はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

2022-08-14 11:08:13 | はがき随筆
 毎日歩いている健軍川沿いの遊歩道。近所の奥さまが川沿いにいろいろの種類の花を植えておられる。先日、立ち止まりよく見ると、茂った花の中に小さなホオズキ、鳳仙花が咲いている。なつかしく、しばし足を止め、子供の頃に思いをはせた。
 ホオズキは中の種を出し、舌の上にのせ〝グワグワ〟と鳴らした。夜に鳴らすと「蛇が来るからやめなさい」とたしなめられた。鳳仙花は姉に手伝ってもらい、花をつぶして爪の上にのせ、草の葉で巻き一晩明かし、朝ピンクに染まった爪を見て、大人になった気がした。昔から爪を染める女心は変わらない。
 熊本市東区 川嶋孝子(83) 2022.8.13 毎日新聞鹿児島版掲載


日曜日の一杯

2022-08-13 21:16:31 | はがき随筆
 日曜日、ウイスキーを飲む。注ぐのは、愛用のグラスの下方にある飾り線まで。入れた氷が解けてグラスいっばいに満ちてから飲み始める。つまみは買い置きから気分で選ぶ。家での飲みは週1回、この1杯だけだ。
 最近は、飲みながらテレビの「ポツンと一軒家」を見る。自然への思いやり、伝統を守りながら環境を生かした工夫のある暮らしに毎回驚く。喝采する。これが次の1週間への区切りになっている。
 このウイスキーの氷割りをいつから始めたのだろう。新型コロナウイルス禍で外出を自粛する何年も前からだと分かるが、きっかけは覚えていない。
 日曜日が12回来ると、ボトルは空になる。グラスの飾り線が軽量の役目を果たしている。1時間かけて飲むのにちょうどいい量でもある。
 もともとウイスキーは飲まなかった。手を出したのは宴席での知恵だった。仕事絡みの飲食が多く、酒を注がれる時に「水割りですので」とグラスを持ち上げれば、それ以上は勧められずに済んだ。それは二日酔い防止にもなった。そのため家で夕食を取ることは少なかった。
 妻は一人で夕食を取った。私の体を気遣い、酒量を聞いてきたが、愚痴は言わなかった。私は酒量を心して飲んだ。
 今は毎日、妻と一緒に夕食を取る。だが、若い時からの晩酌なしは続く。日本酒は新聞投稿が掲載された日に杯1杯だけたしなむ。妻は、ポイントが10倍の日に欠かさず、ウイスキーのボトルを買って来てくれる。
山口県岩国市 片山清勝(81) ひといき欄掲載

しとしと雨の朝

2022-08-13 21:08:53 | はがき随筆
 傘をさして3人横に並ぶと道幅いっばいになる裏通り。黄色いカバーのランドセルで登校中の男児は、静音の乗用車が後ろから近づいても気づかない。歩みに合わせて車はゆっくりついていく。
 気づいた男児は、道幅によけて車を通させながら、車に向け、ぺこっと頭を下げた。その仕草から「気づかずにすみません」、そんな素直な気持ちを感じた。車を運転する人からも、子どもへの優しい心遣いと運転マナーの良さなどが感じられた。
 誰に教えられたんだろうと思いながら男児を見送った。しとしと雨のうっとうしさを忘れていた。
 岩国市 片山清勝(81) 2022.7.9 山口県版はがき随筆掲載

四季の遊び・夏

2022-08-12 10:15:36 | はがき随筆
 夏は川でミッジャビイ(水浴び)。僕たちはこば淵へ毎日泳ぎに行った。水浴びの前に草結びといういたずら遊びも。川へ通じる田の畔道は草ボーボー。その草を互いに結び合わせ、後ろから来る子が足をとられて転ぶ様子がスリル満点だった。
 水着などなかったので裸ん坊か赤へこ。いわゆる六尺ふんどしである。おおかた年上の連中が泳ぎ始めると、下の子たちはそれを見て飛び込んだり、潜ったりし、遊びの中でルールを学び覚え身につけていた。いじめなどなく、遊びだけは豊かだったこどもの頃。まだまだ懐かしい記憶がいっぱい。
 鹿児島県さつま町 小向井一成(74) 2022.8.12 毎日新聞鹿児島版掲載

