はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

季節の中で

2021-01-06 22:35:00 | はがき随筆
 4月から近隣10軒の班長になった。大きなイベントは亡き母が始めた花見会と秋の月見会。
 花見会は新型コロナで中止された。何とか月見会を実現しようと皆の意見を調整した。全戸賛成で実施の運びとなった。中秋の名月から2日後の夕方、新型コロナ対策を講じながら楽しい食事会が実現した。
 翌々日、入院中だった西隣のご主人が亡くなった。年明けには斜め隣の若い家族の新居が完成する。春になれば、南隣の家族に3人続いた男子の後に待望の女の子が生まれる。母が私の成人記念に植えた桜の大樹の下で花見会を盛大に行いたい。
 宮崎県串間市 岩下龍吉(68) 2021/1/1 毎日新聞鹿児島版掲載

大晦日

2021-01-06 22:34:58 | はがき随筆
 コロナウイルスに始まり、コロナに翻弄された1年だった。ワクチンの話もあるが、いつ受けられるかわからない。大方の美術展の中止が寂しかった。次回にまわす手もあるが気持ちの盛り上がりに欠ける。あの時のやるぞという意気込みがない。
 趣味のフラは自分たちだけの発表会をやった。本番同様にドレス、お化粧、ドキドキの舞台。版画ではログハウスで忘年会。でもここは夏仕様、暖房の風が冷たかったがクリアした。子供の頃大晦日はなんとなく緊張した。箒の跡が美しかった庭、しめ飾り、真新しい下着。
 丑年、ゆっくり歩こう。
 熊本県八代市 鍬本恵子(75) 2020/12/31 毎日新聞鹿児島版掲載

文章教室

2021-01-06 22:34:00 | はがき随筆
 昔は社内報が盛んに発行され、私も投稿した。定年前に東京で新聞社の主催する文章講座があったので、半年間「エッセイの書き方」教室に通った。テーマは自由で1000字以内。提出すると、講師から添削の原稿が戻ってくる。エッセイはまず内容、書き方は二の次、リズムが大切、いつもよい材料があるとは限らない、と教わった。
 本紙編集委員が「新聞投稿の楽しみ方」で紹介された両親の話は面白かった。父親の書いた自分史を読んだ母親は「人様に見せるものは自慢話じゃダメ、失敗話がおもしろいの」。率直な母親の言葉を大切にしたい。
 鹿児島市 田中健一郎(82) 2020/12/30 毎日新聞鹿児島版掲載

法語カレンダー

2021-01-06 22:20:27 | はがき随筆
 「差し引けば仕合わせ残る年の暮れ」。毎年、お寺に頂く月めくりの法語カレンダーには、月ごとに短い文章が添えてある。文頭の五七五は12月の文章だ。フレーズが気に入っている。好きなフレーズには「してあげるという功績よりもさせて頂くという自分のよろこび」とか「つらいときぐちるときにはなもあみだぶつ」などがあるが、唱えると身が引き締まる。
 コロナ禍で緊張続きの今年も残すは僅か。差し引いて幸せは残るかな、どうかな。疑問は解けない。
 宮崎市 日高達男(79) 2020/12/29 毎日新聞鹿児島版掲載

消えたあかぎれ

2021-01-06 22:15:50 | はがき随筆
 乾燥肌の私は、ハンドクリームをつけても一冬に4~5回あかぎれができ痛い思いをする。だからゴム手袋は必需品。
 だが、あれっ、今ゴム手袋無しだ。なぜ。思い当たったのが夫の茶碗洗い。2年ほど前から夕食後の茶碗洗いをしてくれるようになり、今年から朝昼夜の3回になった。私の片付け仕事が70%減っていたのである。
 そうか、夫の功労の賜だったのか。大晦日お寿司を食べながら「ありがとう」と言おう。
 願わくば夫がしない料理で味噌汁、野菜炒め、カレーができたら。私に万一の事が起こった時のために。欲張りかな。
 熊本県八代市 今福和歌子(71) 2020/12/28 毎日新聞鹿児島版掲載

