2週続けて山歩きをお休みしたら、お山はいつの間にか花の季節に移っていた。
といっても花音痴。毎年この時期はカタクリの花とアケボノツツジを
見に出かける程度のワンパターン。と言う事でまずはカタクリの花の鋸山へ。
でもいつもの林道七々木線の登山口から往復したのではそれこそワンパターンなので、
少し趣向を変えて、北側の山裾の四国中央市寒川から登れないかと考えてみた。
さっそくネットで検索してみると中曽根からの翠波峰、野田からの赤星山を
登っている人は結構いるのだが、寒川町から鋸山に登っている人が見当たらない。
地形図では新長谷寺からの尾根筋と鋸山と七々木山の中間辺りから
北に向かって破線が続いている。登りは林道観音谷線を歩くことになるが、
新長谷寺をスタートしてぐるっと周回すれば、距離も高度差もそこそこあって練習になる。
練習と言うのは間もなく再開する『線で繋ぐ石鎚山~剣山』で当面の課題となっている
野地峰~兵庫山の区間の練習。この区間を2回に分けて歩くか、一回で周回するか、
色々考えているのだが、エントツ山さんにアドバイスを求めると、さっそく検証歩きをしてくれて、
兵庫山の北側からのアプローチも有りだと、わざわざ実際に歩いてくれて教えてくれた。
この区間、登岐山のスズタケ藪もさることながら南側の白滝の里山村や東側の桑ノ川林道を
登山口・下山口にするのが周回コースとしては一番単純なコースなのだが、
車をデポして、さらにデポ車の回収にとにかく時間がかかる。
山歩きにはめっぽう強いあっちゃんは車に酔うという弱点がある。
前回、野地峰へ白滝から登った時も山間部のくねくね道に車酔いをしてしまった。
もし北側からのアプローチと周回が可能になれば、この区間を一回で歩けて、
車の移動も恐らく苦にならないだろうと思われる。但し、法皇湖の落合橋を
スタート地点とするとその高度差と歩行距離はけっこうなものになる。
エントツ山さんからも『10~11時間はかかるよ!』と言われている。
そこで今回それに近いコース(高度差と歩行距離)で歩いてみて、奥様たちと
一緒に雰囲気や感触をつかんでみる練習になるかと思った次第だ。
登岐山周辺の計画図
新長谷寺の仁王門の前は大きなイチョウの木とトイレがあり、その脇の駐車場に
車を停めてスタートする。計画ではすぐ東側の尾根の破線を登ってみようと
思っていたのだが、取付きが判らなかったのと、まだ昨日の雨で草木が濡れているので
取りあえず登りはこのまま林道観音谷線を歩いてみることにする。
仁王門の前ではお寺の方が時間をかけて丁寧に石段を掃いていた。
事前に調べたところ、この林道を歩くと鋸山登山口まで約7.5kmの距離になる。
しかもほぼアスファルトの林道歩きとなるが、まぁ取りあえずのんびり歩いて行きましょう。
仁王門から少し歩くと銅山川疏水長谷川水路橋がある。
この宇摩地方は瀬戸内海と急峻な法皇山脈に挟まれ平野部が少なく、降った雨は直ぐに
瀬戸内海に流れ込んでしまい、用水不足で干ばつの多発地帯であったのを、山を越えた
銅山川からトンネルを貫き農業用水として利用している。その疏水が長谷川に架かる水路橋なのだ。
道の脇には所々に石仏が祀られている。この林道には新長谷寺を起点に両国霊場の1番から
15番までの石仏があるらしいが、そこまでの数は見受けられなかった。
奥様たちはあちらこちらで咲く小さな草花を眺めながら歩いている。
しばらくの間は長谷川に沿って道が続いている。雨の後、川の水は勢いよく流れている。
湿った道をサワガニが横断していく。
川の水の音が聞こえなくなると周りは杉林になり、足元は未舗装路になる。
時折見える山の上はまだガスがかかっていて、重苦しい雰囲気が漂ってくる。
お目当てのカタクリの花が開いているかが気になってきた。
山の上はそんな状態だが、林道から北側を見ると木々の隙から麓の街は見え始めた。
このまま気温が上がって山の上のガスが流れてくれればいいのに。
道が未舗装から舗装路になる。気にせずそのまま舗装路を少し直進してしまうが、
スマホで確認すると翠波高原へ向いて歩いている。