よみがえる人たち

2022-08-12 09:58:41 | はがき随筆
 家の前の街灯からガチャンガチャンと音がした。「これはもしや」と近づいて見上げると、ほらやっぱりカブトムシだ。
 ようやく足元に落ちてきたところで角をつまんで捕まえた。すると、夏の匂いが鼻をすうっと通り抜けた。
 カブトムシの匂いが好きだ。幼少期の記憶がはっきりとよみがえる。夏休みには母の実家に泊まりに行ったものだ。酔っぱらって語り合う大人たちは楽しくて優しかった。
 「じいちゃん、ばあちゃん、おばちゃん、今年の夏もまた会えたね」。目を閉じればすうっとよみがえる。夏の匂いに。
 宮崎県都城市 平田智希(46) 2022.8.11 毎日新聞鹿児島版掲載

カボチャ嫌い

2022-08-12 09:47:41 | はがき随筆
 朝の食膳に南瓜のお煮付けが載っている。ふうっとため息をつく。思い出は戦争中に蘇る。
 ある日、学校から帰ると南瓜が台所にゴロゴロ。「どうしたの」と聞くと「今月の配給」と母の返事。「お米は?」「ゼロ」。一目見ただけでうらなりと分る。15個くらいあったかな。これで1か月分かと思うと力が抜けてしまった。来る日も来る日も水っぽい南瓜のスイトン。つらかった。栄養失調になってちょっとした傷も化膿した。日の丸弁当が懐かしかった。今の南瓜は栄養満点、こっくりと甘くおいしいのはよくよく知っている。でもお箸が動かない。
 熊本市中央区 増永陽(92) 2022.8.10 毎日新聞鹿児島版掲載

我が家のペット

2022-08-12 09:40:25 | はがき随筆
 動物大好き後期高齢者夫婦。今更、動物を飼うと私たちより長生きしそうで諦め気味。
 夜、ソファーでゆったりテレビを見ているとテレビの先のガラスに何やら頭をチョコっと。出たり引っ込んだり、ライトに寄ってくる虫を素早く尻をふりふり超高速でパクリ。ヤモリの親子だ。毎晩8時頃から活動開始。どこから顔を出して来るか、私たちもパズル開始。頭の体操、視力強化、散歩もさせず、餌もやらず、楽しませてくれるペットに会話も弾み、こんな楽しみ方あるんだ。
 どうぞ、どうぞ末永くパズルを解かしてください。
 鹿児島県阿久根市 的場豊子(75) 2022.8.9 毎日新聞鹿児島版掲載


国語辞典

2022-08-12 09:32:24 | はがき随筆
 いつの頃からだろう。私が国語辞典を引かなくなったのは。それは老眼になったのが一番の要因だが、スマートフォンなどをピッピッと押す生活に慣れたからだと思う。
 春休みに遠くの小学4年生の孫娘が帰ってきて宿題をしていた。小学1年生の弟と、時々ふざけながら楽しそうに国語辞典を引いている。宿題のテーマが「言葉を知れば学ぶ力も強くなりたのしくなるよ」だった。
 その国語辞典が気にいった。カラー写真やまんがの説明で文字も大きく私にピッタリだ。
 孫たちが帰った後、すぐに書店で同じ物を求めた。
 宮崎県延岡市 片寄和子(73) 2022.8.7 毎日新聞鹿児島版掲載

パイナップルの味

2022-08-06 11:18:19 | はがき随筆
 忘れられない味がある。学生時代、夏休みに石垣島に行った。友達2人と自転車を借りて島内一周に出発。照りつける日差しに閉口しながらも、初めての石垣島を楽しんでいた。
 未舗装の道路脇に小さなパイナップルを見つけた。パイナップルを積んだ小型トラックとすれ違ったので、誤って落ちたのか。それにしては、何日かたっているようで傷み始めている。
 石で割って食べた。一口頬張って、顔を見合わせた。甘くておいしくて、何とも言えない味が口に広がる。命の味と思えた。
 日の紡ぐ パイナップルの味一つ
 鹿児島県霧島市 秋野三歩(66) 2022.8.6 毎日新聞鹿児島版掲載