楽しきかな人生

2021-01-06 22:11:46 | はがき随筆
 ぼくだけのことかもしれないが、年の瀬が迫ると人生を振り返ることがある。50歳前後の頃、自分の生涯を80年と考え、定年後の20年は妻と2人で思いのまま、気の向くままに生きたいと、残されたサラリーマン生活を頑張った。
 そして今、この20年を振り返ると、考えた通り輝いていたと思える。妻に先立たれた不幸はあったが、縁あって迎えた妻は明るくぼくを理解してくれ、できる範囲で楽しむことではピッタリのパートナーである。旅行計画もコロナ禍が済めばと、夢が1人歩きしている。既に2人で20年先まで夢をみている。
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(81) 2020/12/27 毎日新聞鹿児島版掲載

Go Toの町

2021-01-06 21:23:50 | はがき随筆
 見たこともないほど大きな車が走っています。日本中旅行に行ったり食事に行ったりできて特典もあるから乗りたい人も大勢います。この車が客を連れて来るのを心待ちにしている人もいます。一方、この巨大な車が走る町には日に日に重くなる荷物を抱えた人もいます。力の限界だというのに使命感だけで必死に抱え続けています。町の状況を注視していると言った人は賑やかな食事をしています。
 私たちはこんな奇妙な町の住人です。この車はようやく一旦停止しようとしています。止まるべき停止線をおそらくは遥かに越えて。
 熊本市西区 矢野小百合(53) 2020/12/25 毎日新聞鹿児島版掲載

また会う日を楽しみに

2021-01-06 21:23:49 | はがき随筆
 ただいま、と鉢植えの花に声をかけて玄関に入る。5年以上前にK氏からいただいたダイヤモンド・リリーが今年も咲いてくれた。毎年忘れずにピンクの光沢のある花を咲かせるのだ。
 花茎が伸び、蕾が膨らむと、今日か、明日かと毎日気をもみ、咲いたら朝夕話かける。
 陽の短いこの時期の平日は仕事で昼間に見ることができない。だから休日は陽光を反射して風に揺れながら輝くさままをゆっくり楽しむのだ。
 今年も十分楽しんだ。花がしおれはじめると葉を伸ばしてくる。花言葉どおり、また来年。一年も終わろうとしている。
 宮崎市 中村薫(55) 2020/12/26 毎日新聞鹿児島版掲載

美化作業

2021-01-06 21:16:39 | はがき随筆
 昨年の一斉美化作業に早朝から参加した。まず自宅周辺を清掃して、その後公民館周辺と館内の清掃。各家庭から1名参加になっているが、事情もあったりで欠席のところも多い。
 年に3回ある作業によく出てくる人が今回は休み。体調不良らしい。高齢になってくると、いつ何時出られなくなるか分からない。あと10年したら高齢者ばかりが多くなり、若い人たちに負担が多くかかるだろう。
 枯れ葉を集めたり運んだりしつつ見渡せば、今回は私が最高齢のようだ。せっせと若い人に負けない量の仕事をこなせていることがうれしくなってきた。
 鹿児島県霧島市 秋峯いくよ(80) 2020/12/26 毎日新聞鹿児島版掲載

柿の木

2021-01-06 21:09:33 | はがき随筆
 庭の植木で季節の移ろいをよく感じさせてくれるのは柿だ。
 2月末、枝先にふくらみができ目覚めのサイン。中から黄緑色の新芽が顔を出し春の到来を教えてくれる。若葉が増え、梅雨の頃には浅黄色の花が咲く。
 青葉茂る夏には、小さな実がなり喜ばせせてくれる。風雨に試練を受け、それに耐えた実だけが大きくなり色づく。一番楽しみな時である。柿色は秋の澄んだ空に映える。たくさんの実のりは知人や友人と鳥たちにおすそわけし、私もおいしく頂く。
 今は枯葉が数枚残る。これから冬の眠りに。こうして一年一年過ぎていく。
 宮崎市 堀柾子(75) 2020/12/26 毎日新聞鹿児島版掲載

