はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

明日があるよ

2013-09-11 16:06:18 | はがき随筆
 長女に長男が生まれた。初孫だ。長女も初産で、なりたての母親として子育ての不安がまだ先行している。妻の友達がお祝いに産院を訪ねてきた。談話室で自分のめいの体験を話し、娘に励ましの言葉をかけいてた。
 隣のテーブルで若いお母さんが、大きな声で携帯電話に必死に語りかけている。どうやら「離婚届と出生届のどちらを先に出すべき」か、行政と配偶者の母に相談しているようだった。
 新米の母子がさまざまな人生のスタートを切る産院。その日のことを笑い話で語れる日が早く来ることを願って「明日があるよ」とエールを送りたい。
  鹿児島市 高橋誠 2013/9/10 毎日新聞鹿児島版掲載

親の宿題

2013-09-11 16:00:53 | はがき随筆
 娘が小学校に入学して初めての夏休み。宿題がこれ程大変とは思わなかった。
 まず、自由研究。いくつかのテーマから選ばせた結果、アイスキャンディを氷と塩を使って作る実験になった。
 やる気があるのは最初だけ。すぐに飽きてしまう。欲張ってジュースをできるだけ多くし、凍らないとすぐに「飲んでいい?」。結局、私だけが必死になって完成させた。
 次に、読書感想文。長い文章を書いたことがないそうで、すぐ疲れてしまう。誘導するのも一苦労だ。「親の宿題」はまだまだ終わりそうにない。
  鹿児島市 津島友子 2013/9/7 毎日新聞鹿児島版掲載

冠水時 運転に配慮を

2013-09-11 15:57:50 | 岩国エッセイサロンより
2013年9月11日 (水)

   岩国市  会 員   片山 清勝

 大雨で膝下まで冠水すると、舗道や側溝など道の状態は全く分からない。それでも通らなければならない人や車はある。そんなとき、ひどい運転マナーの車を何台か見た。
 冠水した道路を減速せずに走り抜けると、水しぶきが車高より高く左右に飛び散る。映像的には迫力があるが、水しぶきは閉じている商店のシャッターやフェンスをたたき、大きな音を立てる。運転者は分からないのだろうか。
 さらに怖いのは、歩いていいるとき。押しのけられた 水が強い波となって襲ってくる。不意打ちなら、子どもでなくても転倒するほどの力がある。狭い道では、しぶきも波も避け切れない。
 道路冠水で自宅や職場などへの心配が先に立つのだろうか。急ぐ気持ちが気遣いを失わせるのだろうか。
 でも大方の車は、慎重に迷惑の掛からないように静かな運転をしている。それがマナーだろうし、自分の安全にもつながる。周囲ヘの配慮を保った運転を心掛けたい。
    (2013.09.11 中国新聞「広場」掲載)岩国エッセイサロンより転載

「悩ましい折れ合い」

2013-09-10 16:32:06 | 岩国エッセイサロンより
2013年9月10日 (火)

   岩国市  会 員   山本 一

 月下美人の開花を待ちながら、趣味仲間と庭で酒盛り。年のせいで耳が遠い上に酒が入り、大声の会話が行き交う。住宅密集地でご近所とは近い。連日の猛暑で窓も開いているだろう。「うるさい」というお怒りの声が今にも飛んで来そうで、ハラハラする。今年はなぜか開花が遅く、22時になってもまだ三分咲き。満開を見ないまま午前様。さすがに気が引けてお開き。

翌日は違う株が続いて開花。前夜のおわびも兼ねて、この日はご近所の有志と酒盛り。フルートとハーモニカの余興も加わり、楽しいが気が気ではない。迷惑との折れ合いに悩む。
  (2013.09.10 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

塩っぱいスイカ

2013-09-09 16:32:40 | はがき随筆

 スイカ好きな私だが、今年のスイカは、なぜか涙を誘う。娘の舅の初盆が済んだ。生前、孫2人に愛情のこもったおいしいスイカを食べさせようと、遠くから苗を取り寄せ、ビーチボール大のものを育てておられた。なのに1年余りの入院の末、願いもむなしく天に召された。残念な気持ちも含め、彼らにはそのおいしさが記憶にとどまることだろう。姑が後を引き継ぎ、牛を飼育、スイカも栽培され、食した後のスイカの皮は牛の餌となり有効利用されている。スイカを食べる度、涙がこみ上げ、甘塩っぱいスイカになってしまったことは言うまでもない。  
  鹿屋市 中鶴裕子 2013/9/8 毎日新聞鹿児島版掲載

「備えあれば」

2013-09-07 14:34:21 | 岩国エッセイサロンより
2013年9月 7日 (土)

