はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

茶わん虫の歌

2013-09-23 19:12:07 | はがき随筆
 里帰りした孫にかごっま弁講座を開いた。まず、つらの名称からびんた、みん、くっ(首)くっ(口)……と教えたが首を傾げたので、あっじゃっ!「茶わん虫の歌」をと歌ってみた。
 ♪うんだもこらいけなもんやあたいげんど茶わんなんだ日に日に三度も洗るもんせばきれいなもんごわんさ 茶わんに付いた虫じゃろかい まこてげんねこっじゃ わっはっは~と♪すると、テンポが良かったのか、すぐ覚え歌い出した。
 これが契機となり、かごっま弁の良さを知ってくれたらと、ほのぼのとした気持ちになった。
  さつま町 小向井一成 2013/9/19 毎日新聞鹿児島版掲載

重宝

2013-09-23 17:46:59 | はがき随筆
 確か6月中旬、斎藤明・元毎日新聞社社長永眠の記事に、書評欄「今週の本棚」を誕生させたとあった。活字離れを問われて久しいが、字を書かなくてもキーをたたくと文字が表れる時代の代物に、書籍離れを危惧した氏の先見性に感服する。
 読書欄改革には紆余曲折があったと推察する。8月22日の「余録」に「改革には不退転の決意で」「改革を断行する困難さは国や時代を超えて共通する」に共感する。おかげで日曜版の今週の本棚で紹介される書籍評に読みたくもなりまた、読んだ気分にもなり、私は重宝している。
  出水市 宮路量温 2013/9/23 毎日新聞鹿児島版掲載

ようかん

2013-09-23 17:33:59 | はがき随筆


 お盆に息子から供え物が届いた。どっしりと重量感のあるようかんは、亡夫の好物だった。満悦した顔が浮かぶ。思えば入院中、病院食以外にこっそりとようかんとシュークリームを持っていったことがあった。
 「お父さん、どっちを食べたい?」と娘が聞くと、にこっと笑って「シュークリームにしようかな」と、ちょっと照れたような表情に思わず娘と顔を見合わせ笑った。あの日の笑顔がつい、この前のことのように思い出される。あれから2年半、今もようかんとお茶のセットでお供えしている。時にはシュークリームもいいかな。
  鹿児島市 竹之内美知子 2013/9/22 毎日新聞鹿児島版掲載

初秋

2013-09-23 17:22:05 | はがき随筆


 日の出が遅くなり、その前の朝焼けの空が美しい季節。いつのまにか蝉時雨が消えて。昼の残暑は厳しいが、朝夕の風はもう、秋のものである。庭先やあぜ道に赤い彼岸花が咲き、紫色の葛の花が風情を添えている。
 今、早朝散歩が素晴らしい。朝早く起き、朝食を済ますと、すぐ歩く。夏が終わり、冬を迎えるまでの短い秋。寂しい季節ではあるが、妙に落ち着き、何をするにもいい時季である。
 残り少なくなった人生だが、自然を大事にし、自然の美しさの中に溶け込んで生きてゆきたい。朝のひととき、そんなことを考える。
  出水市 橋口礼子 2013/9/21 毎日新聞鹿児島版掲載

秋の味

2013-09-21 22:34:52 | アカショウビンのつぶやき


友人から一足早い「秋の味」が届きました。
熟し柿が大好きなアカショウビンにと、トロットロの甘ガキです。

「名前は知らんけど、柔らかくておいしいんだよー」と
庭からもいで届けてくださったのです。

早生柿なんでしょうが、特別早い品種なんでしょうね。
おいしく、おいしく頂きました。

「笑顔の閻魔大王」

2013-09-21 22:09:54 | 岩国エッセイサロンより
2013年9月21日 (土)

 岩国市  会 員   吉岡 賢一

 笑顔のすてきな看護師さんに言われるまま舌を出した。途端にガーゼでつかまれ力任せに引っ張られる。その痛いこと痛いこと。涙と脂汗が顔をぬらす。地団太踏んでも離してはくれない。子どもの頃に聞かされた閻魔大王と看護師さんの顔が重なる。喉に刺さった異物。「これが犯人です」。医師の持つピンセットの先に5㍉に満たない魚の小骨。舌を抜かれるまでには至らなかったが、その苦痛の大きさは容易に想像できた。
 そのはずみで「今後はうそをつきません」と誓った。数十年を経た今、その時の痛みを忘れ、方便を使いこなす自分がいる。

