はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

合歓の花

2011-08-14 18:25:52 | はがき随筆


 おれんじ鉄道で沿線の景色を堪能していた。出水の見慣れた景色も、一段高い電車の中から見ると違って見えて面白い。
 阿久根市では街路樹に合歓の木が植えてあった。ちょうど花盛りだ。日ごろ見上げるだけの合歓の木を見下ろす形となった。その花が空へ向かって咲くのを知った。薄紅色のレースみたいに大ぶりの愛らしい花は、不意に私に幼児の晴れ着を連想させた。震災で多くの幼児が亡くなったと聞く。今年の合歓の花は幼くして逝った子らへの鎮魂の花だと、胸が熱くなった。
 遠く離れていても震災が心から離れることはない。
  出水市 清水昌子 2011/8/4 毎日新聞鹿児島版掲載

アクシデント

2011-08-14 18:19:42 | はがき随筆
 夜、夏の間網戸にしてある北の高窓を閉めようと、暗がりを急いでいて、左足に激痛が走った。しまい忘れの掃除機のコード収納の穴に、小指だけ突っ込んでしまったのだ。困ったことに骨折したらしい痛みだった。
 翌朝、病院へ行きレントゲンを撮ってもらうと、小指の付け根の骨が斜めに折れていた。若い医師は小指を引っ張ってずれを直すと、小指と薬指をテープで固く巻いた。
 「処置は終わり。かかとで上手に歩いてください。また来週」と私を見て笑った。簡単な手当を不安がったと察しての笑顔だ。痛む足をいたわり辞した。
  薩摩川内市 森孝子 2011/8/2 毎日新聞鹿児島版掲載

除草に奮闘

2011-08-14 18:04:04 | はがき随筆


 私の自宅近くの病院に、月1回母を診察するため、施設より所長さんと介護士さんが連れて来られ今回は、再訪の電話があり。
 さあ準備。庭掃除、草取り、ガーデンセット、紅茶に菓子。
 間もなく見えた。車イスの母はようやく車外に出て、庭園を鑑賞。ハイビスカスを背景に、記念撮影。自然の空気と緑を満喫された。お土産に肥後メロンの特大をあげ全員笑顔で帰って行かれた。ほっと一息。残りの除草を始めた。夢中になると手先が器用に動き、歩道の方へ。
 通過中の車から下車した初老の紳士が「感心ですね」と満面の笑みで賞賛。ほめられ奮闘。
   肝付町 鳥取部京子 2011/8/2 毎日新聞鹿児島版掲載

かわせみ

2011-08-14 17:52:12 | はがき随筆


 「かわせみ」「どこ?」「こっち来て、あそこ」。いた! 皇族だけがお渡りになる石堤の上に。
 るり色の小さな鳥と目が合った。「バイバイ」と言ったかどうか。それくらいのゆとりを見せ、かわせみは川向こうの深々とした木立へ姿を消した。
 「大きな鯉がいる。彼は鯉を狙っていたんだ」「あんなにちっちゃいのに無理」「冷蔵庫にしまっといてね、少しずつ切って食べるつもりだったんだ」
 おかしなおとぎ話だと笑いながら見上げると、空が天真爛漫なこの人の心を写して青く澄み渡っていた。
  鹿屋市 伊地知咲子 2011/8/1 毎日新聞鹿児島版掲載

すまなかったね

2011-08-13 07:08:53 | はがき随筆


 4月、燕が車庫に巣作りし、ひな育ちも順調そうだった。
 ところがある日、巣は無残に壊され亡きがらも散っていた。さてはカラスめと思い侵入路に網を張ると、新カップルがそれをくぐり抜けて巣を作った。
 やがて、どうやら猫だとわかり、ジャンプ台の車を外に出した、親燕は安心したのか時には私の肩近くに止まってくれた。かわいい小さな目をして。私も口笛で勝手に応援をした。
 なのにまたも猫にやられてしまった。油断して車を一時、元に戻してしまったせいだ。
 ほんとにすまなかった。3度めのひなは元気に飛び立った。
  出水市 松尾繁 2011/7/31 毎日新聞鹿児島版掲載