岩国市  会 員   吉岡 賢一

 テレビを見ていた4歳の孫が「じいちゃん、ジシン地震」と大声で叫ぶ。画面をよく見ると「大雨洪水警報」のテロップが流されていた。どこで誰に教わったのか、テレビに流されるテロップは、どれもこれもみな地震速報だ、と思い込んでいる様子。
 「地震がきたらどうするの」「そりゃ、もぐるんよ」。言いながら、食卓の下に身をかがめる。こんな幼い子の心にも、とっさの地震対策は植え付けられている。次は、大雨や台風への備え、津波時の避難方法など、分かりやすく話して聞かせよう。「自分の命は自分が守るのだ」と。
   (2013.09.07 毎日新聞「はがき随筆」掲載) 岩国エッセイサロンより転載

「忘れない声」

2013-09-07 14:31:06 | 岩国エッセイサロンより
2013年9月 6日 (金)

岩国市  会 員   安西 詩代

「よう、おいでました」という母の声が聞こえた。お盆の墓参り、掃除をして、手を合わせながら思い出した。
 幼い頃、転んで泣きながら帰り、洗濯せっけんの香りのする白いかっぽう着に抱きつくと、母は「ほんこ、ほんこ」と頭をなぜてくれた。その言葉のひびきで、痛さを忘れてしまった。少し大きくなると「あなたが一番可愛い」という言葉が、うっとうしく重く感じられた時期もあった。
 いつまでも、母の声で思い出す言葉がいくつかある。私も、そういう声を子供たちに残しているのだろうか。
 (2013.09.06 毎日新聞「はがき随筆」掲載) 岩国エッセイサロンより転載

追悼歌文集

2013-09-06 18:07:27 | はがき随筆


 12年前に拙い歌文集を出した。その時は夫も母も健在で、私たちは幸せいっぱいの日々だった。その6年後に夫が急逝しようとは思ってもみないことだった。今度、夫と母の写真も載せて追悼集「夫を待つ庭」を出した。題は次の拙歌より取った。
 三度目の夏めぐり来ぬゆふすげと桔梗咲く庭夫を待つ庭
 短歌とはがき随筆、女の気持のミニエッセーをまとめたもの。夫と母の生きた証しの本にしたかった。何よりの供養ですねと言ってもらえるのが、うれしい。夫の同級生や母を介護してくださった方々も喜んでくださったのが望外の幸せである。
  霧島市 秋峯いくよ 2013/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載

赤とんぼ

2013-09-06 17:04:54 | 女の気持ち/男の気持ち


 朝5時、妹と2人で実家の田んぼの草取りを始める。
 夜明け前のにわか雨は日照り続きにあえいでいた大地にあっけなく消えてしまった。それでも1カ月ぶりの雨、久しぶりの涼風に葉ずれの音が心地よい。
 「あっ、精霊様だ」
 「父さん、父さんが雨を降らせてくれたんよ」
 朝もやの中、草に覆われた稲田の上を死者の化身、赤とんぼが無数に飛び交っている。
 独り暮らしの母が、今もなお手放さないこの田んぼ。気力はあっても体力の衰えは土地の荒れ具合を見れば誰だって分かる。
 「姉ちゃん、限界よね」
 「うん、私から話すから」
 「母さん……」
 母の耳が急に日曜日になった。意に沿わぬ話、都合の悪い話になると、何も聞こえなくなるらしい。それでも構わず米作りをやめるよう説得する。
 「人の手を借りるようになった時が引き際。思い入れを思い出にかえて──」と。
 相変わらず押し黙り、お手上げ状態の田んぼをじっと見つめる母。
 帰り際、1匹の赤とんぼがバックミラーにとまった。
 「父さん、ごめんね。もういいよね」
 手伝うのは今日が最後と決めた私たち。発進と同時に赤とんぼは飛び去り、いつまでも手を振る母の姿だけがだんだんと小さくなっていった。
  北九州市 安元洋子 2013/9/6 毎日新聞「の気持」欄掲載

よみがえる

2013-09-06 16:48:05 | はがき随筆
 息子と娘が愛用していた剣道の防具が、海を渡りアフリカのモザンビークでよみがえることになった。現地では剣道の啓蒙活動が行われているとか。
 JICAシニア海外ボランティアで、剣道を指導するため赴任される志布志のSさんに託した。Sさんによると、世界の最貧国の一つで、貧困ゆえに治安も悪く、自分の部屋に入るのに四つの鍵を開けるとのこと。
 長い内戦状態が終わり、僅か十数年。この国で剣道が普及し、剣道の理念や日本人の勤勉さが国づくりに貢献し、一日も早く安定した豊かな暮らしが訪れますように……。
  垂水市 竹之内政子 2013/9/6 毎日新聞鹿児島版掲載

今自慢のもの

2013-09-04 16:49:42 | はがき随筆


 私は数年前、一部鉄骨を入れて、少し丈夫な緑のカーテン棚を造った。まずゴーヤーを普通のプランターに植えた。思わしくなく、緑化店の人に話すと「そのプランターではカーテンはできない。今年は辞めやんせ」。
 素人の大失敗。2年目は庭土を掘り起こし、露地植えにしてゴーヤーや朝顔などでカーテン作りをしてきたがうまくいかず、今年はヘチマにしてみた。
 そのたくましい成長力は猛暑の中、棚全体を緑で覆い立派なカーテンとなった。自慢ごとなどなかったが、今「緑」でささやかな自慢ができることは、年がいもなく、やはりうれしい。
  鹿屋市 森園愛吉 2013/9/4 毎日新聞鹿児島版掲載

飛べ、イプシロン!