 (2013.09.21 毎日新聞「はがき随筆 文学賞特集『うそ』」掲載)岩国エッセイサロンより転載

タチウオ釣り

2013-09-20 21:51:46 | はがき随筆


 水俣の湯の児を出た漁船は白波を立てて天草に向け進む。昨夜、妻の弟の退職祝いで二日酔いの頭をなぎの潮風が冷やしてくれる。30分で五所浦沖に着く。先着のタチウオ釣り舟から歓声が聞こえる。身内5人のボルテージが上がってきた。
 初めに釣ったのは義弟のT。スマートで銀白色のきらきらと光るタチウオに皆が「きれい」を連発する。続いて義弟のKが次々と釣り上げる。私の糸が強く引いた。「きたぁ」。獲物は60㌢の大物だ。はしゃぐ私に義妹2人が拍手喝采で喜ぶ。
 2時間かけて二十数匹の収穫。既に朝日は昇っていた。
  出水市 清田文雄 2013/9/18 毎日新聞鹿児島版掲載

プレゼンテーション

2013-09-20 20:09:52 | ペン&ぺん

 8日は眠たかった。2020年の東京五輪開催が気になり、夜通しテレビを見たからた。「無理かな」と諦めていたので、私も興奮して、結局眠れなかった。
 皆さんも何度もご覧になったように、高円宮妃久子さま、パラリンピックの佐藤真海選手、そして滝川クリステルさんの「おもてなし」の心などいずれのプレゼンテーション(企画案の提示、説明)も素晴らしかった。阿部晋三首相は福島第一原発について「状況はコントロール下にある」と世界注視の中、言ってのけた。先に福島で日本で言ってほしかったが、あの席で国際公約を述べたのだから、あとは約束通り実行してほしい。
 ついにイプシロンロケットも打ち上げ成功。ロケットの射場がある内之浦宇宙空間観測所を支えてきた肝付町の人たちはごう音を上げ上昇していく機体に感激もひとしおだっただろう。県内外から2万人が訪れたといい、改めて「ロケットの町」を全国に知ってもらえたのではないか。地元は官民挙げて受け入れに細心の注意を払い、遠方から来る人を待った。先月の延期時の再来訪者も多かったという。
 20年は鹿児島国対の年でもある。世界から五輪選手や多くの観戦者、観光客も来日する。五輪招致活動で「プレゼン」が、またイプシロン打ち上げで地元の「おもてなし」がいかに大切かが、分かった。7年後は鹿児島が誇るこの自然や歴史、文化遺産などを広く紹介、PRし、多くの人を鹿児島に呼び込みたい。
 大震災に見舞われ、原発事故も起きたが、日本の説明に納得ができたから、世界のIOC委員は東京に投票した。なぜ必要か、納税者が納得できる説明を、知事がもっと上手にプレゼンしたならば、違う結果になっていたかもしれない。プレゼン軽んずべからず。
鹿児島支局長 三嶋祐一郎  2013/9/17 毎日新聞鹿児島版掲載

5分の1

2013-09-20 16:46:41 | はがき随筆
 僕の12歳の夏から母はリウマチで6年間ふしていた。母の口から毎日、料理の仕方を習っていた。母亡き今でも懐かしい母の味を再現している。
 上等で高価な髪切りハサミを新婚の妻に渡して行った。「これからこれで散髪を頼むよ」。妻は驚いていたよなあ。専門家に研いでもらって大切に使い続けたハサミは40年余りで2本目だ。
 今日も妻に散髪しいもらったが、当然のことなから、なんてこっちゃ! あの頃は切られた髪はツヤツヤして量も多かった。妻は何も言わないが、量も黒さも5分の1だ。僕の人生の残りもーーー!
  出水市 中島征士 2013/9/17 毎日新聞鹿児島版掲載

