はがき随筆・鹿児島

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おかあさんの木

2015-06-24 20:31:24 | ペン&ぺん


 女優の鈴木京香さん(47)が先日、新作映画「お母さんの木」のキャンペーンで鹿児島市を訪れ、市内の西田小で児童に原作を読み聞かせた。作品は息子たちを戦争に取られ、そのたびに庭に桐の木を植えて無事を祈った母親が主人公。西田小では、映画で母親役を演じた鈴木さんの感情豊かな表現に、児童や保護者からすすり泣く声が漏れたという。
 その鈴木さんは昨年の毎日映画コンクールで田中絹代賞を受賞している。個別の作品というより、映画の世界で偉大な功績を上げた女優に贈られる賞。由来となった田中絹代(1909~77)は「愛染かつら」「楢山節考」「赤ひげ」などに出演した昭和を代表する女優の一人だ。鈴木さんは今年2月に川崎市であった授賞式で「あまりにも大きな賞で半信半疑。日本の女性らしい女性を演じられるよう、賞の名に恥じることのないよう努力したい」と語っている。
 ところで、その田中絹代が出演した「陸軍」という映画をご存じだろうか。太平洋戦争末期、1944年の松竹大船作品で、監督は木下恵介。日清、日露、日中戦争へと続く軍人一家3代の人生を描く。「陸軍省後援」の肩書きがついた。
 この映画で有名なのはラストシーンだ。日中戦争に出征する兵士の隊列と、人混みをかき分け、息子の姿を目に焼きつけようと懸命に隊列を追い続ける母親の姿が延々と映し出される。死地に赴く息子を送る母親の締め付けられるような悲しみ。作品は陸軍省が期待した勇壮な戦意高揚映画ではなく、大胆な“反戦映画”となった。母親役を演じきったのが、当時35歳の田中絹代だった。
 映画「陸軍」から70年余り。今回、鈴木さんはどんな母親役を演じてみせるのだろうか。作品が現代と戦争中と時間軸を行き来するというのも興味深い。「おかあさんの木」は6日から全国公開されている。
  鹿児島支局 ・西貴晴 2015/6/16 毎日新聞鹿児島版掲載

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