はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

胸のうち

2019-03-25 22:10:17 | はがき随筆
 某月某日。県県から息子が帰宅の予定。待てど待てどコールなし。電源は切られ通じず。「アアまたか」。私のつぶやき。それでも胸のモヤモヤ静まらない。なぜひと言、現在地を伝えない。待つこと数時間。私の心配性が頭をもちあげ、悪い流れに心は支配される。アア、なんでこんな大人になった。
 親の心知らず、本人は友人とドライブ。今日はしゃべりすぎてつい遅くなったとの弁。
 安心感と人を気遣う気持ちの欠けた息子に複雑。こんな気いつまで続くのかと不安。自分勝手な男にどのように言葉をかけらたいいのかと。
 鹿児島県鹿屋市 春野フキ子(69) 2019/3/22 毎日新聞鹿児島版掲載

思い出残り

2019-03-25 22:02:46 | はがき随筆
 終戦時玄米を一升瓶で、姉が棒で突き精米していた。小学生の自分も手伝い、突いたら瓶の底が割れてしまった。慌てて家を飛びだし谷川を挟んだ山で農作業をしている母に自分は大声で伝えた。「馬鹿もん、村の人に聞こえるじゃないか」。すごい剣幕だ。知らんぷりの姉さんを羨ましく思った懐かしい昔。母は農家出の働き者で朝早くから畑山を駆け回る。父は鉱員で石が相手の掘って砕いてまた掘って、ルーペで見ては頭をひねる。だから静かな父だった。私も特に贅沢も出来ず言わずの昭和生れ。平成の次も平和を。
 宮崎県延岡市 前田陸男(80) 2019/3/21 毎日新聞鹿児島版掲載

春風の誘惑

2019-03-25 21:54:10 | はがき随筆
 映画解説者、リリコさんの笑顔がテレビ画面に踊った。
 70歳を過ぎて娘たちに連れられていく映画のとりこになった。今は体力が落ちてDVDの映画を楽しんでいる。サウンド・オブ・ミュージックや駅馬車などは映画館で余韻までも感じたい。
 前回の東京オリンピックの頃はいなせなカウボーイで、今は大監督のクリント・イーストウッド。監督と主演の映画が3月に公開されるとのこと。すごーい。御年88歳。脱帽です。
 春浅い日の昼下がり、吉田兄弟の豪華な津軽三味線のバチさばきが聞こえたような。
 熊本市東区 黒田あや子(86) 2019/3/21 毎日新聞鹿児島版掲載

朝ドラ効果かな?

2019-03-25 21:41:52 | はがき随筆
 朝、新聞を読んでいた主人が「今、チキンラーメンが最高に売れているんだと」と言った。毎朝、朝ドラを見るのが日課の我家。今はラーメン開発話の「まんぷく」だ。「ヘェーすごいね」と返した私。その日の買い物に行った店先に偶然か即席麺が山積みにされ売られていた。私はためらいなくチキンラーメンを手に、もちろん昼食はそれにした。卵を落とし、熱湯を注ぎ、ふたをする。3分待つと芳ばしい香りが食をさそう。
 即席麺は、朝ドラ効果もさることながら、手堅く悩める主婦の助けになる。よね。
 宮崎県西都市 河野満子(68) 2019/3/21 毎日新聞鹿児島版掲載

ぬくもりの手を

2019-03-25 21:34:45 | はがき随筆
 病院のロビーで薄汚れた服に、伸びた髪がいささか匂う。老人の男性が車いすに掛けて、なんだかもたついている。傍らからそっと声をかけると、降りたいが足が地に着かない。困った様子だ。
 私が手を添えるから私の合図に合わせてね、準備はいいよ、せーの、はい。私の肩につかまってと老人の腰にも手を回した。要領をつかんだのだろう。足は地に着き成功した。老人は「ああ、よかった」と喜びの表情。ほほ笑みのヒゲづらはまぶしかった。幸せなる達成感に浸った。私の心の中にぬくもりの泉が湧き出づる。

