主人公の通称「ハマちゃん」こと浜崎伝助(西田敏行)は、上司の佐々木課長(谷啓)に教わった魚釣りにハマった自他共に認める「釣りバカ」である。ある日ハマちゃんは食堂で魚の食べ方を伝授した「スーさん」という悩める初老の男性を釣りに誘う。後々に分かる事なのだが、このスーさんはハマちゃんが勤める会社「鈴木建設」の社長・鈴木一之助(三國連太郎)だったのである。この二人の奇妙な友情を中心に、ハマちゃんの釣りバカぶりがもたらす珍騒動を描くシリーズの映画である。
趣味に徹する無能なグータラ社員というわけではなく、重要人物と直接交渉したり、反目している両人を仲直りさせたり、折衝・調整能力が高く社員業績は優秀であるが、本人の昇進願望が弱く、他の社員に花を持たせたり、功績を隠したりするので、ヒラのままである。万年上司の佐々木課長はハマちゃんと鈴木社長の関係を知らず、ハマちゃんを単なるグータラ社員だと思っている。この課長の昇進には少なからずハマちゃんが貢献していて、むしろ代わりに出世しているともいえるが本人はまったく知らない。
女房のみちこさんとは、職場結婚である。心優しい美しい女性であるから、職場の花であり、数多くの求婚があった中で、浜ちゃんを選んだのである。浜ちゃんの求婚の言葉は「みちこさんを幸せにする自信はありませんが、みちこさんといる私は幸せです」亭主関白宣言である。みち子さんはこの言葉と釣三昧に熱中する浜崎伝助に命を賭けたのである。宮本武蔵の剣の道に魅かれたお通と同じ古い武士道のわかる女性がみち子さんなのである。今の日本は亭主関白が消滅して、女房独裁である。その原因は給料の銀行振り込みなのである。小遣いは女房から支給される。天下泰平である。
「男はつらいよ」シリーズと同様に松竹の山田洋次が同名の人気漫画をベースに脚本を執筆している。映画には必ず西の落日の映像が入っている。そして一人では生きていけない弱い人間が、弱点を補い助け合う姿に仏教思想を垣間見るのである。人は様々なお陰で生かされているのであり、独りでは生きていけないのである。華やかで格好の良い主人公ではない。寅さんは恋人を人に譲り、ハマちゃんは立身出世を人に譲り、謙譲の美徳を美学とする古い人間が主人公なのである。世間常識なら負け犬・敗北者である。立身出世して、物欲を満足して目立つ人間が多くなった豊かな日本では、金ですべて解決できるとする唯物論への偏りの反省が、フーテンの寅さんやハマちゃんに郷愁を覚え、心が癒されるのだろう。物で栄えて、心はまだまだ荒んでいないのである。
写真は文章からすると落日・夕日と思うだろうが、実は飯田から見た朝日なのである。夕焼けと思ってもらえれば、私は小説家の才能がある。
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