ向かうと、濃いめのお茶に梅干しが置いてあった。
 鹿児島市 竹之内美知子(86) 2020/11/23 毎日新聞鹿児島版掲載

早めの風邪予防

2021-01-05 17:00:48 | はがき随筆
 風邪の予防接種が始まった。今年はコロナの関係で、問い合わせも多いとか。備蓄のワクチンがあるうちに、と慌てて開業医に向かった。順番待ちの患者はいない。間に合ったようだ。
 診察室に入ると「昨年も早めにきましたよね」と先生がニコリ。少し世間話を挟んで無事終了。風呂はいいが、注射の痕はもまないで、など注意がある。
 その他、晩酌も構わないとの話に、よせばいいのに「飲み会はダメですよね」と口走った。傍らの妻が「分かり切ったことは聞かないで。ワクチンを打ったばかりなのに」と袖を引く。大ごとだよなあ。
 宮崎市 原田靖(80) 2020/11/22 毎日新聞鹿児島版掲載

マリーゴールド

2021-01-05 16:53:27 | はがき随筆
 だいだい色のマリーゴールドがブロックに垂れ下がり、朝夕の冷気で色がさえる。
 過日、某作家が友人の本を書棚から取り紹介。すぐ名前だけ書き、図書館へ。作者の幼少時・昭和の時代の描写、時代へのタイムスリップ、当時の頃が鮮明に浮かぶ。
 何度読み返しても飽きない。作者とは20年差があるのに共鳴できることばかり。花の開花ならぬ本との開化で、ことにだいだい色が目にしみる秋の一日だった。
 きょうから朝ドラが佳境に入る。
 鹿児島県鹿屋市 春野フキ子(70) 2020/11/21 毎日新聞鹿児島版掲載

冷麺

2021-01-05 16:46:22 | はがき随筆
 夫が「思い出の麺を食べさせる」と棒ラーメンを買ってきた。
 大学時代、限られた生活費での食事はほぼ学食だったが、夏は下宿で、よく棒ラーメンで冷麺を作ったそうだ。それも具なしの麺だけ。栄養よりもおなかを満たせばよかったのだろう。
 夫は麺をゆで、氷水で冷やし手際よく麺を準備した。タレも説明文を見て「砂糖も入れていたんだ」とか言いながら作った。当時はこれで出来上がり。だが、今回は頼まれて具を私が担当した。盛り付けは夫。当時より豪華にできたが、味は思い出の味らしい。「おいしい」。私の言葉に夫は満足げだった。
 宮崎市 堀柾子(75) 2020/11/21 毎日新聞鹿児島版掲載

食物の当て字

2021-01-05 16:37:43 | はがき随筆
 卵と書くところを「玉子」とやるのは、そんなに珍しくもない。熊本市のある物産館で「天平」を見た時は井上靖の「天平の甍」を連想したが、現物を見て天ぷらの方言「てんぴら」の当て字だなとすぐ分かる。
 数年前のこと、別の直売所で見た「人肉」は今でも時々思い出しておかしくなる。最初、目にした時は「エッ人間の肉を売るの? まさかぁ」と半信半疑で陳列棚をのぞき込んだら、ずらりと並んだ「ニンニク」。さすがに誰かおかしいと気付いたのだろう。次に立ち寄った時には、きちんとカタカナ書きの札が立っていた。
 熊本市東区 中村弘之(84) 2020/11/21 毎日新聞鹿児島版掲載

初めての一人旅

2021-01-05 16:28:40 | はがき随筆
 県の宿泊助成キャンペーンに応募したら当たり、GoTo割引も効いて幸運な1泊の旅をした。選んだのは亡夫の運転で度々訪ねた霧島温泉郷。亡母を連れて3人で花見、紅葉狩り、そして温泉へとよく訪れた。
 懐かしい思い出を道連れに、バスに揺られて35分ほどで着く。歩いて丸尾の滝へ。水量豊かに流れ落ちる瀑布の純白さと轟音に身が清められるようで、いつまでも眺めていた。
 コロナ禍にホテルは混んではいない。豪華な秋の味覚の夕食を頂き、見晴らしのいい大浴場の湯にゆったりつかった。申し訳ないような旅だった。
 鹿児島県霧島市 秋峯いくよ(80) 2020/11/21 毎日新聞鹿児島版掲載

岡城址にて

2021-01-05 16:22:08 | はがき随筆
 石垣、石垣……。圧倒されたのは想像を超える石垣の量と大きさ、そして城郭の広さだ。ただでさえ人を寄せ付けない断崖絶壁のそのまた上に、巨石が累々と積み上げられている。大手門を間近に見て、その緻密な美しさに足が止まった。
 ようやく本丸までたどり着いた。どこからか「荒城の月」のメロディーが聞こえてきた。見回すと初老の女性が背を向けてハーモニカを吹いている。哀愁を帯びた音色がよく合う。
 眼下に大野川、遠くに連なる山々が、澄み渡った秋空に溶け込む。ああ、今日は何ていい日なのだろう。
 宮崎県延岡市 楠田美穂子(63) 2020/11/21 毎日新聞鹿児島版掲載

