はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

その日

2011-03-15 14:16:20 | ペン&ぺん
 繰り返されるテレビ映像に息をのみ、言葉を失った。
 11日午後、東北地方を襲った巨大地震。船や車や家屋を押し流す津波。田畑やビニールハウスが続く農地を覆っていく。避難を急ぐ車。そのあとを追うように黒褐色の津波が迫る。ヘリコプターから撮影した映像だ。
 小中学生時代、宮城県仙台市の近郊で過ごした私にとって、そこは懐かしいはずの場所だった。自転車で友だちと駆け回ったことなどを思い出す。
 「落ち着いて行動してください。高台に避難してください」。そうアナウンサーが繰り返す。高台? 中学生が自転車で海辺まで行ける平地だ。田んぼや畑が続いていたはずだ。高台などあった記憶はない。
 やがて津波は、鹿児島の沿岸部にも達した。翌12日は九州新幹線全線開業の日。JR九州などの記念式典や祝賀行事が中止になったとの連絡が次々に入った。記者の取材配置や紙面取りを再検討する。
 深夜も、震災報道は続く。死者・行方不明者の数が増えていく。福島第1原発で放射能漏れの恐れがあり、周辺住民に避難を求めているとの情報が流れる。
 どのチャンネルも燃え続ける街並みの画像を映し出す。自衛隊のヘリコプターが上空から撮影したものだ。
 夜が明けた。12日朝。テレビから、聞き覚えのある地名が繰り返し流れる。多数の死者が出ている被災地の名。今年の正月に届いた年賀状を取り出し、友人の住所を確認する。同じ地名だ。
 JR鹿児島中央駅から新幹線の「一番列車」が出発した。鹿児島から青森まで、新幹線でつながるはずのその日。東北新幹線は震災で全線運行を見合わせている。
 鹿児島の沿岸では、フェリーなど客船が港に近づけず、沖合に停泊したまま。津波警報が解除されないためだ。記事を短く本社に送った。
  鹿児島支局長・馬原浩 2011/3/14 毎日新聞

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