風来坊参男坊

思い付くまま、気が向くまま、記述する雑文。好奇心は若さの秘訣。退屈なら屁理屈が心の良薬。

苦悩から歓喜へ 335号

2008年08月10日 15時10分10秒 | 随想
64歳の年齢なのか、夏の暑さが原因なのか、元気が出ないのである。25時間の過酷な連続勤務を務め上げ、仲間とうなぎ蒲焼丼を食べたのである。名鉄電車の鳴海駅から徒歩で半時間程度のJA緑の裏手にある小さな店だ。鰻料理の「ひつまぶし」で有名な熱田神宮のお膝元「宮の宿陣屋跡」の「あつた蓬莱軒」の暖簾分けの「蓬扇」が屋号である。

うなぎ蒲焼は、開いて骨を取り除き白焼にし、濃口醤油、みりん、砂糖、酒などを混ぜ合わせたタレをつけて再度焼く料理である。

陶器の丸い丼飯の上に蒲焼が置かれたうな丼。うなぎと飯が交互に重なる漆塗りの四角い木箱のうな重がある。消化を助ける小粒でもぴりりと辛い漢方薬である山椒の粉をごく僅かに振りかけ香味を楽しみながら重箱の左隅から食べるのが一般的な作法である。

「春の白魚、夏のあじ、秋のさんま、冬のぶり」
魚に旬が有るが、うなぎには無い様で、うなぎを見て、うなぎ職人は焼の塩梅やタレの量を加減する。鰻屋の「たれ」は秘伝で、継ぎ足しながら数十年も使い続ける店の財産で、宝物である。

商人の町・大阪では調理効率の良い腹開きが、武士の町・江戸では「腹を切る」ことを忌み嫌った為に背開きにするが、焼く前に蒸す過程があるから、外側を厚くして身の落下を防止する必要性がある。

午前にも拘らず、既に灼熱のアスファルト歩道を歩き、汗まみれで到着したが、開店が11時半なので30分程度待つことになる。行列が出来る店で、玄関前には丸椅子が在る。続々客が来店して長蛇の列。現地集合で一人がまだ到着していない。女将は全員揃わないと店に入れないと脅迫する。成功しても人間は謙虚な心を忘れてはならない。

ようやく全員集合、一番札で座敷に座り、暫らく待たされ、運ばれたうな丼をむさぼり食べる無言の5人。暑い夏には熱いうな丼。そして空腹はベストソースである。焼きたてのうなぎと熱々の御飯。店のモットーである。

灼熱地獄を通過して、長時間屋外で待たされ、座敷で待たされ、苦しんだ末のこのうな丼。苦しみ悩みをつき抜けて、喜びに至れ。苦悩から歓喜へはベートーベンの第九交響曲のテーマである。元気が戻り蘇生した。

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