2022-08-06 11:03:39 | はがき随筆
 夏だ。とても蒸し暑い。今日は1学期を完遂し、夏休みがついにやってくる。
 ペダルを回しながら思い返すと前進した1学期であったと思う。学級長としてどうしたら役に立つだろうと考えた日もあった。また体育大会でも、リーダーとしてみんなを活気づけて盛り上げたこともあった。そんないろいろなことをしている間でも太陽は照らし続ける僕らを。
 地球が太陽の周りをまわるように僕らも物事一つ一つに精いっぱい取り組む。クラスの熱を感じ一丸となって取り組んだ時間を自転車に乗りながら重く背中に感じ思う、放課後の日差し。
 宮崎県都城市 平田壮一朗(13) 毎日新聞鹿児島版掲載

ハゼ負け

2022-08-06 10:57:13 | はがき随筆
 右手首の周りに、錠剤大の水ぶくれができて、かゆくてたまらない。昨日、ハゼの盆栽を剪定した時、切り口の樹液を付着させてしまった。
 私たち3人の兄弟が小学生だった頃、二つ下の弟は、夏休みになると決まったように、ひどいハゼ負けになった。
 弟は、病院で白い難航を塗ってもらい、顔も変形するくらい腫れていた。どんなにかゆく辛かったことだろうと、自分がなってみて、包帯姿の弟に思いを馳せている。
 こんな思い出を語り合える兄と弟がいてくれたら、と思うことが多くなった。
 熊本市北区 岡田政雄(74) 2022.8.6 毎日新聞鹿児島版掲載

「観」でつかむ

2022-08-06 10:49:10 | はがき随筆
 観察、観光、人生観、傍観など「観」のつく熟語は多い。対象をよく見る。景色を楽しみながら見るなど、単純に目で見ることを現す文字と思い込んでいた。寝転んで読んだ本に「観という字には、見るだけでなく、そこから何かをつかむ意味が含まれる」とあり、びっくり。
 政治家主催の観桜会など単に桜を楽しむだけではない。票に結びつくとちゃっかり計算しているのだな。どんな時でも私たちが見えるものの裏側には何かある。常にそれをつかむ訓練をしなくちゃ、と観の一字から漢字の奥深さを改めて教えられた気がした。
 熊本市東区 中村弘之(86) 2022.8.6 毎日新聞鹿児島版掲載て

あっぱれ、名言

2022-08-06 10:42:07 | はがき随筆
 ある日、NHKのローカル番組で、日南市大堂津の小学生たちが、同地区の海水浴場でゴミ拾いをしたという話題が紹介されていた。
 よくある話で特段の注目もせず聞き流していた。最後にこの行事に参加した子どもたちの感想を紹介する場面があった。子どもがいろいろコメントする中で、ある一人の子が「ごみを捨てた人たちに拾ってほしかった」と述べているのを聞いたとき、私の老体に突然ある感動が走り抜ける思いがした。
 「あっぱれ、名言かな」。そこら辺りのどこかにゴミを捨てる人間にはなりたくない。
 宮崎市 山野秋男(88) 2022.8.6 毎日新聞鹿児島版掲載て

これぞ種子島の味

2022-08-06 10:31:20 | はがき随筆
 列島各地で猛暑日が展開している中、ご近所の方が、いまもぎ取ってきたばかりという感じのキュウリ、ピーマン、ナスをひと山持ってきてくれた。家庭菜園で収穫したのだという。
 カミさんは早速液状にといてある、だし入りのミソを小皿に入れて持ってきて、キュウリにつけるや否や、ガブリとかじりつき「ああ、おいしい」とニッコリ。私も真似してかじりついた。ナス、ピーマンにもそのミソをつけて食べ、2人ともおなかを膨らませた。
 「種子島だからこそ、こんな食べ方ができる」とカミさん。
 私にとっては新発見だった。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(85) 2022.8.6 毎日新聞鹿児島版掲載て

忘れられないあの音

2022-08-06 10:24:07 | はがき随筆
 年と共に何でも忘れるのに8月が来ると毎年あの音がなまなましく聞こえる。不思議なものだ。終戦3日前、友達と二人で軍事工場からの帰り道、振り返り空を見上げると金峰山から黒い雲のようなものが広がってくる。友達がB29だと大声で叫んだ。隠れる場所はなく畑のあぜ道に重なるようにかがんだ。低空での機銃掃射が始まり、目の前の草原にブスブスと弾が刺さった。体がガタガタふるえて友達と手を握り、どんなにして帰ったか思い出せない。防空壕の中の母の顔を見てホッとした。あの時の機銃掃射の弾が突き刺さる音は今でも耳に残っている。 
 熊本県八代市 相場和子(95) 2022.8.6 毎日新聞鹿児島版掲載