はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

刎頚の交わり

2015-12-24 22:10:20 | はがき随筆
 昭和三十三、四年ごろだっただろうか、世の中随分落ち着いて、食料も不自由なくなっていた。家族そろって夕食をとっていたとき、かねて厳しい父が大粒の涙を流し「禎二兄が死んだ」と言って涙と共に飯をかき込んだ。
 終戦前後、米は厳しい統制下におかれた。禎二おじは米の配給所を営んでいた。父はそこから闇米を得ていたようだった。私も運んだことがあった。これは米の横流しであり、露見すれば2人の破滅は必至だった。偶然出てきた二人の写真をみて、これこそ刎頚の交わりだったんだと思うことであった。
  鹿児島市 野崎正昭 2015/12/18 毎日新聞鹿児島版掲載

我が家のウナギ

2015-12-24 21:55:25 | はがき随筆


 ウナギの生臭さがイヤで外食はしない。が、生意気にも自分で調理したものは食べるのだ。
 「ウナギ好きの父ちゃんにウナ丼を作って!」。15歳の夏、病で寝たきりの母が言う。料理番の私は母の指示通りに初めて白焼きのウナギを調理した。それは臭みが消える調理法だった。
 妻の入院で娘二人が帰って来た。「ウナギを食べるか?」「あれっ、お父さん大丈夫?」「うん、ばあちゃん流ならね」。家を徹底清掃した2人に奮発してやりたかった。「おいしーい! どうやったの?」。かくて母の口伝を全て伝えた。歴史とはいとおしいものだ、と思う。
  出水市 中島征士 2015/12/17 毎日新聞鹿児島版掲載

さよなら快さん

2015-12-24 21:43:52 | はがき随筆
 夜、眠れないので、お茶をいれて椅子に座り、テレビをつけた私は、「ウソッ!」と叫んで手に持ったお茶をこぼしそうになりました。テレビにあの阿藤快さんが映っていたのです。それも元気な顔で。
 阿藤快さんは11月14日が69歳の誕生日。2日後の16日に、一人ベッドで亡くなっているのが分かったのです。
 その人がいまNHKのドクターGという番組で、あの大きな声で病気のことをしゃべっているのです。
 私は聞いてるうちに、自分もいつかはそうなるのかなあと悲しくなりました。
  鹿児島市 高野幸祐 2015/12/16 毎日新聞鹿児島版掲載

貴重な経験

2015-12-24 21:37:12 | はがき随筆
 2年ぶりにイタリアを訪問した。仕事を済ませて観光に出掛けた。駅で切符を買い、電車に乗って座った途端に違和感を覚えた。バッグを開けてみたら、切符とパスポートがない。盗まれたと理解するまで時間は要らなかった。
 警察でポリスレポートをもらい、領事館に手続きを聞き、戸籍抄本や写真、必要書類をそろえた。午前の観光をフイにした。幸い次の日はローマに移動予定で、日本大使館は近かった。セキュリティーが厳しい大使館の中まで入れたのは貴重な経験であった。親切な大使館員のおかげで予定通り帰国した。
  出水市 御領満 2015/12/15 毎日新聞鹿児島版掲載

フラダンス

2015-12-24 21:31:21 | はがき随筆
 加入している会の周年行事に余興をするらしい。参加依頼が来た。役員のほかに7名。即、踊り手に。フラダンスとのことで講師も待機ずみである。グローブのような指とアツダゴ体型では、安来節むきではあっても、フラにはむかない。「コンナヨカッタ」と悔やまれる。ところが回数が進むにつれ、寝ても起きても頭の中では曲がフル回転。あんなに長い時間練習したのにたったの3分半。アッという間で「モチットドマ」。やみつきにはならないが夢中になった。ビデオは、安来節的にもみえたが、楽しかった。
  阿久根市 的場豊子 2015/12/13 毎日新聞鹿児島版掲載

