はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

報道の責任

2006-01-23 14:58:39 | かごんま便り
 「マスコミは信用できない」「警察も信用できない」
 今年初め、鹿児島県選出の国会議員から、こう言われた。言い返そうとしたが、こうなると売り言葉に買い言葉。会話にならないから控えた。
 閣議決定された「犯罪被害者等基本計画」に、この議員も携わったと言う。ちょうどいい。私たちの仕事に関係するので話を向けたら、まず「信用できないから」だった。
 基本計画で、私たちが最も危惧してるのは、警察による被害者の実名発表、匿名発表について「個別具体的な案件ごとに適切な発表内容となるよう配慮していく」の項目。警察の裁量で事件、事故の被害者を実名にするか、匿名にするかが決められる。
 司法権を持つ警察の発表をそのまま鵜のみにした報道はできない。被害者やその周辺をも取材して、初めて客観的で責任ある報道ができる。匿名で発表された場合、被害者の存在が不明で、事件の背景さえ分からない。
 昔の言論統制下の墨塗り新聞どころか、事件そのものが包み隠されたり、恣意的につくられる可能性もある。マスコミに盾突かせないような動きとも受け取れる。
 新聞社は警察が実名で発表した場合、加害者、被害者の周辺取材を踏まえて、紙面では実名か匿名かを判断している。それは被害者の安全、二次的被害を被る可能性がある場合などのケースを考えて報道する。
 マスコミも被害者の自宅や関係者宅に押し寄せる集団的加熱取材(メディアスクラム)や、プライバシー問題にも社内や他社とも連携して取り組んでいる。被害者からの要望には正面から向かい合っている。 
 政治家が中心となってつくり、警察にゆだねる「権力側」の基本計画に対しては、あくまでも実名を発表してほしい。実名か匿名かの責任は私たちが持ちたい。 実際、鹿児島県の警察発表にも「被害者の強い要望」を理由に、匿名が増えた。他県では警察が、公職選挙に違反した地方議員の名前を明かさなかったり、容疑者と被害者の関係を「親子」ではなく「知人」と虚偽発表したケースもある。
 皆さんはどう思われますか。私が議員に言うのを控えた言葉は、「信用できないい政治家、官僚がいる。それを監視するために、この仕事に就きました」です。
   鹿児島支局長・竹本啓自 毎日新聞鹿児島版 2006.1.23掲載

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