親子の関係

2011-08-13 07:01:32 | はがき随筆
 思うに、親子関係にも悲喜こもごもの情景が余りに多い。愛と憎しみは表裏の関係だ。例えば、食事を減らして子に与える親、初任給を届け親を旅行させる子、季節ごとに旬の物を子に贈り故郷をしのばせる親、老老介護親を心底支える子など。一方、愛する幼児にやいばを加える母、ギャンブルにおぼれ子の学資の滞る父、介護疲れを理由に親の命を絶つ子、醜い遺産分けなど枚挙に暇がない。
 テレビで、草原の鳥獣の慈しみに満ちた子育てを見るたび、人間の親子関係のもろさに憤慨する。欲を捨てもっと純粋な人間になれないかと心底悩む。
  薩摩川内市 下市良幸 2011/7/30 毎日新聞鹿児島版掲載

赤い半月

2011-08-13 06:33:43 | 女の気持ち/男の気持ち


 私が9歳の時のこと。夏休みになると熊本県水俣市袋の祖父母宅へ何回も行って泊まった。蒸気機関車で鹿児島県の米之津駅から隣の袋駅まで行った。冷水が飲める駅前の井戸端を通り、桜並木を歩くとすぐに祖父母の家に着いた。クマゼミが激しく鳴いていたものだ。
 掘っ立て小屋のような家の土間に立つと、すぐ前にいろりを切った板間があった。一段高い右手には仏壇があり、壁には戦死した息子2人の軍服姿の写真があった。半裸の祖父の右肩には日露戦争で受けた銃弾の傷跡が見えた。明治天皇からいただいたという勲章も見たことがある。
 祖父母は戦死した息子の年金とわずかな借地の農業で生計を立てていた。夏期にスイカを作り、水俣の市場まで担いで出荷した。商品にならないスイカをもらって帰るのが、小学生の私の任務だった。
 風呂敷に4個も包むと重いものだった。米之津駅から家までの3㌔を、割らないように歩かねばならない。が、苦にはならなかった。私は家族の喜びを運んでいたからだ。
 祖父母の家に泊まると、翌朝、夜明け前に祖父はスイカ畑へ私を連れて行った。朝露にぬれたスイカを左利きの祖父は巧みな鎌さばきで割った。冷えたスイカは腹の底の底まで染みわたったものだ。
 今年もまたクマゼミの声を聞く。そしてスーパーで赤い半月のようなスイカを見る。たまらなく切なくなる。
  出水市 中島征士 2011/7/30 毎日新聞の気持欄掲載

梅雨と野菜

2011-08-13 06:27:09 | はがき随筆
 梅雨時の野菜づくりは、哀れだ。今年は特にひどかった。畑は水浸しになり、多くの野菜が腐ってしまった。ゲリラ豪雨が何回も襲って来ては防ぎようがなかった。春、夏を楽しみに種まきから始めた野菜づくりだった。
 梅雨に入るまでは順調で、おいしく楽しんでいた。ネット内のトマトまでも小鳥にやられ、他の野菜も日照不足で生育が悪かった。自給自足を目指した野菜づくりは悲しかった。
 今度は命がつながっている野菜に土寄せ、追肥などをし、好転を望みたい。息を吹き返す野菜を静かに待つとしよう。
  出水市 畠中大喜 2011/7/29 毎日新聞鹿児島版掲載