直ぐに引き返して分岐から未舗装の道を歩いて行く。地形図を見てみるとこの辺りは、
確かに線が複雑に交差しながら、あちらこちらに向かって続いている。
途中から見えた山の上はガスで真っ白だったが、少しずつ流れている雰囲気がする。
鋸山に着くころには青空が期待できるかもしれない。その白いガスを背景にして
新緑の明るい緑が輝いていて眩しく見えた。
未舗装路からまた舗装路へと飛び出した。この道が林道法皇線となる。
法皇山脈始めとする法皇トンネル・法皇スカイラインと法皇を冠にした名前が多いが
その名前の由来については、後白河法皇の三十三間堂建立時に使われた木材が
優秀であったため、その産地である山に法皇の名を付ける許しがあったと言われているそうだ。
その法皇線を東に向かって歩いて行くとガードレールに沿って、何台もの車が駐車していた。
ここから今度は林道七々木線の未舗装路へと歩いて行く。
いつもは翠波高原からアスファルト道をここまで車で来て、最後に登山口まで未舗装路を
車で走って行くのだが、今日は初めて歩いて行く。
新長谷寺から林道観音谷線を歩いて約8km。時間にして2時間30分で登山口に着いた。
登山口の手前には車が2台停まっていたが、その脇の木に新しく寒川山と書かれたプレートがあった。
あっちゃんに『YAMAPのポイントがひとつあるけど登りますか?』と聞くと
『もちろん!』と即返事が返ってきた。小さなピークを2回程越えると四等三角点 寒川山。
寒川山からは直ぐに引き返して登山口へ。そしていつもの様に急登が始まる。
林道歩きとはいえ、さすがに8km近くを歩いてきた後の急登は堪える。
しかも3週間開けての本格的な山道。左の股関節辺りと太腿が張り始めた。
奥様たちはその林道歩きなどどこ吹く風。今そこから歩き始めたようにして
いつものように急登をグイグイと登っていっている。
急登が終わると新緑のプロムナード。その新緑の中、姿は見えないがあちらこちらで鳥が
鳴いている。今どきの事だから、鳥の鳴き声で種類が判るアプリもあるんじゃないだろうか。
今度探して見ようかな?といっても花の名前と一緒で、いつもで立っても憶えられない
ような気がしないでもない。
登山口から30分弱で鋸山山頂に着いた。山頂といっても周りは木々に囲まれて眺望はない。
ただ少し手前の北側の大岩からは眼下に眺望が広がっている。
大岩から山頂に戻りその先にあるいつもの大岩まで歩いて行く。
この大岩は鋸山では一番のビューポイント。四国中央市から土居町までの
東予の街並みと瀬戸内海の眺めが最高な場所だ。大抵ここで皆さん一息入れている。
時間は12時前。丁度いい時間なので眼下の景色を眺めながらお昼ご飯にする。
三人でのんびりとお昼ご飯を食べていると、女性が独りやってきて『ご一緒してもいいですか?』と。
お話を聞くと高知の方で、所属している山の会の鋸山の山行が昨日だったが、
自分は参加できなかったので、今日一人でやって来たそうだ。七々木山まで歩いて
戻ってきたと言う。往路ではガスの中でここからの景色は全く見えなかったそうだ。
やはりリーダーの日頃の行いがいいからだろう。陽が当たってカタクリも期待できそうだ。
春の日差しは柔らかく瀬戸内海から吹き上げてくる風も湿気もなく心地いい。
このまま昼寝でもしたい気分だが、ここからが今日の本命。カタクリの花見物もあるが、
地形図にある破線の道が果たしてあるかどうか?取りあえず昼食を終えて先ずは群生地へと向かう。
群生地の道の両脇には植生保護のためテープが張られていていたが、足元で咲いている花もある。
陽が当たり反り返った薄紫の花弁。スプリング・エフェメラルの沢山ある中の花では
一番『春の妖精』の言葉が似あう花だと思う。待ちわびた春が来たのが嬉しくて
みんなで小躍りしているようにも見える。
ただいつもと比べて咲いている花の数が少ないように思った。所々にポツリポツリと
いった雰囲気で、群生地といった感じは全くしなかった。
春の妖精の写真撮影会を終えた後、七々木山に向かって歩いて行く。
ツツジの花は散り始めていたが、それでも芽吹いた木々の春の彩が気持ちいい!
