はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

健やかな成長を

2021-01-24 21:00:21 | はがき随筆
 5歳の孫に弟が生まれ、やがて10カ月になります。 かわいくて仕方がないようで、頬ずりしたり頭をなでたり「洸介は僕の 一番の宝物。お母さんが死んで も、僕がちゃんと育てていくか ら心配しなくてもいいよ」と言います。弟もお兄ちゃんの弾くピアノが大好きで、「ジングル ベル」や「かえるのうた」を弾 き始めると、むずかっていてもじーっと耳をすませます。
 どうかこの子たちの行く手 に、いじめも差別も暴力も事故もない優しい世界が広がっていますように。 コロナウイルス感 染拡大の不安の中で、健やか 成長を祈るばかりです。
 熊本市中央区 渡邊布威(82) 2021/1/22 毎日新聞鹿児島版掲載

マスクの顔

2021-01-24 18:11:29 | はがき随筆
 久しぶりに鏡を見て化粧をする。唇の端に1㌢ほどの白い髭を見つけて愕然。この長さになるまで気づかなかったとは。いつもマスクをして身だしなみもお構いなしのこのごろだったからと自分に弁解する。
 素顔にマスクの日常は簡単でいいが、買い物客のマスクの顔は識別が難しく、人に無関心になってしまう。目の表情だけでは誰かわからないのである。
 崇高なものにコロナ禍での医療関係のマスク姿がある。ありがたい存在を忘れてはならない。庶民のマスク姿も10カ月。終息が見えぬ今、マスクを卒業できる日が切に待たれる。
 鹿児島県霧島市 口町円子(80) 2021/1/21 毎日新聞鹿児島版掲載

正月のあいさつ

2021-01-24 18:03:47 | はがき随筆
 若いうちはどうということもなかったのに、近ごろ「明けまして~」というあの紋切り型の正月あいさつをひとさまと交わすのが、何となく照れ臭くおっくうになってきた。
 元日後の10日間くらい、近所の人とも顔を合わさぬよう努めていたが、9日の昼下がり、妻への用事で訪ねてきた隣の娘さんと庭先でばったり顔を合わせ、「明けまして……」と非の打ちどころない口上を述べられた。
 虚をつかれた格好の当方。年甲斐もなくあわてふためき、むにゃむにゃ「よろしく」と返事したが、八十路半ば過ぎの正月も楽ではない。
 宮崎市 山野秋男(87) 2021/1/20 毎日新聞鹿児島版掲載

ビール

2021-01-24 17:55:57 | はがき随筆
 学生時代に覚えたビールが大好きで、空になった大瓶を畳の上に転がして友と飲んだ日々を思い出す。おいしく飲むために運動をした。今では草取りや一仕事済ませて一杯を楽しむ。
 最近350mlの缶ビールを持て余すようになってきた。試みに250mlに変えたら丁度いい感じだ。
 コロナ禍の中、車で出かけることもめっきり少なくなり、運転も億劫になったので、この際車を手放そうとも考えている。
 終活や断捨離の文字が目につくのは老化が進んだからだろうか。心の若さはいつまでも保ち続けたいと思うこの頃である。
 熊本市北区 西洋史(71) 2021/1/19 毎日新聞鹿児島版掲載

目覚めて生きる

2021-01-24 17:49:32 | はがき随筆
 昭和18年、国民学校に入学する。集団登校の途中で男子が私に何か言った。
 「そんなこと言わないの。泣き出すからね」と、上級生の浜田さんが男子をたしなめた。すると待ってましたとばかり私は泣き出した。泣かなければいけないと思ったらしい。男子の言ったことの意味もわからず、悲しくなどなかったのにである。
 「バカみたい」と幼い自分を笑いながら、人間は周囲の人の言動に操作されやすいことに気づいていった。
 いま自分の中の幾人かの分身と、ときに互いに衝突もしながら目覚めて生きているかしら。
 鹿児島県鹿屋市 伊地知咲子(84) 2021/1/18 毎日新聞鹿児島版掲載

