はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

快挙

2009-06-29 23:25:18 | かごんま便り
 全盲のピアニスト、辻井伸行さん(20)がバン・クライバーン国際ピアノコンクールを制した。テレビのニュースでも新聞紙面でも、暗くやるせない話題が多い昨今だけに、心躍らせた人も多かったのではないか。

 2ヵ月ほど前、彼のDVDを偶然買い求めた。情熱的な演奏で、力強い指さばきと全盲とは思えぬ思い切りのいい打鍵に驚嘆した。日々愛聴しているから、今回の快挙はことのほかうれしい。

 クライバーン氏(1934~)は58年、第1回チャイコフスキー国際コンク-ルの覇者だ。東西冷戦下、旧ソ連が国の威信をかけ、郷土の大作曲家を冠したコンクールを創設した。自国の高い文化水準を世界に発信する狙いのはずが、ピアノ部門の初代王者はこともあろうに仮想敵国のぽっと出の若者。一方、米国民は狂喜乱舞。凱旋パレードまで挙行され、レコードは飛ぶように売れた。

 そんな国家的英雄にちなんで62年に誕生したのが今や米国を代表する音楽コンクールと言われるクライバーン国際ピアノコンクールだ。辻井さんは中国のピアニストと優勝を分け合ったが、日本人が頂点に立ったのはもちろん初めてである。

 スポーツの場合、五輪やW杯での活躍は最大の勲章だが、音楽コンクールはプロヘの登竜門に過ぎずキャリアの頂点を意味しない。事実、クライバ-ン氏は華々しいデビューに比べると、その後は今ひとつでどうも「一発屋」の印象が強い。

 点字毎日文化賞を受けた同じく全盲のピアニスト、梯剛之さん(31)にも言えることだが、ハンディばかりが注目されるのは正当な評価につながらないおそれがある。辻井さんには今後、キャリアを積む中でさらに大きく成長してほしいし、目が見える見えないに関係なく、純粋に演奏自体が評価されることを願う。そして近いうちに彼のピアノが鹿児島で聴けることを心待ちにしている。

鹿児島支局長 平山千里 2009/6/29 毎日新聞掲載

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