はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

2010-08-01 16:35:17 | はがき随筆
 雷が鳴るといつも思い出す。中学1年生の時、母とたんぼでとても怖い思いをしたことを。
 母はクワで泥をすくい畦を、お菓子のように仕上げている。私は近くで草刈りのまねや、泥をつぶしたりして遊んでいた。
 ピカッ、バリバリ、ズドーン。耳をつんざくものすごい音と光。母は悲鳴を上げる私に「鎌を捨てて!」と叫び、飛びかかり素早く土手の片隅にうずくまった。大雨と雷鳴は容赦なく襲い、必死に守る母のときめく胸の下で耳をふさぎ、祈る思いで通り過ぎるのを待った。
 ずぶぬれのまま雷の怖さに驚き、しばらく抱き合っていた。
  薩摩川内市 田中由利子(69) 010/7/30 毎日新聞鹿児島版掲載