球技と王座

2011-08-12 15:02:56 | ペン&ぺん

 なでしこジャパンに国民栄誉賞。それが最近の明るいニュースだった。心躍る話題は紙面上、貴重に思える。
 何度もリードされ、追いついた末の世界一。たかが球技とはいえ、されど球技。国民栄誉賞は当然だ。粘り強さ、国民的人気。贈る側の菅直人首相が、あやかろうと画策した訳ではないだろう。
 まさか。あやかれるものでもないから。
   ◇
 球技は、いつ、どこで生まれたのか。そんな疑問を浮かべながら、そのボールに触れてみた。
 直径約15㌢。天然ゴム製で重さは約3.5キロ。幼稚園児が遊ぶには重すぎる。暗褐色で見慣れない熱帯の果物のようだ。
鹿児島市城山町の黎明間で開催中のオルメカ文明展の一角にあった。紀元前1500年ごろ、メキシコ東南部に栄えた文明。その遺跡からはゴムの木の樹液から作ったボールが見つかった。球技に使われたとされるが、その球技は宗教的で儀式的なものだったかもしれない。
オルメカ文明展最大の見ものは、巨石人頭像。高さ1.8メートル。重さ4㌧を超す。耳の片方はヘルメット状のかぶり物で隠れている。この大きな顔も戦士か球技の競技者だろうと推定されているという。
   ◇
ヒスイを研いで使った斧や水路に使用したU字溝など高度な文明を感じさせる展示物の中で、もう一つ、目を引く物がある。それは、高さ1㍍弱の王座。石製で小さな人二人が台座を支えている姿が彫られ、獣の皮をかけて使ったらしい。
この王座に腰掛けて、オルメカの為政者は球技を眺め、勝者をたたえたのだろうか。
もちろん、今の権力者は球技の勝者を賞賛するだけでは成り立たない。いわずもがなの事柄を思い浮かべて、会場をあとにした。
ちなみに、オルメカ文明展は9月3日まで。

鹿児島支局長 馬原浩 2011/8/8 毎日新聞鹿児島版掲載

今こそ「農」

2011-08-10 11:45:31 | ペン&ぺん
放射性セシウムを含む稻わらを食べた牛。それが問題化したのは7月上旬のこと。東京の市場に入荷した牛肉から規制値を超すセシウムが検出された。
 原発事故の被害。東日本の農家や消費者は、さぞや不安だろう。そう考えていたところ、鹿児島県内でも同様の牛肉が流通していた。県内流通分を検査した結果、いずれも暫定規制値以下か「大量に食べても害のないレベル」とされたが、対岸の火事のように思ってた自分の不明を恥じた。
   ◇
 思えば、昨年は春から夏にかけて隣県、宮崎で口蹄疫(こうていえき)が発生。被害拡大を防ぐため、畜産農家が対応に追われていた。
 昨年、毎日新聞が募集した農業記録賞・高校生の部では、まさに宮崎からの応募作が優秀賞を獲得した。田崎勇樹さん(当時、県立高鍋農業高3年)が書いた「和牛生産への道」。高校の牧場で疑似患畜が見つかり、飼育していた牛や豚をすべて殺処分。移動制限で3カ月間、故郷の高千穂に帰省できなかったことなどをつづった。
 「防疫に対する心構えや対策強化に高い意識をもって取り組まなければならないと強く実感しました」。そう書かれた入賞作を改めて読み、困難な出来事からも何かを学んでいこうとする姿勢に感じ入った。
   ◇
 その毎日農業記録賞。今年も作品を募集しています。一般の部、高校生の部ともに農家や農業高校の生徒だけでなく、広く「農」や「食」、「環境」に興味関心のある人が対象。体験や提言などをA4判4000字程度でまとめ、毎日新聞鹿児島支局へお送りください。締切は9月6日(消印有効)。
 原発事故の影響が広がる。こんな時だからこそ農業の大切さを書き記すことが求められているはず。
 どうぞ、ふるって、ご応募を。
 鹿児島支局長 馬原浩 2011/8/1 毎日新聞掲載

「梅に寄せて」

2011-08-08 21:12:24 | 岩国エッセイサロンより
2011年8月 8日 (月)

岩国市  会 員   横山 恵子

朝市で同級生が梅みその作り方を教えてくれた。先日もらった梅は母が梅干しにした。そうだ。まだ梅の木に実が。悪戦苦闘してもいだら約1キロあった。昨年までは、なりっぱなしだったなあ。水に数時間浸し冷凍庫で凍らせ、瓶に梅、砂糖、みそを入れてでき上がり。

 熟成するまで1カ月の辛抱。梅は花も実も長く愛され続けてきた。脈々と受け継がれてきた自然の恵みに感謝。実には栄養はもちろん、血液を改善させ、肩こりにもいいんだって。

 しっかり食べて、梅干しじいさんになるまで、長生きしてくださいね。

(2011.08.08 毎日新聞「はがき随筆」掲載)