奥飛騨慕情の露天風呂のある民宿で食べた温泉卵が美味かった。固まった黄身の周りを半熟の白身が包んでいる。半熟卵と言えば外側の白身が固まっていて内部の黄身が液状であるものを見慣れている。逆転していて不思議な半熟卵である。沸騰した湯に卵を入れ茹でるとゆで卵が出来る。ゆでる時間の加減により、黄身に火が半分通った半熟卵、完全に火が通った固茹で卵がある。半熟卵では卵の内部への熱伝導のタイムラグを利用して卵白が時間的に先に加熱される現象を利用して、卵黄が完全に凝固状態になる前に加熱停止しているのに対して、温泉たまごでは熱凝固を起こす温度が卵黄のほうが低いことを利用して、卵黄が熱凝固する温度(70度)と卵白が熱凝固(80度)する中間の温度でゆっくり加熱しているためである。殻を取り除いた半熟卵が目玉焼きである。科学的にメカニズムが解明されてしまうと、温泉卵の不思議な美味しさが半減してしまう。科学は夢をぶっ壊す凶器なのか。宇宙船が月に人を運び、巨大な兎がいない事を証明したし、おしどりのつがいに稀に浮気をする鳥が居ることを、DNA鑑定で研究した学者がいる。判らない事があったほうがロマンチックである。還暦を過ぎた最近は、物忘れがひどくて、科学的なメカニズムを思い出せないから、黙って温泉卵を頂くことにする。山里の温泉で食べるとことのほか美味い。食事は物を食うのでなく、諸々の心・命を戴くのである。温泉卵を飛騨牛であると言うようになったら、ボケが始まったのである。
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