雲と柿

2021-01-06 21:00:15 | はがき随筆
 天高く澄み切った秋空を眺めるといろんな事が思い出されます。屋根の上に広がった柿の木の枝、鈴なりの柿。思わず立ち止まり見上げると青空がバックで自然の絵画です。白い雲がゆったりと尾を引いています。亡き主人は柿が大好物でした。餅のように柔らかに熟した柿に小さな穴をあけ口で吸いながら食べていました。それを見ていた当時4歳の孫娘が「じいちゃんは柿をぞぞぞ~と食べた」と言ったので主人が「うまいこと言った、天才だ」と満足な笑顔。あの時の場面が今でも思い出され、うれしい時間を作ります。秋空は大好きです。
 熊本県八代市 相場和子(93) 2020/12/26 毎日新聞鹿児島版掲載

あ~エール

2021-01-06 20:41:32 | はがき随筆
 朝ドラの軍歌を歌えるから不思議。韓国から引き揚げるとき4歳だった私は記憶がおぼろで、姉の話だと蓄音機の前でよく歌っていたという。夫を戦地に向かわすつらい別れに手柄を立てようという妻子『暁に祈る』かな? これに近い思いをしたような気がする。2人の息子を家から送り出すときだった。そこで今ふうに歌詞を変えてみた。
 あ~あ十八で巣立つ子へ
 しかり学べと父の声
 都会の悪に気をつけて
 涙かくして祈る母
 今は都会で家族とコロナ禍の中まさに企業戦士。いつまでも親の気持ちは、あ~エール。
鹿児島県薩摩川内市 田中由利子(79) 2020/12/26 毎日新聞鹿児島版掲載

カマキリ

2021-01-06 20:34:26 | はがき随筆
 寒さが日に日に増す季節だ。玄関前の鉢植えを見る。アロエの上にカマキリがしがみついて微動だにしない。昨日はその横の植物に乗っていたので、移動したということは、まだ生きているという証しだ。
 夏の日、私が指を差し出すとカマを持ち上げ威嚇したのに初冬を迎え、動くのさえままならないほどに弱っている。
 日中に日だまりを求めてやっと移動している。このまま生が終わるのを静かに待っているかのように見え、物悲しい。
 2日後、アロエに手足を絡ませて絶命していた。土に埋めて、そーっとさよならをした。
 宮崎県延岡市 源島啓子(72) 2020/12/26 毎日新聞鹿児島版掲載

スカイプ面談

2021-01-06 20:19:41 | はがき随筆
 コロナ禍の中で福祉施設や病院では直接会って会話することはできない。厳しい世の中である。妻も入院して1カ月になるが面会できたのは転院の時だけであった。水頭症からの回復を目のあたりに見たいができない。その中で、タブレットを用いたスカイプの活用を思いつき、病院と相談したところ、リハビリの一環として了解してもらった。久しぶりにみる妻の笑顔と回復状況に心が躍った。アメリカの娘と3元による面談も可能になった。何時もは子供たちと連絡が希薄であるが妻の入院で家族の連携と関係も深くなっていることに感謝している。
 熊本県大津町 小堀徳廣(72) 2020/12/26 毎日新聞鹿児島版掲載 

クリスマスの朝

2021-01-06 20:13:21 | はがき随筆
 クリスマスが近づくと、子どもの頃の楽しくてわくわくした気分が今でもよみがえってくる。ただ、8歳のときのほろ苦いクリスマスは忘れられない。
 お人形のためにずっと欲しかった小さなベッドをサンタさんにもらってすごくうれしかったわたしは、近所の公園の遊び仲間に見せた。だが、彼女の枕元にあったのはミカン1個だという。なぜ? と不思議に思うと同時に、なんだか悲しくなったのを覚えている。
 いま思えば格差について生まれて初めて実感した日だった。これもサンタクロースの贈り物だったのかもしれない。
 鹿児島市 種子田真理(68) 2020/12/24 毎日新聞鹿児島版掲載