やはり9月だなと最近ツクズク。そう思いながら今週も台風情報にずっと耳を傾けていた。
伊勢湾台風以上の強さだという気象予報士の言葉に、刻々と変わる情報を注視していたが、
夜中に風がとても強く吹いていた印象はあったが、幸いにして香川県内に大きな被害は
でなかったように思う。(間違っていたらすみません)
ただ気になるのは台風一過の登山口までの道路の状況。前回の県道272号線が倒木に
よって道が塞がれ、登山口まで行けなかったのが脳裏に浮かんでいた。県内はそうでも
なかったが、大豊町周辺での雨量はどうだったのだろうか?土砂崩れで通行止めになって
いないだろうか?
資料によるとこの笹ヶ峰から工石山にかけての山域の地質は三波川変成帯に属し、その
脆弱な岩石が度々地滑りを引き起こしていたという。GooglMapの航空写真で見ても、
緑の中に白く崩れた場所があちらこちらにあるのが見て取れる。また2018年の西日本
豪雨で高知自動車道の立川橋の橋桁が流失したのは記憶に新しい。県道5号線も笹ヶ峰
隧道を挟んで、北と南側で未だに道路の崩壊の復旧で通行止めになっている。
そのせいで新宮側からのアプローチは難しく、皆さんが歩いている北側から橡尾峠に登り、
カガマシ山、橡尾山、そして笹が峰を周回するコース取りは諦めた。代わりに思いついた
のが先週歩いた立川越からのピストンと、今日歩く南側の仁尾ケ内から取り付いての往復
だった。但し周回コースならば一回で済む橡尾山から笹ヶ峰の間のスズタケ藪を往復
しなければならない。登岐山のスズタケ藪で分かった事だが、スズタケ藪は下りより
登りの方がかなり体力を消耗する。下りきった後にまた戻って登り返すのが・・・・?
エントツ山さんからは『そんなに難敵ではないのでガンバレ!』と励ましをもらったが
果たして我々にとっての藪度はどれくらいだろうか?道路の状況とその藪度が気になり
ながら朝を迎えた。
先週の笹ヶ峰で久しぶりに一緒に歩いたセニョさんに『セニョさん、橡尾山とカガマシ山
は登った事がないでしょう』『来週も一緒に歩きます?』とお誘いしたら即決した。
豊浜SAで待ち合わせをして一台に乗り合せした後、高知自動車道を大豊まで走る。ICを
降りて直ぐに県道5号線を北に向かう。片側1車線の道は道路幅もあって快調に飛ばして
行くが、途中から台風の風雨で落ちた木の枝や葉が道路に散乱していた。
立川から西に折れ仁尾ケ内林道を進んで行くと、道路には山から出た水が路面を流れていた。
4km弱進んだところで道の右側にバス乗り場と待合の建物と、分岐になっている道には
真っすぐ進むと工石山の案内板。道は鋭角に右に折れると仁尾ケ内の集落へと続いている。
集落の中をゆっくりと走って行き、2回程カーブを曲がって登って行くと民家が途切れ、
いよいよ林道となる。道はやはり山からの出水、そして風で落ちた木の枝。すると後ろの
席でルリちゃんが『あっ!』と声を上げた。道の先を目を凝らして見てみると前回と同じ
絵面。道の上に斜めに倒れた木が見えた。ガ~ン!またか・・・・!