 鹿児島県姶良市 堀美代子(74) 2019/3/21 毎日新聞鹿児島版掲載

あかり

2019-03-25 21:28:28 | はがき随筆
 近所の人に「あなたの家に夜遅くまであかりがついているのを見ると、ほっとした気持ちになる」と言われた。うちのあかりは、夫が早く寝ると何回もトイレに起きるとか言って、ついているあかりである。そのあかりに慰められている人がいるとは何とありがたいことかと思った。
 私にも覚えがある。
 父母の介護に通っていた頃の事である。真っ暗な山道の峠を越え遠くに家のあかりがポツリポツリと見えた時のあの安堵感。心細かった私にとって、あのあかりはほんとうにうれしいあかりだった。
 宮崎県日南市 黒木節子(71) 2019/3/21 毎日新聞鹿児島版掲載

センバツに祈る

2019-03-25 21:22:40 | はがき随筆
 13日付新聞にセンバツ特集が入ってました。熊本西高校が初出場することになりました。選手の皆さんの笑顔、先生方の思い、背筋をピシ
ッと伸ばした皆さんのポーズ。決意が伝わってきます。
 初陣の若武者そのものに見えてうれしさで胸いっぱいになりました。どうぞ今までの力を残さず発揮できますようお祈りしています。
 校長先生の言葉のように勇気と感動のプレーを甲子園に残してください。青空に大きくはばたく若鷲のように、二度とない青春を描いてください。心から応援しています。
 熊本県八代市 相場和子(92) 2019/3/21 毎日新聞鹿児島版掲載

豆まきすんで

2019-03-25 21:07:14 | はがき随筆
 夫婦2人の節分は10年余りたち、掃除を考えて殻つき落花生を3個ずつ放つ。
 今年は朝カーテンを開けてたまげた。左隣の家の庭に2個落ちているではないか。夫の投げ方が勢い余っていたか。20歳くらい年下の家族。他人様にすればゴミと同じだ。8時になるのを待って電話する。「あのう何かありましたか」。事情を話すと「こちらも厄払いになりました」と喜ばれた。「豆を拾いにおじやましようか」と夫に聞くと「そのうちカラスが持っていくよ」と。そういえば朝からいやにカラスの鳴き声や羽音が近く、本当になった。
 鹿児島県いちき串木野市 奥吉志代子(70) 2019/3/25 毎日新聞鹿児島版掲載

忘れてはいけない

2019-03-25 20:36:50 | はがき随筆
 東日本大震災から8年。新聞記事を読みながら、一昨年秋の三陸旅行を思い出していた。
 気仙沼。新しくなった道路や建物に「津波到達点」の表示。「この辺も水に浸かったんですね」とタクシーの運転手に何気なく問うと、「そんなもんじゃない!」と強い口調で一蹴され、後の言葉が続かなかった。
 地元の震災展示館で、渦巻く濁流をビデオで見た時、自分の無神経さを思い知った。何度もテレビで放映され衝撃を受けたのに、歳月はいとも簡単に記憶をはぎ取っていた。
 タクシーの中の気まずい空気を戒めのように今も思い出す。
 宮崎県日南市 矢野博子(69) 2019/3/24 毎日新聞鹿児島版掲載

お下がり

2019-03-25 20:28:58 | はがき随筆
 最初に出るのはため息だ。私には隔年のいとこと姉がいる。そこから私までたどり着くのが「お下がり」。制服は一番ひどい。光沢を帯びたスカート。幾度も付け替えたボタン。粗い織りが透けて見える冬物のオーバー。よくぞここまで持ちこたたえたと驚く。1学年はそれでも良しだが、急成長の私には「ちゅんちゅくりん」になった丈の短さをさらす恥ずかしさ。さすがに親も新調してくれたが、それなら最初から新品をくれと我慢の1年が無駄に思えた。
 今ではその辛抱が懐かしい。昔はもったいないの心。どこもそうしたものだった。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(64) 2019/4/20 毎日新聞
 