てげてげでいいのに

2021-01-24 17:41:52 | はがき随筆
 友人に渋柿をもらい、干し柿にしようと皮をむいた。物干し台に釣竿を渡してそれにかければ、と簡単に思っていたが夫が出てきて大ごとになった。
 植木用の支柱を3本組み「台にする」と言って始めた。彼の仕事は丁寧すぎる。不要になって片付けるときが面倒くさい。結び目にしいも頑丈で解くのが大変。「そんなに大げさじゃなくていい。後がやっかい」とおおざっぱな私はいつも文句を言う羽目になる。
 物干し台と脚立に釣り竿を渡し、干し場は完成した。夫の考えた支柱は竿の真ん中で、たわみ防止に収まった。
 宮崎県延岡市 島田千恵子(77) 2021/1/17 毎日新聞鹿児島版掲載

母親の思い

2021-01-24 17:33:48 | はがき随筆
 新年の挨拶に実家を訪ねた。昨年結婚したばかりの姪夫婦も来ていた。
 お膳には、ぶりの刺し身、煮付けが出ていた。姪の母親である弟嫁のKさんが、ぶり1匹をさばいて調理してくれていたのだ。このぶりは「よか嫁ごぶり」ということで、嫁ぎ先からお嫁さんの実家へぶりを贈る習慣があり、姪の嫁ぎ先から届いたのだ。他にがめ煮やサラダも手作りしてあった。Kさんの奮闘ぶりが分る。「娘が結婚してうれしいんだよ」と夫が言った。
 5月には、姪夫婦に子どもが生まれ、弟夫婦には待望の初孫誕生となる。
 熊本県玉名市 立石史子(67) 2021/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

姉嫁

2021-01-24 17:25:07 | はがき随筆
 「孝介」「はい、先輩」。夫婦のお互いの呼び方である。縁戚の若者、まだ新婚といっていいだろう。この呼び方、古い私たちには少々違和感がないでもないが、またユーモラスでもある。新婦は新郎より二つ年上、2人は婚前から現在も同職場で働いており、新郎が新入りのころ新婦はその面倒をみてきたのである。結婚してからも職場での呼び方を続けているようだ。
 新婦は新郎の親の前では呼び捨てを遠慮しているようだが、2人だけのときは相変わらずである。2人は琴瑟相和している。まもなく子宝も授かる由。夫婦百態、多幸を祈っている。
 鹿児島市 野崎正昭(89) 2021/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

2021-01-24 17:00:50 | はがき随筆
 母と言う字は悲しい。
 淡くてあたたかい母と言う字。いつの間にか胸の奥がせつない。涙が出そうになる。そこに、いつも笑顔の母がいた。
 「何んにもなかとにかえってきたっけ」と優しい声が聞こえる気がする。母の指定席は同じ場所だった。働く事が一番の姑孝行と聞いたことがある。嫁姑の仲もそれで関係がいいと言っていた母。もしかの時は母の味方になると子供心に誓ったものだった。あったかい母の手をさすった。もの言わぬ母の小さな丸い手。何度も何度もさすった日。私の手は母の手に似ている。
 この手で家族を守りたい。
 熊本県八代市 鍬本恵子(75) 2021/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

もうすぐ100歳

2021-01-24 16:53:39 | はがき随筆
 母の白寿祝いに子供、孫、ひ孫の20人が実家に集合した。5月に100歳を迎える母は食欲旺盛で、持ち寄った料理に箸が進む。兄がカラオケを用意した。母は好きな「南部蝉時雨」を歌いきり、拍手喝采に目を細めた。6人の子供たちは母に続いてマイクを回し歌う。
 「今日はいい日じゃった。いつ死んでも思い残しはないわ」と笑う。その横顔には、年輪を感じさせる深いシワが幾筋もある。このシワには、決して楽な暮らしではなかった人生が刻まれている気がした。それなのにたった一度も弱音を聞いた記憶がない。気丈な母に乾杯だ。
 宮崎県延岡市 川並ハツ子(76) 2021/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