ただ今回は前回の木に比べると幹回りが細い。セニョさんと二人で抱えながら少しづつ動かし、
何とか車が通れる幅が確保できた。ただその先で路面の状態も悪くなり落ちた木の枝で
これ以上進めないと判断して、予定していた鎖のかかったゲートまで行くのは諦めた。
皆さんに『仕方がないのでここから歩きましょう!』と声を掛け、予定していた場所まで
片道2km弱余分に歩くことになる。
8時25分スタート。先ずは鎖がかかったこちらから登っている皆さんが車を停めている
場所まで林道を歩いて行く。
道にはやはり木の枝が散乱していて車で来るのは無理だったと直ぐに判った。
香川では風は強かったが雨の量は大したことがなかったが、この辺りは結構雨も降ったようで
コンクリートの橋の上に水が溢れて勢いよく流れていた。ショートの登山靴だった奥様二人は
靴の中に水が入って『キャー』と悲鳴をあげている。車を停めた場所から30分ほどで予定
していた鎖がかかった場所に着いた。
ここから何度かヘヤピンカーブを曲がり、ぐるっと周回になっている林道の分岐から、
左に進むと、伐採地のさらに上で周回路から分岐して左に続く道がある。その道をしばらく
歩くと道の脇に『カガマシ山登山口』と書かれた木の道標があった。
アキノキリンソウ
その道標から斜め上に白い道標が見えた。少し籔いていたがその道標をめがけて藪の中へ
登って行く。藪は直ぐに終わって杉林の中に入って行く。普段なら登山道が続いているの
だろうが、とにかく地面は落ちた杉の枝葉で埋まって踏み跡が全く分からない。
所々にある赤テープが頼り。
2回程細い谷筋を越え、唯一踏み跡が判る場所を数十メートル登って行く。次第に傾斜が緩く
なってきて、しばらくすると橡尾峠に着いた。
峠に着いた途端に北側から冷たい風が吹きあがってきた。峠から先ずは橡尾山へと歩いて行く。
広尾根も先ほどと同じように一面の落ち葉で踏み跡はほとんど分からない。背の低い笹が道に
広がってくると次第にその背丈が高くなり、腰から下が露で濡れて、ズボンの下の肌に
その濡れた冷たさが伝わってきた。気温も低いのか吐く息が白い。
県境杭とテープを目印に進んで行くと、笹が刈り払われた少し広場になった場所に出た。
三等三角点 栃尾 1222.1m 山名標がなければ山頂だとはまず気づかなかった。
ここから始まるスズタケ藪に備えて水分補給と行動食を口にする。あっちゃんが
セニョさんにバナナを勧めると、珍しくセニョさんもバナナを口にする。
さぁ~ここからが今日の核心部。事前にYAMAPで学習して、このまま直進するのではなく、
少し西に戻って山頂を北側に巻くといいと書いてあったので、10mほど引き返すとテープが
あった。北に向かって踏み跡は下って行っていて少し不安になるが、直ぐに右に折れて
山頂の北側をトラバースするようにテープは続いていた。そのテープに従って歩いて行く。
山頂直下を過ぎ北東に続く尾根に乗るとスズタケの尾根になる。尾根に真っすぐに立つ
枯れた木が一本。笹ヶ峰に続く稜線が見渡せた。この辺りまでのスズタケはまだ柔らかく
それほどでもなかったが、立ち枯れた木から先は固い茎のスズタケの藪になった。
背丈を超えるスズタケを掻き分け掻き分け進んで行く。もちろん踏み跡などないがスズタケの
下に獣道だろうか?空間が続いている。その空間があるうちは足元が踏み出しやすくそんなに
苦にならなかったが、どうもその空間が尾根から外れ北に向かって下がって行っている。
仕方がないので尾根に向かって方向を変えるが、その空間は無く、とにかく足がスズタケの
密集した茎に遮られて、前に踏み出せない。足を持ち上げようにも硬い茎は曲がらず踏み越え
られない。にっちもさっちも身動きが取れないので、身体ごと前に飛び込み倒れてスズタケを
倒して行く。今までいろんなところで笹薮を経験してきたが、ダイビングするなんて初めてだった。
後ろから来る三人もけっこう苦戦しているが、とにかく先頭は体力の消耗が激しい。
山頂から20分強でやっとスズタケ藪を一旦飛び出した。しばらくはスズタケの尾根は続くが
一番密集していたのはこの区間だった。ここからのスズタケは密集度も違い柔らかくて
掻き分けると割とスンナリ進んで行けた。
スズタケ藪が終わると尾根の雰囲気はガラッと変わってくる。時折尾根に突き出すように
大きな岩が現れ、その度に北側に巻いて下って行く。
そして前方が開けた場所に立つ。左には高知自動車道の立川SAが見え、右には
双耳峰の野鹿池山、そして先週も写真に収めた立川越手前の工事現場も見える。
何ヵ所かの大岩はほぼ北側を巻くようにして下る。結構急な場面ではセニョさんも苦労して、
お尻をつきながら下ってきている。
所々でテープもあるが大きな県境杭も目印になる。ライオンの横顔の様な岩では、右も
左も切れ落ちていて、どうも巻けそうな感じがしない。するとあっちゃんが岩の横に
歩いて、『ここから行けるわよ!』と。ただし足元は切れ落ちている。岩に沿って
恐る恐るでスリリング!