初秋

2013-09-20 16:32:28 | はがき随筆

 夏空を彩ったサルスベリが色あせ、朝の空気も肌に冷たく感じる。そんな雨の朝、旧知の友が訪ねてくる。あいさつもそこそこに駆け寄ってくる。「雨の日は夫と2人でしょ。息が詰まるの」と、ひとしきりの鬱憤話に「まあ、羨ましい」と返すと「うまくいかないものね」とお互いにため息。話は尽きず、ありあわせの昼食を楽しむ。
 愛する人を失ったが、生きがいは日々の暮らしの中にあることに気付かされる。子供たち、友人、仕事、書き物をすれば、そばに寄る愛犬のぬくもり。小さな幸せを数えてみる。開き始めたコスモスを目で追いながら。
  出水市 伊尻清子 2013/9/16 毎日新聞鹿児島版掲載

ペットの盆供養

2013-09-20 16:22:51 | はがき随筆
 「当園では毎年、ペット達の盆供養をしています。読経と法話をお願いしたいのですが」という、ペット霊園からの電話である。
 行ってみて驚いた。40人~50人収容できるホールは満員で、入り口の外にテントを張るほどの参列者である。家族の一員として暮らしたペットとの断ちがたい絆を私は感じた。
 読経の後、東京の渋谷駅前に建つ「忠犬ハチ公」の話をし、ペット達にも、犬のハチのように、飼い主に対する深い思いがあるのでは、などと話した。
 参列者の中には、在りし日を思い出してか、目に涙が……。
  志布志市 一木法明 2013/9/15 毎日新聞鹿児島版掲載

お礼とお詫び

2013-09-14 16:21:49 | はがき随筆
 夫は、朝も昼も食前にビールを飲み、夜は入念な晩酌をする。
 幼い頃、日がな酒浸りで時々暴れるおじさんが近所にいた。なぜかこのおじさんとだぶってイヤーな気分になる日がある。
 Hさんに電話した折に愚痴ったら「アハハ……。好きなだけ飲ませてあげんネ。飲める時が良か時ヨ」と。本欄に載った闘病記でご主人の病が重いと知っていたのに、無神経な話をして悪かった。自分のことばかりに必死になって人様の痛みなど考える心のゆとりを失っていた。明るく接していだき本当にうれしかった。ありがたかった。ご忠告どおりにしてみます。
  鹿児島市 馬渡浩子 2013/9/14 毎日新聞鹿児島版掲載

苦悶の日々

2013-09-14 16:15:53 | はがき随筆
 私の頭は混乱する。私が作った料理に、91歳の母は食べもしないで悪態をつく。そして一口食べて「うまい」を連発して喜ぶ。その言動が理解できず、私は腹を立て悩む。
 母に尽くす、裏切られる。思い直して、また裏切られる。何事も母一番に考え、尽くす気持ちが萎える。それでも、子は親に尽くさねばならないのか。苦悶の日々が続く。
 親に子が、尽くすのは当然のことだ。でも手に余る。母の言動に私は疲れた。できることなら、母を置いて、私はどこか遠くへ行きたい。がんたれ息子である。
  出水市 道田道範 2013/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載

台風一過

2013-09-14 16:09:37 | はがき随筆
 台風が来るという。風は30㍍くらいだという。
 そんなの怖くないと思ったが、手塩にかけて一心に水をかけた愛すべき菊が10プランターある。
 足の不具合で全部玄関に入れる力がないから「ごめんね、頑張って」と、つぶやき戸締りをした。
 翌朝、午前4時過ぎ、風も雨も全くないので、外へ出るとコスモスが7本ひっくり返っただけ。レモンも菊のプランターほか、庭は大丈夫で安堵する。
 ラジオ体操の頃、西空には太い虹さえいで、今日の平穏を約束してくれる。
  鹿児島市 東郷久子 2013/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載

父が見た星空

2013-09-11 16:13:14 | はがき随筆
 4年前、父の膵臓に大きながんが見つかった。87という年齢を考慮して一切治療を受けないことにした。自宅でゆっくりと好きなように過ごした日々。死ぬ1カ月前には和室にベッドを入れ、寝起きするようになった。訪問診療を受けながら最後まで家族と生活し、私の作ったプリンを毎日口にしてくれた。
 ある日の昼下がり、ベッドでじっと天井見つめている父に母が聞いた「何見てるの?」「星」「え?」と聞き返すと「星だよ。スター」と言ったそうだ。私も星空が大好きだ。人生の最後に板張りの天井に星が見えたら、ちょっと幸せかもと思う。
  鹿児島市 種子田真理 2013/9/11 毎日新聞鹿児島版掲載