はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

認知症と介護

2007-08-19 19:14:46 | かごんま便り
 先日、鹿児島市でシンポジウム「認知症と介護保険」(ぼけ予防協会、毎日新聞社など主催、アフラック協賛)が開かれた。行政や医療・福祉などさまざまな立場の専門家によるパネルディスカッションは示唆に富むものだった。
 「認知症の人と家族の会」県支部世話人代表の水流(つる)涼子さん。社協職員として長年、高齢者問題とかかわる一方、自身も約20年、義母の介護にあたった。世話をする側、される側双方を熟知しているだけに発言には説得力があった。
 「『認知症のお年寄りだから……』というふうに偏見で見がちですが、認知症を個性として見てほしい。一人の人として見ることが大切」と水流さん。「施設に入れると、家族は『自分たちは介護を放棄した』との思いに悩まされる」とも。お年寄りとその家族への温かいまなざしが印象的だった。
 特別養護老人ホーム「泰山荘」施設長の牧政雄さんは介護職員の待遇向上を力説した。「私は職員を大事にします。大事にされた職員は必ずお年寄りも大事にする」。会場から拍手がわき起こった。
 昼夜交代制の勤務、精神的にも肉体的にも重労働だが、その割に賃金は驚くほど安い。少子高齢化でお年寄りは増加の一途、片や介護の担い手となる世代は減っていく。高齢者福祉の仕組み全体を抜本的に見直さないと取り返しのつかないことになる。牧さんの訴えには心底考えさせられた。
 老いは誰にでもやって来る。だが自分の老後はもちろん、ほんの少し前まで親が老いることさえ切実に考えたことはなかった。考えることから〝逃げて〟いたのかもしれない。
 郷里に残した私の母は79歳。脳こうそくで半身不随になった父を献身的に世話していたが、2月に父が亡くなって以来、目に見えて老け込んだ。最近は物忘れや勘違いもしばしばで、先行きが少々不安である。
 いずれ一人で住まわせられなくなったらどうするか。妻の介護を理由に職を辞した市長がいたが、私も同様の決断を迫られる時が来ないとも限らない。
 「家族の会」の全国研究集会が10月に鹿児島市である。詳細は後日、紙面でご紹介するが、いずれ間違いなく介護の当事者となる現役世代の一人として、貴重な話をたくさん聞かせて頂きたいと心待ちにしている。
   毎日新聞鹿児島支局長 平山千里
2007/8/14 毎日新聞鹿児島県版掲載

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