そんな春の道を過ぎると雰囲気はガラッと変わって杉林の中の道になる。
途中から登山道から外れて、GPSを見ながら北に向かって続いている破線を辿って下って行く。
最初は緩やかだった斜面も次第に斜度を増してきたが、枝打ちで積もった枯れ枝と
柔らかい表土に足が食い込み、適度にグリップが効いて思ったよりも下りやすい。
杉林の中に破線の道は無かったが、それでも少し下には濃い実線が地形図には載っている。
このままその道に向かって降りて行けば何とかなるだろうと考えながら下って行く。
植栽地の中には縦横に作業道があり、その内に轍になったような道が下手に続いていた。
おそらくこれが破線の道だろうが、荒れていて歩きづらいので、途中からは窪んだ
道ではなく、その脇の土手になった所を下って行く。
等高線に沿った横の作業道を何度か横断しながら下へ下へと下って行く。
急斜面を岩や枯れ枝・伐採木を避けながらなので、地形図では裾野へ真っ直ぐに続く破線で、
下りの道としてはショートカットなのだが、予想以上に時間がかかっている。
すると少し下に道が見えた。ただ斜面はさらに角度を増していて、比較的まだマシな
沢筋に降りて行くしかない状態になってきた。濡れた岩がゴロゴロする沢筋を
とにかく転ばないように足元に注意しながら下って行っていたが、
左足を前に出し、その後脇の岩の上に右足を載せるとその岩がズルっと滑って
左足の上に載っかかってきた。左足首がその岩の下に埋まってしまって抜こうとしても
土が柔らかく、岩の重みで埋まって行くばかり。ストックで何とか体を支えながらも
身動きが出来ない状態が続く。すると後ろにいたルリちゃんが『ちょっと待っててよ!』と
言いながら助けに来てくれているが、とにかく岩と柔らかい斜面で直ぐには来れない。
なんとかすぐ傍まで来てくれたが、持ち上げられるような岩の大きさではない。
すると急に岩の重さが倍近くになった。前を向いたままで振り返り見ることもできないが、
どうやらルリちゃんが判らず岩の上に載ったようだ。堪らず『痛い・痛い!ルリちゃん、
岩の上に載っています!』と悲鳴をあげるが、ルリちゃんも直ぐに体制を戻せるような
状態ではない。その後降りてきたあっちゃんが埋まった登山靴の下の石を避けてくれ
始めると、少しずつだが足首が動き、何とかその岩から埋まった足を抜くことができた。
自分独りではどうにもできず、斜面で前に向いたまま後ろ足が動かず、そのまま
力尽きて倒れて足が折れるかと思ったが、『ルリちゃんに石の拷問を受けている
みたいだった』と冗談を言って事なきを得た。
足を抜いた後下に崩れた岩
幸い足の痛みもなく、そのまま沢筋を降りて行くとアスファルトの林道法皇線に飛び出した。
『この先の地形図の破線が今までの様な感じだと、けっこう時間がかかると思いますが、
このまま林道を下って行くか、予定通り破線を歩いてみるか、どうしますか?』と聞くと
『予定通り破線を辿って行く』とあっちゃんが即答した。GPSを見てみるとカーブミラーの
辺りから北に向かって破線は続いている。カーブミラーの場所から下を覗いて見ると
何となく道ぽい雰囲気がある。しかも道には真新しい『四国中央市』と書かれた
プラスチックの杭がある。ということは遠からず人が歩いた道があるという事だ。
道は林道から直ぐに明瞭な道になった。さっきまでの悪戦苦闘とは打って変わっての
山道歩き。石の拷問(笑)でロスした時間を取り戻すかのように、二人のスピードが上がっていく。
奥様たちの後ろから時々GPSを確認しながら歩いて行くと、破線からは外れる時もあるが
方角は合っているので下まで続いている破線の道に間違いはない。
その内に鉄塔広場に出た。見覚えのある形の巨大な鉄塔は、阿讃縦走の際に見かけた
伊方原発を起点とする『四国中央東幹線』の鉄塔だった。
道の脇の羊歯が現れると、標高が下がってきたのが判る。
道はGPSを見ると少し破線上から逸れ始めたので、軌道修正をしながら線に