2021-01-24 16:46:01 | はがき随筆
 よく熟した鈴なりの柿。枝をたわめた大きな柿の木のある風景は大好き。近年この柿をちぎることもなくなったような。スーパーで見事な富有柿や富士柿を買う人は多い。柿の木があっても高齢化のため、たとえ自家用の分もちぎることが難しくなったのだろう。
 かつて子や孫らが幼かった頃、庭の柿もミカンも脚立などを使ってちぎった。〝下枝の柿は旅人のために、てっぺんの柿は野鳥のために〟。そんな言い習わしも承知していたのに、私は子や孫らのために全部もいでしまったものだ。まさに昔日の感しきりである。
 鹿児島県鹿屋市 門倉キヨ子(84) 2020/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

運命

2021-01-24 16:38:38 | はがき随筆
 道路をカタツムリが這っていた。裏通りだが時々車が通り、運が悪ければひかれてしまうので、いつもは道路脇の草の葉に乗せてやる。ところがその時は急いでいてそうしなかった。
 その後、あのカタツムリのことが気になった。そして一つの疑問がわいた。人が関わらないのが運命なのか、人が関わるのが運命なのか。あるいはどちらにも転び得るのが運命なのか。
 人にもさまざまな出会いがあり互いに影響を及ぼして生きている。自分の何気ない言動が相手の運命を大きく変えてしまうこともあ。どんな小さな出会いも大切にしようと思った。
 宮崎市 福島洋一(65) 2021/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

鳥と野良猫

2021-01-24 16:30:33 | はがき随筆
 今日は鳥をみた。白はらだ。何年ぶりかの珍しい鳥の訪れ。白はらはカサッと音がするほど落葉がないと来ない。近ごろきれいに庭を掃く、だからか一度も見なかった。替わりにきれいな砂土が心地よいのか野良猫の糞害が増える。
 今年は落ち葉掃除は程ほどに。猫を追う。猫も糞をせず通り過ぎるだけなら構わないが、こんもり盛られた糞は誠に嫌だ。しかし糞をしない生物はない。野良猫は一生懸命に生きているだけ……とは思うが……。鳥は夢幻、猫は生々しい。見るなら儚く美しい方がよい。人は(私は)勝手で厳しく酷い。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(65) 2021/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

世を照らす灯台

2021-01-24 16:10:31 | はがき随筆
  これは、長崎鼻灯台と一本の道を赤黄橙緑青などで鮮やかに彩られたスクリーンの題名である。 山形屋の画廊に入り、明るさと迫力に押されて立ち止まって見ていると「私、女性たちを応援したいなと思って描いたんですよ」と、長い黒髪の涼や かな瞳のやさしい声の女性に話しかけられ、作者の川島見依子さんだと知った。
 個展を取材した新聞の記事では、絵の売り上げの一部で途上国の子どもたちの支援を続けているとのことだった。
 その個展の翌年に10代の若さで亡くなられたそうだが、今も私は励まされて生きている。
鹿児島市 川﨑泰子(65) 2021/1/15 毎日新聞鹿児島版掲載


炒って食べるが一番

2021-01-22 22:53:11 | はがき随筆
 ギンナンを見ると母と食べたことを思い出す。炒って弾けたものを頬張った時のおいしさは何とも言えない。「数を食べすぎたらいかんよ」。食べる時は必ず言われた。母が子供の頃、私の祖母たちは網に入れ川に浸けておくと皮が腐れ実だけが残る処理をしていたらしい。でも今は浸すきれいな川はない。
 私は1週間水に浸け完全武装で試みた。強烈な臭いに頭痛がしてきた。しまいにはビニールの上から踏み、水で洗い干し上げる。汚れ水は穴の中へ埋め込んだ。出来上がったものをレンジでチン。亡き母たちとおいしく食べたのは言うまでもない。
 宮崎県串間市 安山らく(69) 2021/1/14 毎日新聞鹿児島版掲載