縄文の森より

2015-12-24 18:24:59 | はがき随筆
 11月21日、縄文の森で吟行句会がありました。展示館前に「親子料理教室団栗クッキー作り」の看板を目にし、そこへ行ってみました。まだ一組もみえていません。小屋のそばの広い穴に園内の倒木を薪にした木々が、赤々と燃えています。
 「縄文の根石あたため榾の燃ゆ」「縄文に思いを馳せる榾火かな」
 職員の方にいろいろ教わりました。団栗の粉が鹿児島になく、長野より取り寄せたとのこと、クッキーは根気よく30分焼く。今の電子レンジのように思えました。
  姶良市 中野勝子 2015/12/12 毎日新聞鹿児島版掲載

年賀状

2015-12-24 17:43:00 | はがき随筆
 3年前、同級生Kさんからの年賀状に、次の干支までは? と添え書きがあったのを思い出す。12年後はと問われても、女性の平均寿命だから大丈夫ろだろうと軽く受けとめていた。
 といいながらお守りに巳年の湯飲みを買い朝夕使っている。最近、Kさんが3年前乳がんの手術を受けたことを耳にした。次の干支までは?の謎が解けた。病気に向き合い、悩み苦しみ闘って強くなったKさんのおっとりした顔が目に浮かぶ。
 今年の年賀状には次の次の干支までも「せわーない」と書こう。
  薩摩川内市 田中由利子2015/12/11 毎日新聞鹿児島版掲載

平成の藤吉郎?

2015-12-24 17:34:09 | はがき随筆
 隣に住む息子のお嫁さんに「留守中に代引きが届いたらお願いします」と頼まれた。
 その日は、まさしくバケツをひっくり返したような雨。そんな中、頭からぬれた宅配便のドライバーさんが駆け込んで来た。彼はさっと上着をまくり、おなかあたりから小さな紙袋を差し出した。雨にぬれないよう気をつけて持ってきてくれたようだ。帰り際「冷蔵で保管してくださいね」とひと言。 
 紙袋の中身は、病院から届いたアトピーの軟膏。3歳の孫息子には欠かせない者。
 将来、孫に語ろう。平成の藤吉郎のことを……。
  垂水市 竹之内政子 2015/12/10 毎日新聞鹿児島版掲載

五郎丸選手

2015-12-24 17:27:15 | はがき随筆
 「サッカーは女々しい」と書いてお叱りを受けたとある男性が書いていた。ルールも知らないサッカーやラグビーだが、私もラグビー派。W杯イングランド大会は面白かった。
 男たちの肉弾戦。トライを決めるときのすざまじい形相。初めて見る光景だったが五郎丸選手の「ルーティン」。息の詰まるような静の中でグラウンドに聖なるものさえ感じた。
 五郎丸さんという珍しい、楽しくなる名前、さわやかな顔立ち。ラグビーというより、五郎丸さんのファンだ。
 4年後のW杯開催国は日本。彼の雄姿を見たいものです。
  鹿児島市 内山陽子 2015/12/9 毎日新聞鹿児島版掲載

秘湯巡りの旅

2015-12-24 17:20:35 | はがき随筆
 書棚の本の間から何かが落ちた。全国秘湯の宿のスタンプ帳だ。
 時はバブル経済が終焉に向かい、同時に50カ国を巡った私たち夫婦の世界旅にも終止符の打たれた頃。北は北海道カムイワッカの湯滝から、南は屋久島平内海中温泉まで回り尽くした。カラスの行水の私と、入浴時間1時間の妻。鼻を突くイオウの臭いと、湯気の中で触れ合う人情。そして、秘湯巡りの旅の結末が、ここ霧島(温泉引き込み)への移住へとつながる。
 今はもう、日々のひのき風呂にて感謝感謝の私たちである。
  霧島市 久野茂樹 2015/12/8 毎日新聞鹿児島版掲載