沿って杉林の中を歩いて行く。
杉林を抜けると地形図では実線の道に出た。実線の終点には道の脇にベルトコンベアーや
給水タンクなどがあり、何か施設があったような雰囲気がする。
実線の道から林道観音谷線に向かって、最後に破線の道を下って行く。この辺りまで来ると
道の下には不法投棄された様々なものが目につくようになる。そんな中で一番大きなものは
ナンバーが外された軽トラックだった。
作業小屋の横を通りさらに下って行くと、観音谷線に出た。ここから残り2km弱。
そろそろ背中の張りがキツくなってきたが、アスファルト道を地味に歩いて行く。
二回ほど長谷川に架かる橋を渡り、道の脇に咲く小さな草花を写真に撮りながら
歩いて行くと、後ろからいつもの様にお喋りの絶えない二人も歩いてきている。
スタートして7時間15分。リハビリ後最初の山歩きにしてはよく歩いたもんだ。
YAMAPでは15.9kmだがスーパー地形図の沿面距離では18.2kmになっていた。
途中から張りの出た股関節や太腿よりも、背中の張りが最後に相当酷くなったが、
ほぼ計画通りに歩き通す事が出来た。途中のアクシデントも独り歩きだったら
どうにもならずひょっとしたら遭難していたかもしれない。完歩できたのは奥様たちのお陰だ。
朝は気づかなかったが、新長谷寺の仁王門に続く石段は、平らな石を小端に立て並べて
菱形の模様にしている、とても手の込んだ石段だった。その石段の奥にある仁王門から
さらに奥には石段が続いているのが見えた。朝のスタート時にお寺の方がこの石段を
丁寧に掃いていたのは、平らにではなく小端たてに並べたこの石段のせいだった。
それにしても毎回転倒などのアクシデントを起こすのは私ばかり。
へっぽこリーダーの汚名返上が出来るのはいつのことになるやら!
今日のトラック
といっても花音痴。毎年この時期はカタクリの花とアケボノツツジを
見に出かける程度のワンパターン。と言う事でまずはカタクリの花の鋸山へ。
でもいつもの林道七々木線の登山口から往復したのではそれこそワンパターンなので、
少し趣向を変えて、北側の山裾の四国中央市寒川から登れないかと考えてみた。
さっそくネットで検索してみると中曽根からの翠波峰、野田からの赤星山を
登っている人は結構いるのだが、寒川町から鋸山に登っている人が見当たらない。
地形図では新長谷寺からの尾根筋と鋸山と七々木山の中間辺りから
北に向かって破線が続いている。登りは林道観音谷線を歩くことになるが、
新長谷寺をスタートしてぐるっと周回すれば、距離も高度差もそこそこあって練習になる。
練習と言うのは間もなく再開する『線で繋ぐ石鎚山~剣山』で当面の課題となっている
野地峰~兵庫山の区間の練習。この区間を2回に分けて歩くか、一回で周回するか、
色々考えているのだが、エントツ山さんにアドバイスを求めると、さっそく検証歩きをしてくれて、
兵庫山の北側からのアプローチも有りだと、わざわざ実際に歩いてくれて教えてくれた。
この区間、登岐山のスズタケ藪もさることながら南側の白滝の里山村や東側の桑ノ川林道を
登山口・下山口にするのが周回コースとしては一番単純なコースなのだが、
車をデポして、さらにデポ車の回収にとにかく時間がかかる。
山歩きにはめっぽう強いあっちゃんは車に酔うという弱点がある。
前回、野地峰へ白滝から登った時も山間部のくねくね道に車酔いをしてしまった。
もし北側からのアプローチと周回が可能になれば、この区間を一回で歩けて、
車の移動も恐らく苦にならないだろうと思われる。但し、法皇湖の落合橋を
スタート地点とするとその高度差と歩行距離はけっこうなものになる。
エントツ山さんからも『10~11時間はかかるよ!』と言われている。
そこで今回それに近いコース(高度差と歩行距離)で歩いてみて、奥様たちと
一緒に雰囲気や感触をつかんでみる練習になるかと思った次第だ。
登岐山周辺の計画図
