はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

姉嫁

2021-01-24 17:25:07 | はがき随筆
 「孝介」「はい、先輩」。夫婦のお互いの呼び方である。縁戚の若者、まだ新婚といっていいだろう。この呼び方、古い私たちには少々違和感がないでもないが、またユーモラスでもある。新婦は新郎より二つ年上、2人は婚前から現在も同職場で働いており、新郎が新入りのころ新婦はその面倒をみてきたのである。結婚してからも職場での呼び方を続けているようだ。
 新婦は新郎の親の前では呼び捨てを遠慮しているようだが、2人だけのときは相変わらずである。2人は琴瑟相和している。まもなく子宝も授かる由。夫婦百態、多幸を祈っている。
 鹿児島市 野崎正昭(89) 2021/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

2021-01-24 17:00:50 | はがき随筆
 母と言う字は悲しい。
 淡くてあたたかい母と言う字。いつの間にか胸の奥がせつない。涙が出そうになる。そこに、いつも笑顔の母がいた。
 「何んにもなかとにかえってきたっけ」と優しい声が聞こえる気がする。母の指定席は同じ場所だった。働く事が一番の姑孝行と聞いたことがある。嫁姑の仲もそれで関係がいいと言っていた母。もしかの時は母の味方になると子供心に誓ったものだった。あったかい母の手をさすった。もの言わぬ母の小さな丸い手。何度も何度もさすった日。私の手は母の手に似ている。
 この手で家族を守りたい。
 熊本県八代市 鍬本恵子(75) 2021/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

もうすぐ100歳

2021-01-24 16:53:39 | はがき随筆
 母の白寿祝いに子供、孫、ひ孫の20人が実家に集合した。5月に100歳を迎える母は食欲旺盛で、持ち寄った料理に箸が進む。兄がカラオケを用意した。母は好きな「南部蝉時雨」を歌いきり、拍手喝采に目を細めた。6人の子供たちは母に続いてマイクを回し歌う。
 「今日はいい日じゃった。いつ死んでも思い残しはないわ」と笑う。その横顔には、年輪を感じさせる深いシワが幾筋もある。このシワには、決して楽な暮らしではなかった人生が刻まれている気がした。それなのにたった一度も弱音を聞いた記憶がない。気丈な母に乾杯だ。
 宮崎県延岡市 川並ハツ子(76) 2021/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

2021-01-24 16:46:01 | はがき随筆
 よく熟した鈴なりの柿。枝をたわめた大きな柿の木のある風景は大好き。近年この柿をちぎることもなくなったような。スーパーで見事な富有柿や富士柿を買う人は多い。柿の木があっても高齢化のため、たとえ自家用の分もちぎることが難しくなったのだろう。
 かつて子や孫らが幼かった頃、庭の柿もミカンも脚立などを使ってちぎった。〝下枝の柿は旅人のために、てっぺんの柿は野鳥のために〟。そんな言い習わしも承知していたのに、私は子や孫らのために全部もいでしまったものだ。まさに昔日の感しきりである。
 鹿児島県鹿屋市 門倉キヨ子(84) 2020/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

運命

2021-01-24 16:38:38 | はがき随筆
 道路をカタツムリが這っていた。裏通りだが時々車が通り、運が悪ければひかれてしまうので、いつもは道路脇の草の葉に乗せてやる。ところがその時は急いでいてそうしなかった。
 その後、あのカタツムリのことが気になった。そして一つの疑問がわいた。人が関わらないのが運命なのか、人が関わるのが運命なのか。あるいはどちらにも転び得るのが運命なのか。
 人にもさまざまな出会いがあり互いに影響を及ぼして生きている。自分の何気ない言動が相手の運命を大きく変えてしまうこともあ。どんな小さな出会いも大切にしようと思った。
 宮崎市 福島洋一(65) 2021/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

鳥と野良猫

2021-01-24 16:30:33 | はがき随筆
 今日は鳥をみた。白はらだ。何年ぶりかの珍しい鳥の訪れ。白はらはカサッと音がするほど落葉がないと来ない。近ごろきれいに庭を掃く、だからか一度も見なかった。替わりにきれいな砂土が心地よいのか野良猫の糞害が増える。
 今年は落ち葉掃除は程ほどに。猫を追う。猫も糞をせず通り過ぎるだけなら構わないが、こんもり盛られた糞は誠に嫌だ。しかし糞をしない生物はない。野良猫は一生懸命に生きているだけ……とは思うが……。鳥は夢幻、猫は生々しい。見るなら儚く美しい方がよい。人は(私は)勝手で厳しく酷い。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(65) 2021/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

世を照らす灯台

2021-01-24 16:10:31 | はがき随筆
  これは、長崎鼻灯台と一本の道を赤黄橙緑青などで鮮やかに彩られたスクリーンの題名である。 山形屋の画廊に入り、明るさと迫力に押されて立ち止まって見ていると「私、女性たちを応援したいなと思って描いたんですよ」と、長い黒髪の涼や かな瞳のやさしい声の女性に話しかけられ、作者の川島見依子さんだと知った。
 個展を取材した新聞の記事では、絵の売り上げの一部で途上国の子どもたちの支援を続けているとのことだった。
 その個展の翌年に10代の若さで亡くなられたそうだが、今も私は励まされて生きている。
鹿児島市 川﨑泰子(65) 2021/1/15 毎日新聞鹿児島版掲載