はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

高齢運転者です

2015-12-24 13:08:19 | はがき随筆
 私の運転免許証は平成28年の誕生日(81歳)まで有効である。先日、関東に住む息子が突然やってきた。3泊4日の滞在で、種子島の温泉に入ってみたいと言い出したので、私の運転で中種子の町営温泉に連れて行った。比較的長い直線コースを走っているとき、後部席の息子が突然叫んだ。「お父さん、スピード出し過ぎ」。メーターは80㌔。すぐ60㌔に戻したが息子はさらに言った。「高齢運転者なんだから、制限時速の50㌔で走らなければだめ」。そして「運転には気をつけてよ」。まるでそれを言いに来たかのように言い残して帰って行った。
  西之表市 武田静瞭 2015/12/1 毎日新聞鹿児島版掲載

気になる木

2015-12-24 13:05:51 | はがき随筆


 この秋母校を訪れ課外授業をした。校庭の大木センダンが「気になる木」との話を耳にしたからだった。懐かしい記憶が心の底からよみがえってセンダンが呼びかけてきた。「時間がゆっくり流れ、ハナズンダレのあなたたちがクッサカと言いながら5年生のときにコエをまき大きく育てと植えてくれたね」。この回想を紙芝居に作り、同級生と植樹した思い出などを語った。子供たちには「この木のように一歩ずつ成長してほしい、そしてつらくなったら会いに来て」と言葉を掛けた。すると栴檀の枝からモズがキーキーッと鋭い声で元気よく鳴いた。
  さつま町 小向井一成 2015/11/30 毎日新聞鹿児島版掲載

読書熱再び?

2015-12-24 12:57:51 | はがき随筆
 40年前の春、就職先も決まらず実家に戻った。公務員や教職を目指して受験勉強をする傍ら、ひそかに読書に精出していた。文学史に名を残し、教科書に取り上げられた作品群を読んだり、横溝正史やアガサ・クリスティにはまったりもした。
 就職してからは、通勤列車の中や昼休みに読んでいた。
 40代になると少し熱が冷め、「照柿」や「少年H」などを次々買い込むも、最後までたどり着けず「積ん読」状態に。
 昨年あたりから、新刊に手を出したり、文庫本をまとめ買いして、真面目に読んでいる。
 秋の夜長は本と過ごそう。
  鹿児島市 本山るみ子 2015/11/29 毎日新聞鹿児島版掲載

ごっつ

2015-12-24 12:48:10 | はがき随筆
 数を覚え始めた息子は「いち、にい、さん」は言えるのだが「ひとつ、二つ、みっつ」が苦手だ。コンビニで空揚げを買おうとしたら「ごっつ欲しい」と言う。この年で大人買いかと驚いたら「いつつ」欲しかっただけらしい。
 数の数え方は面白い。中国は日本と同じで十進法だ。中国の知り合いは、英語の『eleven.twelve』が納得できず、『oneteen,twoteen』じゃないのか、と話していた。それを言うなら『ten.-one,ten-two』ではないかと思うのだが。ともあれ、息子はごっつの空揚げで満腹になった。
  鹿児島市 堀之内泉 2015/11/28 毎日新聞鹿児島版掲載

つなぐツリー

2015-12-24 12:24:55 | はがき随筆


 夫が逝ってしまってから1年10か月が過ぎた。浦島太郎のような63歳の私と18歳の一人娘の2人暮らし。たくさん泣いたり、笑ったりしてここまできた。
 「アミュの広場にツリーが飾られる頃になったら、お父ちゃんのことを思うよねえ」「うん、元気な頃、私たちにきれいなツリーを見せたくて、よく車で走ってくれたよね。あの頃は銀色のツリーだった。……懐かしいなあ。私は子供だったし」と娘。そろそろアミュ広場にツリーが飾られるだろう。なくなった人と生きてる私たちをツナグ役目を持っているとは知らない美しいツリーが……。
  鹿児島市 萩原裕子 2015/11/27 毎日新聞鹿児島版掲載

もやう

2015-12-10 11:57:52 | はがき随筆


2015年12月10日 (木) 

  岩国市  会 員   沖 義照

定期健診のため、かかりつけの病院へ朝早く出かけた。すでに待合室は患者でいっぱいである。受付を済ませ、カウンターの前にある3人掛けの椅子の真ん中がひとつ空いていたので座った。