新長谷寺の仁王門の前は大きなイチョウの木とトイレがあり、その脇の駐車場に
車を停めてスタートする。計画ではすぐ東側の尾根の破線を登ってみようと
思っていたのだが、取付きが判らなかったのと、まだ昨日の雨で草木が濡れているので
取りあえず登りはこのまま林道観音谷線を歩いてみることにする。
仁王門の前ではお寺の方が時間をかけて丁寧に石段を掃いていた。
事前に調べたところ、この林道を歩くと鋸山登山口まで約7.5kmの距離になる。
しかもほぼアスファルトの林道歩きとなるが、まぁ取りあえずのんびり歩いて行きましょう。
仁王門から少し歩くと銅山川疏水長谷川水路橋がある。
この宇摩地方は瀬戸内海と急峻な法皇山脈に挟まれ平野部が少なく、降った雨は直ぐに
瀬戸内海に流れ込んでしまい、用水不足で干ばつの多発地帯であったのを、山を越えた
銅山川からトンネルを貫き農業用水として利用している。その疏水が長谷川に架かる水路橋なのだ。
道の脇には所々に石仏が祀られている。この林道には新長谷寺を起点に両国霊場の1番から
15番までの石仏があるらしいが、そこまでの数は見受けられなかった。
奥様たちはあちらこちらで咲く小さな草花を眺めながら歩いている。
しばらくの間は長谷川に沿って道が続いている。雨の後、川の水は勢いよく流れている。
湿った道をサワガニが横断していく。
川の水の音が聞こえなくなると周りは杉林になり、足元は未舗装路になる。
時折見える山の上はまだガスがかかっていて、重苦しい雰囲気が漂ってくる。
お目当てのカタクリの花が開いているかが気になってきた。
山の上はそんな状態だが、林道から北側を見ると木々の隙から麓の街は見え始めた。
このまま気温が上がって山の上のガスが流れてくれればいいのに。
道が未舗装から舗装路になる。気にせずそのまま舗装路を少し直進してしまうが、
スマホで確認すると翠波高原へ向いて歩いている。
直ぐに引き返して分岐から未舗装の道を歩いて行く。地形図を見てみるとこの辺りは、
確かに線が複雑に交差しながら、あちらこちらに向かって続いている。
途中から見えた山の上はガスで真っ白だったが、少しずつ流れている雰囲気がする。
鋸山に着くころには青空が期待できるかもしれない。その白いガスを背景にして
新緑の明るい緑が輝いていて眩しく見えた。
未舗装路からまた舗装路へと飛び出した。この道が林道法皇線となる。
法皇山脈始めとする法皇トンネル・法皇スカイラインと法皇を冠にした名前が多いが
その名前の由来については、後白河法皇の三十三間堂建立時に使われた木材が
優秀であったため、その産地である山に法皇の名を付ける許しがあったと言われているそうだ。
その法皇線を東に向かって歩いて行くとガードレールに沿って、何台もの車が駐車していた。
ここから今度は林道七々木線の未舗装路へと歩いて行く。
いつもは翠波高原からアスファルト道をここまで車で来て、最後に登山口まで未舗装路を
車で走って行くのだが、今日は初めて歩いて行く。
新長谷寺から林道観音谷線を歩いて約8km。時間にして2時間30分で登山口に着いた。
登山口の手前には車が2台停まっていたが、その脇の木に新しく寒川山と書かれたプレートがあった。
あっちゃんに『YAMAPのポイントがひとつあるけど登りますか?』と聞くと
『もちろん!』と即返事が返ってきた。小さなピークを2回程越えると四等三角点 寒川山。
寒川山からは直ぐに引き返して登山口へ。そしていつもの様に急登が始まる。
林道歩きとはいえ、さすがに8km近くを歩いてきた後の急登は堪える。
しかも3週間開けての本格的な山道。左の股関節辺りと太腿が張り始めた。
奥様たちはその林道歩きなどどこ吹く風。今そこから歩き始めたようにして
いつものように急登をグイグイと登っていっている。
急登が終わると新緑のプロムナード。その新緑の中、姿は見えないがあちらこちらで鳥が
鳴いている。今どきの事だから、鳥の鳴き声で種類が判るアプリもあるんじゃないだろうか。
