風来坊参男坊

思い付くまま、気が向くまま、記述する雑文。好奇心は若さの秘訣。退屈なら屁理屈が心の良薬。

買い物は心の触れ合い 130号

2007年07月28日 16時11分39秒 | 随想
山田洋次監督の映画「男はつらいよ」の主人公・寅さんは香具師である。露天商で、祭り・縁日に、些細なものを売ることで、雰囲気を盛上げる道化師なのだ。百円程度の商品を、ムードと、舌先三寸で高く売りつける、騙しの専門家でもある。

『ケッコー毛だらけ猫灰だらけ、お尻のまわりはクソだらけってねぇ、タコはイボイボ、ニワトリゃハタチ、イモ虫ゃ九十九で嫁に行くと来た、黒い黒いは何みてわかる、色が黒くて食いつきたいが、あたしゃ入歯で歯が立たないときやがった・・・どう?まかった数字がこれだけ、どう?一声千円といいたいねオイ!ダメか?八百!六百!ようし!腹切ったつもりで、五百両と、もってけ!泥棒!』

寅さんの口上の名調子に惚れ込んだ、八千草薫に似たご婦人が、土産物として大量に購入して、親戚縁者・知人友人に配ったのである。八千草薫に似たご婦人の知人は、高学歴・博覧強記・生き字引など、なんでも鑑定団のような知識豊富な人種の集団であるから、商品価値を判断して、婦人の行動が理解できないのである。

質問された答えは「私は寅さんに騙されたかった。今までの人生は、人に騙されること無く、亭主の稼ぎを、有効に活用することに専念した。寅さんの口上で、無性に騙されたくなった。騙されるつもりで購入した時の、寅さんの笑顔。勇気を出して、騙されて嬉しかった」

騙すつもりで売って、騙されるつもりで買って、お互いに笑顔。古き良き日本の、商売である。借りて貸して、贈り贈られの贈答文化が習俗であった。自己中心中毒が、利他の心に目覚めたのである。騙されるのを覚悟して、勇気を出して、お金を出して宝くじを購入しないと、決して当選しないのである。

『めぐりあいが人生ならば、素晴らしき相手にめぐりあうのも、これ人生であります。会うは別れの始めとは誰がいうたか・・・眉と眉の間がこの・・・お嬢さん、あなたここが素晴らしく輝いとります、いい愛情にめぐまれておるかもしれない、しかし、月にむら雲、花に風、一寸先の己れが運命わからないところに人生の哀しさがあります・・・とか何とかいって四角い顔した親爺デタラメいってやがると思っているでしょう・・・本当いうと、これ口からでまかせ、でもね、長い間この商売をしてメシを食っているてえと、百に一つは当たることがあるんだよ・・・』

「寅さん、孫娘を騙して、何を売りつけるつもり」・・・八千草薫に似たご婦人の登場である。寅さん恐縮して、商品を無料提供することになり、貸借関係の消滅である。

人生騙し、騙されの「あざなえる縄の如し」である。私の母親がしばしば言っていた「騙す人間になるより、騙される人間になりなさい」の言葉がある。地に足の着いた堅実な生活態度を勧めていたと思う。利己的人間より利他志向の推奨なのだろう。

騙される勇気を獲得する為に、芋焼酎「風太」を呑み、インターネット競艇で騙され、散財してみようと思う。騙され続けた私は、今日は日本財団を騙し、巨額の紙幣を獲得する予感がする。

大穴的中したら「人を騙す悪い人間です」と墓前に懺悔して、外れたら「騙される優秀な人間になりました」と墓前で報告するだけのことである。人生の終末には貸借関係を無にしなければならないと思っている。

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