風来坊参男坊

思い付くまま、気が向くまま、記述する雑文。好奇心は若さの秘訣。退屈なら屁理屈が心の良薬。

一生仕事が人の道 530号

2009年05月02日 06時20分10秒 | 随想
成田空港が開港した1978年に、NHKの「新日本紀行」に登場した鰹漁師、当時62歳の山下天吉さんはテレビの番組インタビューに、「わしゃ70、いや80まで、動けゆう限りこの船で頑張る」ゆうて語りよったがですよ。高知県の土佐清水港が母港だから土佐弁になる。

2009年の執念深いNHKは、その後の状況を取材するのである。

8歳から土佐で鰹の一本釣りをしている今年93歳の天吉さん、70歳が隠居の歳で、船を下りるのが常識の漁師の世界、一人小舟で疑似餌による鰹の漁を継続する老人と海。家督を息子に譲り、市営住宅で夫婦暮らし。

息子達も、舟を降り、漁を辞めることを進言するが、「足腰が立たなかったら、這ってでも漁をするわ」と土佐の「いごっそう」は根性を見せる。

最近は安否を気に懸ける恋女房・89歳の操さんが同乗する夫婦舟が足摺岬のはるか沖の黒潮の波と戦っている。

「仕事をやめた人間はすぐ死んでしまうから死ぬまで働く」
「早くやめて欲しいと思っていたが、この人の好きなようにさせてあげよう。心配だから一緒に船に乗って見守ってあげよう」

老夫婦の標準語に翻訳した会話である。

「万一、海に落ちたら体の不自由な私は助けられない。その時は私も海に飛び込もうかと・・・」

男勝りの土佐の「はちきん」の覚悟であり、究極の夫婦愛。

最近訪れた足摺の岬から、海に飛び込み、自ら命を絶つ人間がいる。その同じ太平洋で懸命に死と向き合っている人間がいる。

死を免れない宿命、全てが死刑囚の人間、生命があるのが有り難い。キツイ仕事それが楽しいのである。懸命に天寿を全うする崇高な行為を目にした。

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