今度探して見ようかな?といっても花の名前と一緒で、いつもで立っても憶えられない
ような気がしないでもない。
登山口から30分弱で鋸山山頂に着いた。山頂といっても周りは木々に囲まれて眺望はない。
ただ少し手前の北側の大岩からは眼下に眺望が広がっている。
大岩から山頂に戻りその先にあるいつもの大岩まで歩いて行く。
この大岩は鋸山では一番のビューポイント。四国中央市から土居町までの
東予の街並みと瀬戸内海の眺めが最高な場所だ。大抵ここで皆さん一息入れている。
時間は12時前。丁度いい時間なので眼下の景色を眺めながらお昼ご飯にする。
三人でのんびりとお昼ご飯を食べていると、女性が独りやってきて『ご一緒してもいいですか?』と。
お話を聞くと高知の方で、所属している山の会の鋸山の山行が昨日だったが、
自分は参加できなかったので、今日一人でやって来たそうだ。七々木山まで歩いて
戻ってきたと言う。往路ではガスの中でここからの景色は全く見えなかったそうだ。
やはりリーダーの日頃の行いがいいからだろう。陽が当たってカタクリも期待できそうだ。
春の日差しは柔らかく瀬戸内海から吹き上げてくる風も湿気もなく心地いい。
このまま昼寝でもしたい気分だが、ここからが今日の本命。カタクリの花見物もあるが、
地形図にある破線の道が果たしてあるかどうか?取りあえず昼食を終えて先ずは群生地へと向かう。
群生地の道の両脇には植生保護のためテープが張られていていたが、足元で咲いている花もある。
陽が当たり反り返った薄紫の花弁。スプリング・エフェメラルの沢山ある中の花では
一番『春の妖精』の言葉が似あう花だと思う。待ちわびた春が来たのが嬉しくて
みんなで小躍りしているようにも見える。
ただいつもと比べて咲いている花の数が少ないように思った。所々にポツリポツリと
いった雰囲気で、群生地といった感じは全くしなかった。
春の妖精の写真撮影会を終えた後、七々木山に向かって歩いて行く。
ツツジの花は散り始めていたが、それでも芽吹いた木々の春の彩が気持ちいい!
そんな春の道を過ぎると雰囲気はガラッと変わって杉林の中の道になる。
途中から登山道から外れて、GPSを見ながら北に向かって続いている破線を辿って下って行く。
最初は緩やかだった斜面も次第に斜度を増してきたが、枝打ちで積もった枯れ枝と
柔らかい表土に足が食い込み、適度にグリップが効いて思ったよりも下りやすい。
杉林の中に破線の道は無かったが、それでも少し下には濃い実線が地形図には載っている。
このままその道に向かって降りて行けば何とかなるだろうと考えながら下って行く。
植栽地の中には縦横に作業道があり、その内に轍になったような道が下手に続いていた。
おそらくこれが破線の道だろうが、荒れていて歩きづらいので、途中からは窪んだ
道ではなく、その脇の土手になった所を下って行く。
等高線に沿った横の作業道を何度か横断しながら下へ下へと下って行く。
急斜面を岩や枯れ枝・伐採木を避けながらなので、地形図では裾野へ真っ直ぐに続く破線で、
下りの道としてはショートカットなのだが、予想以上に時間がかかっている。
すると少し下に道が見えた。ただ斜面はさらに角度を増していて、比較的まだマシな
沢筋に降りて行くしかない状態になってきた。濡れた岩がゴロゴロする沢筋を
とにかく転ばないように足元に注意しながら下って行っていたが、
左足を前に出し、その後脇の岩の上に右足を載せるとその岩がズルっと滑って
左足の上に載っかかってきた。左足首がその岩の下に埋まってしまって抜こうとしても
土が柔らかく、岩の重みで埋まって行くばかり。ストックで何とか体を支えながらも
身動きが出来ない状態が続く。すると後ろにいたルリちゃんが『ちょっと待っててよ!』と
言いながら助けに来てくれているが、とにかく岩と柔らかい斜面で直ぐには来れない。
なんとかすぐ傍まで来てくれたが、持ち上げられるような岩の大きさではない。