2013-09-03 11:34:17 | ペン&ぺん
 
今夏、鹿児島から全国へ、世界へとニュースを発信した。先月18日に起きた桜島の爆発的噴火とドカ灰、27日のイプシロンロケットの打ち上げ延期。記事はインターネットでたちまち海外へ。支局の記者や私も国内外の友人、知人から「桜島の噴火は大丈夫か」と安否を尋ねるメールや電話が相次いで届いた。鹿児島市民、県民は過去にもっと大量の降灰を幾度も経験しており、落ち着いて対応していた。だが県外、国外の人には非常事態に映ったのかもしれない。
 「3、2、1……あれ?」イプシロン打ち上げ予定の午後1時45分前、私もテレビの前で童心に帰って秒読みをした。県外から夏休みを利用して肝付町まで見学に行った人は本当に残念だった。特に子供たちには、ごう音を上げて宇宙に向かうロケットを見せてあげたかった。
 私もかつて内之浦宇宙空間観測所から先代のM5などロケット打ち上げを取材したことがある。取材を重ねるうちに私もドキドキして打ち上げを待った。天に昇るロケットに「よし行け!」と手を振り、声援を送ったものだった。27日は県外ナンバーの車も多く、大勢の見学者でにぎわった。
 鹿児島には種子島、肝付町とロケットの射場がある。これは全国で鹿児島県だけ。江戸時代に天体観測をした天文館は有名だ。テレビがイプシロンの打ち上げ延期を報じてくれたおかげで全国の人が肝付町を知った。これを機に「宇宙に近い県」を更にPRし「宇宙を学ぶなら、体験するなら鹿児島へ」と盛り上げていきたい。
 全回、この欄で読書に触れたら「子供の頃に読んで心に残る本は?」と聞かれた。それは太宰治の「走れメロス」、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」、森鴎外の「高瀬舟」。さあ今度こそ我々に雄姿を見せてくれ「飛べ、イプシロン!」。
  鹿児島支局長 三嶋祐一郎 2013/9/3 毎日新聞鹿児島版掲載

カモのチャコ

2013-09-03 11:27:47 | はがき随筆
 小柄な茶色のカモは、堤防の上で立ち止まっている私の足元に怖がりもせず寄ってくる。その後を2羽が見守るようについてくる。これがカモたちとの最初の出会いだった。そのうち、私は茶色のカモに「チャコ」と名付け、呼びかけていた。眠る時も、泳ぐ時もいつでも2羽がチャコを守っていた。
 チャコは体も大きくなり、一人遊びをするようになったのか、突然いなくなってしまった。守るべき者を失った2羽のカモの寂しげな様子に胸が痛む。
 どこかで元気にしていればいいと思いながらも、私は今朝もチャコを呼び続けている。
  出水市 山室浩子 2013/9/3 毎日新聞鹿児島版掲載

母の魂

2013-09-03 11:20:52 | はがき随筆
 老人ホームの母の面会に、週2回は行こうと思っている。しかし、ついさぼってしまう。
 はやる思いで部屋に入ると、ベッドの母の顔は少しこわ張り、目はうつろである。いつものように必死で体をもみさする。すると和らいだ表情になり、じっと私を見る。そして「ありがとう」と言う。帰るまでさすり続けると「疲れるからやめなさい」。次に「忙しいから帰りなさい」と、か細い声で言う。
 名前も忘れているが、私のことは母の魂に届いていると確信し、ほっとうれしくなる。でもあと一言届けたい。「もう忙しくないよ。幸せだよ」と。
  出水市 塩田きぬ子 2013/9/1 毎日新聞鹿児島版掲載

マンジュシャゲの道

2013-09-02 22:28:06 | はがき随筆

 やぶから棒に手を引かれ、男の子は母の後ろを歩いた。母の実家までは約一里(4㌔)。素足の足裏に小石が痛い。道々、母は子に話しかけたのだろうが、男の子は全く応えなかった。
 父は海軍上がりの将校。度々母に手を上げた。母も向こう意気の強い女で、負けてはいない。真夜中に騒々しさで目を開くと、細く明かりの漏れくる隣の部屋で2人がののしり合っていた。生きていることを不幸だと思った。道は用水に沿って続き、あぜには怪しき色のマンジュシャゲ。1人残した父を思った。男の子は明日の朝、同じ道を1人で帰ろうと思っていた。
  霧島市 久野茂樹 2013/9/2 毎日新聞鹿児島版掲載