転校生

2015-12-24 16:04:20 | はがき随筆
 タガ君のことを友人たちは覚えていないという。私はフルネームで覚えている。小学5年の頃、早朝から校庭に大きな田の字を書き、それぞれのマスに陣取って、ドッジボールの球で相手をやっつける庭球という遊びに夢中だった。タガ君は強かった。多賀と書いたか。
 気がついたときにはもう彼はいなかった。どこから転校してきてどこへ転出したのか。ほんのしばらくの間だったような。
 人生の中で、ある一時期だけ出会って親しくなり、分かれて再び会うことのない人たち、どんな人生を歩いたのかと、それらの人たちを思うときがある。
  霧島市 秋峯いくよ 2015/12/7 毎日新聞鹿児島版掲載

趣味

2015-12-24 15:58:03 | はがき随筆
 文筆とは無縁の私が、随筆に投稿するのが恒例となった。何を書こうかと思案するも、書き終えた後の達成感は自己満足ながら張り合いになっている。加えて、本紙により世界の動向、政治、経済、暮らしに関する情報などを得られ、話題には事欠かないつもり。食いしん坊のため、料理欄は見逃せない。食卓にはアレンジして試作を重ねたメニューも並ぶ。レパートリーも広がった。家族の反応も気になるところ。うまくできた暁には、すぐに娘や友人にも教えたくなる。ひろば欄に、私と同様、新聞が趣味となった方もおられ、とてもうれしくなった。
  鹿屋市 中鶴裕子 2015/12/6 毎日新聞鹿児島版掲載

詩がうまれた

2015-12-24 15:52:38 | はがき随筆
 息子のお嫁さんは生まれも育ちも県外だが、息子の郷里串木野がお気に入り、魚が大好きだから。今夏、家族で帰省して、外出先から帰って車から降りたとたん、彼女が叫んだ。
 「ウワーッお星様がきれい! いいなあ、ここに住む人は」見上げると、ダイヤがびっしり並んできらめいているかのような満天の星。30年以上住んできて、気づかなかったなあ。
 折しも市制10周年記の「ふるさと三行詩」の募集があり、私は彼女の言葉を念頭に創作し応募した。うれしいことに入賞した。彼女に伝えたらなんと答えるだろう。聞くのが楽しみ。
  いちき串木野市 奥吉志代子 2015/12/5 毎日新聞鹿児島版掲載

初冠雪

2015-12-24 15:45:57 | はがき随筆
 1階から桜島の北岳の辺りに白いものが見える。雪? 11月27日、2階へ上がり、雪と確認した。お隣の奥さんに「おはよう」を交わし「雪です。桜島に……」と弾んだ声でごあいさつ。「ゆうべ寒かったですね」。やがて日が出て桜島は山ひだを隠し、シルエットとなった。
 昨夜、すべてのものを冬物に入れかえたので、今朝は早速暖かいソックスでスタートした。あと3日でもう師走。今年は元日早々から9月の入院まで思わぬ災いにつかまってしまったけれど、何とか挽回。今日、初冠雪を見た。
  鹿児島市 東郷久子 2015/12/3 毎日新聞鹿児島版掲載

逃げ道

2015-12-24 13:22:28 | はがき随筆
 川内原発がメルトダウンしたら集落ごとにかの地のそこに車で避難しなさい、という色刷りの分厚い冊子が全戸に配布されました。はて、どうしたものか。誰でもできるのか。まずは逃げる所まで行ってみようと思いました。立冬を過ぎたその日は、夏日の温かい一日でした。
 薩摩山地の頴娃街道に入ると、目の前に薩摩富士の滑らかな山肌が、右に左にと目の前を彩りました。黒い大地に白く輝く開聞岳。70年前も今以上に人々の心をつかみ、離さなかったことでしょう。はたしてここも安全、安心な場所なのか、そう思う一日でした。
  いちき串木野市 新川宣史  2015/12/2 毎日新聞鹿児島版掲載