居場所

2019-03-25 20:21:58 | はがき随筆
 花を買って水につけておきながら、生けるのを忘れていて、夜遅くに包みを開けた。たった数本のラナンキュラスだったが、花瓶のせいかバランスを取るのに苦労した。花留を使って何とかまとめ、台所に飾った。
 翌朝起きると、何と白が1本抜かれてトイレの一輪挿しに居るではないか。家内の仕業だ。面白くなかったが、悔しい事に花瓶はその方がすっきりした感じてあったのでそのままにした。数日たつと花瓶の花たちは大きく膨らんで白が戻るスペースは無くなってしまった。
 白の花は一輪挿しが良かったのだ。
 宮崎市 中村薫(53) 2019/3/18 毎日新聞

思うがままに

2019-03-25 20:15:04 | はがき随筆
 県立高校で理科の地学を担当していた私は60歳で定年退職を迎えた。心身は健全だったし、塾長の所望に応じて大学予備校に職場を変えて指導に専念してきた。
 「もう体外でやめた方がなくはないかな」と家内が忠告した。いつの間にか80歳の高齢に達していた。「そうだな」と応じて依願退職を申し出た。
 別に何もすることがない。毎日新聞を愛読していてはがき随筆に関心があったし「川魚」という題で投稿したところ早速掲載された。思うがままの文章を書いて毎月投稿しているが、これが今では私の趣味である。
 熊本市東区 竹本伸二(90) 2019/3/17 毎日新聞

長寿の源

2019-03-25 20:08:15 | はがき随筆
 午後6時過ぎ、夕食を急いで食べる夫。その後、学習指導員の仕事に出向くため。素早く通勤用ブレザーコートとズボンに着替える。特にブレザーは大変気に入り、連日制服のように着用する。他に背広やネクタイも数々あるのに出番がない。夫いわく「生徒も制服だしね」と。
 このブレザーは数年前、デパートでマネキンが着ていたから私の目に留まり「すてき」と即買った茶色の上着。これほど重宝がられ活躍するとは、想像してない。86歳の老体ながら、世間に求められ仕事ができることに感謝し、自分を磨くための努力は健康長寿の源となる。
 鹿児島県肝付町 鳥取部京子(79) 2019/3/16 毎日新聞鹿児島版掲載

書き続けること

2019-03-25 20:01:16 | はがき随筆
 宮崎には「みやざき文学賞」という文学賞がある。今年度で21回目を迎え、これまでで最多の千点以上の応募があったとのこと。その賞に私も選ばれ表彰式の案内状が届いた。この年での受賞は素直にうれしかった。
 自分の事とは別にもう一つうれしい事が重なった。私ははがき随筆の投稿者グループのお世話を清武で25年続け4年前に退会したのだが受賞者の中に当時の仲間が2人居たのである。1月28日式が終わると2人ともすぐ駆け寄ってきた。書くことを大切に育んできたからこその受賞である。老いの日々にこんな晴れやかな日があったとは。
 宮崎市 松尾順子(87) 2019/3/15 毎日新聞鹿児島版掲載

86歳突然闘病

2019-03-25 19:52:16 | はがき随筆
 目が回る、初体験。年明け早々、突然激しい震えと高熱に襲われる。家族も留守。やっとの思いで主治医と通じ、総合病院へ緊急入院。不明熱とインフルA型。インフルはすぐ治ったものの、つらい日夜を過ごす。病室の天井がぐるぐる。意識もうろう。39度強。点滴一日中、おしめの苦しみ。大汗の末に熱が下がり、やっと人心地。かゆものどを通る。大腸ポリープ切除も無事終了。16日ぶりに生還できた。86歳を意識しつつ健康に留意が油断大敵、むなしくもダウン。昼夜を問わぬ献身的な看護に感謝甚大。男性看護師増加に期待大。
 鹿児島県姶良市 宇都晃一(86) 2019/3/14 毎日新聞鹿児島版掲載