スズタケ藪は終わったものの、急な斜面の尾根とトラバースでスピードは全く上がらない。
思った以上に時間がかかっている。
山頂から1時間10分で先週折り返した1029mとの鞍部に着いた。予定ではここから
折返して、橡尾山山頂でお昼にしようと思っていたが、もう既に12時が近かったので、
ここでお昼ご飯にする。先週折返しの目印にした二筋の赤テープも確認できた。
いつもはお昼を食べないセニョさんが、珍しくクリームパンを頬張っている。
シコクブシ
お腹を満たした後は、さてさて今日の仕上げにかかろう。まずは問題のスズタケ藪まで
急登を登って行く。藪漕ぎを想定して橡尾山に邪魔になるストックを置いてきたので、
登りでストックが使えないのが意外と堪える。最初は背の低い笹の尾根だったが、
スズタケが現れると斜度も次第に急になる。ストックの代わりにスズタケの茎を握って
体を持ち上げる。
核心部のスズタケ藪に入る手前で、往路で苦戦した少し尾根から北に外れたコースではなく、
尾根をそのまま直進したら、これが大きな間違いだった。下りでは足元の空間がなくなった
のは最後の数メートルだったが、尾根のスズタケは最初から全くその空間がない。
緑の葉の部分は掻き分けると何とかなるが、足元の硬い茎は密集していてビクともしない。
仕方がないので何度も前方にまたダイブして、身体全体でスズタケ全体を抑えつける。
当然写真を撮る余裕など全くないのに、後ろから来る奥様たちはその踏みつけた後を
来るので余裕の様だ。こうなったヤケクソ。気合を入れて奇声をあげて何度もダイビング!
ヤケクソ、勢いをつけて前方のスズタケに飛び込む瞬間!
幸いにして昨日までの雨風で笹埃はほとんどたたない。これで乾いた笹から埃が舞い上がった
ならほとんど地獄の行進だった。少し藪がマシになった所であっちゃんが先頭を変わってくれた。
目印だった立ち枯れた木からはスズタケの背丈も低くなり、密集度も変わり格段に柔らかく
なって、今までに比べると随分と歩きやすい。途中で北側に見えたのは翠波高原だろうか?