 その直後、80歳くらいの小柄な婦人がつえ代わりの小さな車を押して受付を済ませ、私の目の前で座るところを探すように辺りを見まわしている。空席がないことは分かっていたので、席を譲るために立ち上がろうとしたが、見ると両隣に座っている人と私の間には結構な空間がある。少し右に寄れば左に小柄な婦人なら楽に座ることはできそうだ。

 「ここにどうぞ」と言いながら空けた場所を指すと「すみませんねえ」と会釈をしながら座った。左に座っていた女性も少しよけてくれた。 
 3人掛けの長椅子に4人が座る格好となった。婦人は椅子のつなぎ目に座っている。「大丈夫ですか?」と声をかけると、反対側の耳を私の口元に寄せてくる。「耳が遠いもんで……」と言うので、にっこり笑うだけで返事をすることなくそこは収めた。

 すると「最近はこんなに親切な人はいません」と周りに聞こえるような声でいう。周りの人に対してちょっと気まずい思いはしたが、まあよかろう。
 待合いの時間が長いとき席を譲るのは大変だが、少し狭くなっても、もやうことなら簡単だ。「もやう」、子供のころよく使ったやさしい言葉を久しぶりに思い出した。
   (2015.12.10 毎日新聞「男の気持ち」掲載)岩国エッセイサロンより転載

折り鶴

2015-12-09 22:05:16 | 岩国エッセイサロンより

2015年12月 9日 (水)

    岩国市   会 員   林 治子

 朝刊「こだま」欄に掲載された菅原静喜さんの「折り紙」を拝読した。以前、大阪に住んでいた頃、何の気なしに見ていたテレビの一こまを思い出した。
 それは、折り紙の特集たった。普通の折り紙より数倍大きくて、材質はかなり軟らかい物を使っていた。素人目には、ただ、ぐしゃぐしゃと紙を丸めているように見えた。      
 本当は必要な折り目をあちこちとつけていて、しばらくすると、見事な象が出来上かっていた。私は、ぽかんと口を開けて見たような記憶がある。
 私は、鶴しか折ることができない。その時、折り紙は結構大変な世界なんだと感じた。
 数年たって生まれ故郷に帰った。幼なじみの一人のお宅にお邪魔した時、折り紙のバラやキキョウなどが飾られた玄関のげた箱の上は、まるでお花畑のようだった。 「いろいろなものが折れるのね」と手に取ってじっと眺めた。
  「サークルに入って、皆さんと仲良く折り紙を楽しんでいる」。彼女はうれしそうに話された。ますます腕にも磨きがかかることだろう。いい趣味だとうらやましく思った。
 もう一人の友は、鶴をたくさん折っておられて、ことしのある展覧会では賞をもらわれた。細かい鶴の動作など、根気のいる作品であった。
 2人とも、私の大事な友人。折り紙は奥が深いと口をそろえる。私には作るのは無理だから、すばらしい作品を見て楽しんでいる。

     (2015.12.09 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)岩国エッセイサロンより転載

ラグビー好き

2015-12-04 16:48:19 | 岩国エッセイサロンより
2015年12月 4日 (金)

岩国市  会 員   上田 孝

 日本がワールドカップ1次リーグで3勝を挙げる活躍をしてラグビーがひとしきり話題になった。五郎丸選手のキック前のポーズを子供たちもまねているという。

 昔からラグビー観戦が好きだ。自分より前にパスをできないなど禁欲的なところがいい。禁欲的といえばその最たるものが、トライで得点をあげた時。サッカーのように派手に喜びを表さず、淡々とむしろうつむき加減で自陣に引き揚げる姿が何ともかっこいい。いや、かっこよかった……。

 最近は、派手なパフォーマンスが目立つようになってきて、ちょっぴり残念だ。

      (2015.12.04 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

木守り柿

2015-12-04 16:37:14 | 岩国エッセイサロンより


2015年12月 2日 (水)

岩国市  会 員   稲本 康代

 たわわに実った柿を収穫したとき、全部取らずに一個だけ残しておく習わしがある。それを木守り柿という。来年もよく実りますようにとの願いが込められているのだとも、鳥たちへのお裾分けだとも言われている。 
 我が家の裏にも、いつ植えられたか誰も知らない富有柿が、一本ある。今年は数えきれないぐらい、たくさんの実をつけた。

 が、今は木守りの一個だけである。
 夕暮れ時、丸坊主になった柿の木のてっぺんに、小さくぽつんと赤い実が残っているのを、見上げていると、やがて訪れる厳しい冬を思う。
(2015.12.02 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載