辛口テレビ電話

2021-01-05 16:14:30 | はがき随筆
 「熱い!」。今日も今日とてやけどする。苦手な料理を練習中だ。母の誕生日に手料理を振る舞うと約束したのだ。「やっと完成した。今日はうまくできた」。自慢げにテレビ電話で友達に見せる。「まあまあだね」。辛口コメント。
 「痛っ」。指のばんそうこうが増えていく。「今日の出来栄えは?」「頑張ってたから80点」。昨日より5点上がった。
 「今日は何点?」「今日は上出来。100点だよ」。やっと満点が出た。継続は力なり。「明日は誕生日だね。頑張れ」。そういって友達は電話を切った。
 熊本市中央区 岡本愛理(21) 2020/11/21 毎日新聞鹿児島版掲載

三年とうげ

2021-01-05 16:06:21 | はがき随筆
 先日「今ごろ、阿蘇はススキがきれいですよ」と石川さゆりさんが歌番組で話していた。
 20年前小学校3年の国語教材「三年とうげ」という韓国童話に白いススキの光るころという表現があった。どんな情景だろう見てみたいと思っていた秋、たまたま訪れた阿蘇でハイウエーを曲がったその時、一面夕日に照らされて白いススキが光る山野が眼前に。ああこれだと深く感動したのを思い出した。
 このお話は災いを福に転換する知恵の話で、今のコロナ禍の世界に生きる話。私のすきな「三年とうげ」と阿蘇のススキが再び私の心に輝き出した。 
 熊本県八代市 今福和歌子(71) 2020/11/21 毎日新聞鹿児島版掲載

妻の入院

2021-01-05 15:59:13 | はがき随筆
 夜中に妻が胸と背中の痛みを訴えたので、救急車を呼んだ。病院では急性心筋梗塞と診断され、手術が始まった。
 待合室でまんじりともせず夜を明かす。心臓の冠動脈が狭く、ステントを入れて血管を広げたと主治医から説明された。手厚い治療のおかげで1週間後に一般病棟へ移ることができた。コロナで面会はできなかった。
 私は学生時代、寮と下宿で過ごし、入社後も寮にいたので、料理をしたことはなかった。毎日、冷蔵庫の中の食材と料理の仕方を妻に聞いた。やっと一日が終わった。そうそう、ぬか床を混ぜなくちゃ。
 鹿児島市 田中健一郎(82) 2020/11/20 毎日新聞鹿児島版掲載

着物でランチ

2021-01-05 15:52:13 | はがき随筆
 「気軽に着物を着たい」といつも話している友人がいる。なかなか機会がないけど、ゆくゆくは着たいものだと何回聞かされたことか。業を煮やした私は「着るなら今でしょう」と彼女の背中をドンと押した。
 そして誕生したのが「着物でランチ」だ。簡単な街着で月1回、昼ご飯でも、とそれだけのことだが、「着物で」がミソだ。
 夏は浴衣、秋冬でも半幅帯にカラー襟など自分流に楽しむ。互いに褒めてのランチはおいしい。2人で声掛け合ったのが私も私もと、今や4人に増えた。着付けもさまになり、タンスの肥やしも喜んでいる。
 宮崎市 藤田悦子(72) 2020/11/19 毎日新聞鹿児島版掲載

カマラ・ハリス氏

2021-01-05 15:27:36 | はがき随筆
 米大統領選の開票が気になって睡眠不足になってしまった。眠気が覚めたのはカマラ・ハリス氏の演説を聞いた時だった。格好良かった。選挙が確定したら初の黒人・アジア系女性副大統領が誕生する。10日付本紙で演説全文を読んだ。彼女は全ての少女に希望を示したが、私のような高齢者にも未来への希望を与えてくれた。ガラスの天井が破られた。でも横たわる分断の溝は想像以上と聞く。かつてリンカーンは「二つに割れた家は立つ事ができない」と訴えたが、分断に対して結束は困難の道であろう。対岸の火事ではない。見守りたい。
 熊本市中央区 増永陽(89) 2020/11/18 毎日新聞鹿児島版掲載

サシバの渡り

2021-01-05 15:15:18 | はがき随筆
 「出たー、出ましたよー、1羽、2羽……」の声に、双眼鏡をのぞき込む人、空を見上げる人。サシバがねぐらから舞い上がったのです。
 上空で、ピックィー、ピックィーとゆっくり旋回。別れのごあいさつ? まもなく上昇気流に乗って南下していった。来年の飛来を願い、長旅の無事を祈った。
 ここは、宮崎県都城市の金御岳。駐車場を見渡すと、遠方は大宮(埼玉)、和泉(大阪)ナンバーも。
 その翌日、ラジオでサシバは絶滅危惧種に指定されていると聞き、寂しく思った。
 鹿児島県垂水市 竹之内政子(70) 2020/11/17 毎日新聞鹿児島版掲載


満月の夜空に

2021-01-05 15:06:41 | はがき随筆
 60歳代の前半まで夜のサークル講座で楽しんでいて、帰路の空には星が瞬き、変わりゆく月を仰いだ。今では早めに夕食を済ませカーテンを閉めるので夜空をほとんど見ることがない。早朝散歩の友人の「今晩は満月ですね」の言葉に、久しく見ていなかった夜空に心動かされる。床に就く前、窓を開ければ皓々と十五夜の月。雲が流れ顔を隠すがすぐに現れる。轟音がした。満月の下を飛行機が。厳しいコロナ情勢の中、仕事を終えた人たちだろうか。低空なので乗客の顔も見えそうだ。しばらく見送り。久しぶりに幸せな夜空を仰ぐことができた。
 熊本市中央区 原田初枝(90) 2020/11/15 毎日新聞鹿児島版掲載