goo blog サービス終了のお知らせ 

風来坊参男坊

思い付くまま、気が向くまま、記述する雑文。好奇心は若さの秘訣。退屈なら屁理屈が心の良薬。

灯台守 118号

2007年06月29日 09時09分52秒 | 随想
灯台は、岬の先端や港内に設置された航路標識で、最上部には遠方からでも識別可能な強力な光源を有する塔状の建造物である。平成十八年の暮れに、日本で最後の職員滞在灯台であり、映画「喜びも悲しみも幾歳月」(木下恵介監督)の舞台の一つとなった女島灯台が自動化され、灯台守がいなくなった。

昭和七年、新婚早々の灯台守夫婦有沢四郎ときよ子は観音崎灯台に赴任した。その後も転勤を繰り返し、北海道の石狩灯台で、雪野、光太郎の二人の子を授かる。その後、戦争で多くの同僚を失うなど苦しい時期もあったが、後輩の野津や妻の真砂子に励まされながら勤務を続ける。ところが、男木島灯台勤務の時、光太郎は不良と喧嘩をして亡くなってしまう。その後、御前崎灯台の台長として赴任する途中で雪野と知り合いの息子進吾との結婚話がまとまる。進吾の勤務地カイロに向かう船に向かって、二人は灯をともす。

目視による現在位置の確認をする灯台の存在価値が低下した理由は、電波航法システムの充実で、地上系と衛星系の2系統に分けることができる。

地上系のロランCとは、LOng RAnge Navigation の頭文字をとったもので、長波帯(100kHz)を使用した双曲線航法システム。双曲線航法とは、「2つの送信局からの信号の到達時間差が一定の値となる点の軌跡は、その送信局を焦点とする双曲線となる」という原理を応用した航法である。海上保安庁では、北西太平洋ロランCチェーンとして、伊豆諸島の新島(主局)、沖縄の慶佐次(W従局)、南海の孤島南鳥島(X従局)および北海道の十勝太(Y従局)の4局の管理運用を行っている。

人工衛星で地球上の現在位置を調べるGPS(Global Positioning System)は、米国が軍事用に打ち上げた約30個のGPS衛星から衛星の軌道と、衛星に搭載された原子時計からの時刻のデータを含む電波信号をGPS受信機で受け取り、受信した電波の時間差によりそれぞれの衛星との相対的な距離差を算出し、その軌跡である双曲面の交点を求める事で現在地情報を得る。3個の衛星の電波を捉えれば地球上の平面での位置がわかり(2次元測位)、4個以上の衛星の電波を捉えればさらに高度の情報を得ることができる(3次元測位)。また、地上局を利用するロランCと異なり、受信機の上部を遮られない限り、地形の影響を受けて受信不能に陥る事が少ない。灯台を無能にしたロランCはGPSにより駆逐される運命である。盛者必衰の理である。

例え機械が高度に発展して現在位置を正確に把握できても、絶対機械に任せられないことがある。目的地の決定である。「私の目的地は何処ですか」と機械に聞くようになったら、耄碌したのである。ボケ老人である。機械は人間の奴隷で、主役は人間である。

豊後水道の鶴御崎には、鳥羽一郎の唄でヒットした演歌『男の港』の歌碑が立っている。
 躍る銀鱗 しぶきの華に 親父ゆずりの 腕が鳴る 照らせ男の この晴れ舞台
  ありがとう 水の子の燈台  豊後鶴御崎 男の港
人間活動の喜怒哀楽を唄う演歌はやはり灯台で、GPSやロランの機械は適さない。ロマンが無いのである。青函トンネルに駆逐され、青函連絡船が廃船となり、別れの涙が見られず、北島三郎は泣いている。血も涙も無い世間であることに、私は泣いている。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。