スズタケ藪が終わり山頂直下のトラバースを登りきると、鞍部から1時間10分で橡尾山の
尾根に出た。スズタケ藪と急な下り坂と登り返しの急登で、登りも下りも時間は変わら
なかった。尾根に出て西に向かってカガマシ山を目指して行く。
シコクママコナ
橡尾峠の手前には石積みが残っているが、何の石積みかは分からない。ここからカガマシ山
までの尾根は北側は急峻、南側は緩やかな斜面になっている。その尾根の際を歩いて行く。
1233mの標高点を過ぎると、少し北側に広がった尾根にブナの巨木が何本も立っていた。
そこから先に北側を遠望できる場所が何ヵ所かあった。普段は近眼で遠目はほとんど
見えないが、一番奥に空と海の境界に半島らしき影が薄く見える。あっちゃんに『ほら
荘内半島が見える!』と教えてあげたのに『え~本当~~』と全く信じてくれない。
1233mとカガマシ山との中間で尾根に露岩が現れた。ここからも北側の景色が見える。
その景色を見ながらルリちゃんが、庄内半島や五岳山が見えると教えてくれた。私の目にも
庄内半島や大麻山や五岳山、天霧山も見えた。『ほらね!』とあっちゃんに。
その岩場をやり過ごすと尾根には笹が現れた。さっきの橡尾山のスズタケに比べれば、
楽勝楽勝!前を行く三人もどんどん進んで行く。この辺りは鹿害で樹皮をめくられた
痛々しい木々が目立つ。
昨年に始めた『線で繋ぐ石鎚山~剣山』はこのカガマシ山を中川峠から繋いだのが
最初だった。それが去年の6月24日だったので、カガマシ山は1年3か月ぶり。
以前に比べて下草が伸びたような感じがする。そのせいでしばらく4人で三角点を
探し回ったが、雑草に隠れた三角点はカガマシ山の山名標の足元にあった。
三等三角点 大戸山 1342.6m
セニョさんはこれで二座をゲット。ピークハンターのセニョさんとしては、橡尾山からの
スズタケ藪は余分だったのに、何とか付き合ってくれた。それじゃ予定より時間がかかって
いるので、急いで引き返しますか!
予定では車を停めた場所に16時30分。最長でも17時までには下山しましょうと声を
掛ける。大ブナを横目に見て、さらに岩場を通過してどんどん下って行く。
眺望のきく場所では、観音寺の港から七宝山、そして庄内半島が先ほどより良く見えた。
尾根の右側が自然林から杉林になってくると橡尾峠が近い。ルリちゃんとセニョさんは
尾根に沿って歩いて行ったが、あっちゃんが右手に杉林の中へと歩いて行ったので、後ろを
ついて行く。そのまま進むと登山口から峠に出る手前に突き当たる。
往路の道に飛び出し峠から来る二人を待って一緒に下って行く。道はやはり台風で落ちた
杉の枝と葉で、埋まってしまって道が全く分からない。テープを目印に下って行く。
10分ほど下って行くと道を少し外して、往路で取り付いた登山口から少し外れて林道に出た。
この上の登山口から車を停めた場所まで4km強。スピードを上げて林道を歩いて行く。
この植栽地の杉の木はとにかく立派な高木ばかりだ。中埜林業さんの所有地だそうだが、
きれいに枝打ちされて真直ぐに、そして高く空に向かってすくすくと伸びている。
最初に靴を濡らした奥様たち。替えの靴が車に乗っているので、『エエイ・ままよ!』と
せっかく乾いた靴の中を濡らして渡って行った。上の登山口から1時間10分で到着。
YAMAPでは16.5kmだが、スーパー地形図の沿面距離では18km。その内
林道をけっこう歩いたのと、累積標高がそうでもなかったので、今年に入って最長の
歩行距離と時間の割に思ったより疲れがなかった。やはり昨日から急に涼しくなり、
暑さによるバテが軽減されたのだろう。来週の丸石小屋から三嶺が16kmで10時間を
予定していて、その距離と時間に少し腰が引けていたが、今回で少しは目途がついてきた。
残る問題点はあっちゃが名頃7時集合に間に合うように起きられるかどうかだ。(笑)
これで石鎚山から天狗塚が繋がった(一部残っていますが)。残り2区間。さぁいよいよ
ラストスパートだ!
帰り道、仁尾ケ内林道に沿って流れる立川川は台風の後の増水で、大きな音をたてて勢いよく
流れていた。ただ普通降雨の後の増水では川の水は握っているが、この川は普段と変わらず
青く透き通った川の水の色。地質によるものだろう。立川まで戻ってくると普通の民家に
怪しげな看板。こんな山の中の集落で、どんな女性が出てくるのか?車の中で笑い合いながら
その和風スナックを通過して帰路に就いた。
今日のトラック