すると急に岩の重さが倍近くになった。前を向いたままで振り返り見ることもできないが、
どうやらルリちゃんが判らず岩の上に載ったようだ。堪らず『痛い・痛い!ルリちゃん、
岩の上に載っています!』と悲鳴をあげるが、ルリちゃんも直ぐに体制を戻せるような
状態ではない。その後降りてきたあっちゃんが埋まった登山靴の下の石を避けてくれ
始めると、少しずつだが足首が動き、何とかその岩から埋まった足を抜くことができた。
自分独りではどうにもできず、斜面で前に向いたまま後ろ足が動かず、そのまま
力尽きて倒れて足が折れるかと思ったが、『ルリちゃんに石の拷問を受けている
みたいだった』と冗談を言って事なきを得た。
足を抜いた後下に崩れた岩
幸い足の痛みもなく、そのまま沢筋を降りて行くとアスファルトの林道法皇線に飛び出した。
『この先の地形図の破線が今までの様な感じだと、けっこう時間がかかると思いますが、
このまま林道を下って行くか、予定通り破線を歩いてみるか、どうしますか?』と聞くと
『予定通り破線を辿って行く』とあっちゃんが即答した。GPSを見てみるとカーブミラーの
辺りから北に向かって破線は続いている。カーブミラーの場所から下を覗いて見ると
何となく道ぽい雰囲気がある。しかも道には真新しい『四国中央市』と書かれた
プラスチックの杭がある。ということは遠からず人が歩いた道があるという事だ。
道は林道から直ぐに明瞭な道になった。さっきまでの悪戦苦闘とは打って変わっての
山道歩き。石の拷問(笑)でロスした時間を取り戻すかのように、二人のスピードが上がっていく。
奥様たちの後ろから時々GPSを確認しながら歩いて行くと、破線からは外れる時もあるが
方角は合っているので下まで続いている破線の道に間違いはない。
その内に鉄塔広場に出た。見覚えのある形の巨大な鉄塔は、阿讃縦走の際に見かけた
伊方原発を起点とする『四国中央東幹線』の鉄塔だった。
道の脇の羊歯が現れると、標高が下がってきたのが判る。
道はGPSを見ると少し破線上から逸れ始めたので、軌道修正をしながら線に
沿って杉林の中を歩いて行く。
杉林を抜けると地形図では実線の道に出た。実線の終点には道の脇にベルトコンベアーや
給水タンクなどがあり、何か施設があったような雰囲気がする。
実線の道から林道観音谷線に向かって、最後に破線の道を下って行く。この辺りまで来ると
道の下には不法投棄された様々なものが目につくようになる。そんな中で一番大きなものは
ナンバーが外された軽トラックだった。
作業小屋の横を通りさらに下って行くと、観音谷線に出た。ここから残り2km弱。
そろそろ背中の張りがキツくなってきたが、アスファルト道を地味に歩いて行く。
二回ほど長谷川に架かる橋を渡り、道の脇に咲く小さな草花を写真に撮りながら
歩いて行くと、後ろからいつもの様にお喋りの絶えない二人も歩いてきている。
スタートして7時間15分。リハビリ後最初の山歩きにしてはよく歩いたもんだ。
YAMAPでは15.9kmだがスーパー地形図の沿面距離では18.2kmになっていた。
途中から張りの出た股関節や太腿よりも、背中の張りが最後に相当酷くなったが、
ほぼ計画通りに歩き通す事が出来た。途中のアクシデントも独り歩きだったら
どうにもならずひょっとしたら遭難していたかもしれない。完歩できたのは奥様たちのお陰だ。
朝は気づかなかったが、新長谷寺の仁王門に続く石段は、平らな石を小端に立て並べて
菱形の模様にしている、とても手の込んだ石段だった。その石段の奥にある仁王門から
さらに奥には石段が続いているのが見えた。朝のスタート時にお寺の方がこの石段を
丁寧に掃いていたのは、平らにではなく小端たてに並べたこの石段のせいだった。
それにしても毎回転倒などのアクシデントを起こすのは私ばかり。
へっぽこリーダーの汚名返上が出来るのはいつのことになるやら!
今日のトラック