以前に立ち寄った鳴門の道の駅『くるくるなると』で見かけたメニューのポスターには、
何種類もの美味しそうな海鮮丼の写真が載っていた。なかでも目を引いたのは、丼ぶり
に山のように高く盛られた『海鮮てっぺん丼』だった。
ハマチ・タイ・ブリ・マグロ・サーモン・イクラがどっさりのった海鮮丼。その海鮮の
種類と量もさることながら、そのネーミングに一目ぼれ。てっぺんと聞いたら、やっぱ
り登ってみたくなるのが心情。ただこの時は徳島市内で徳島ラーメンを食べて来ていた
ので、次回にと思いながら道の駅を後にした。
今週はちょうどお休みが奥さんと重なり『どこか連れて行け』との間接的なアピールが
あった。桜のお花見はまだ少し先になりそうだし、どうしたもんかと考えていたら、こ
のてっぺん丼が頭に浮かんできた。『くるくるなると』の海鮮丼についてはその時に話を
していたので、『海鮮丼を食べに行こう!』と誘ったらすんなりOKが出た。
ただ食事だけで出かけるのはもったいないので、その前に腹空かしにひと山登ろうと思
い、すぐ近くの里山の天円山に的を絞った。
まずは天円山のてっぺんを目指し、そのあと海鮮丼のてっぺんを目指すのだ。
下山後のお昼の食堂の混雑時間を避けるため、天円山へはゆっくりめにスタートしよう
と出かけてみると、麓の駐車場にはけっこうな台数の車が停まっていた。
この天円山はいくつかのコースがあるようだが、今日は西尾根コースから登ってみる。
西尾根コースはいきなりの急登。表土が洗われ木の根が露出する坂を登って行く。『根っ
こ坂やね』と奥様。
根っこ坂を過ぎると道の両側はシダで覆われ始めた。特に急になったヶ所にはお助けロ
ープが付けられている。道の脇の杭に『ゆるやかな坂』と書いたシールを張っているけ
ど、『全然ゆるやかな坂じゃないんやけど!』
急登を登りきると本来これがゆるやかな坂といった感じの場所になる。振り返ると山と
山に挟まれ流れる大谷川の向こうに、大麻町の街並みが広がっている。
昨日までの雨の後でシダの緑も瑞々しい。奥様も立ち止まっては写真を撮っている。
※映像が粗い場合は右下の歯車を開いて、画質を1080に設定してください。
すると見晴らしのいい場所に『皇后 雅子様の桜』と書かれた杭の横に、少しつぼみが
開き始めた一本の桜の木があった。この時は何を意味しているのか分からなかったが、
帰って調べてみると、寒緋桜/緋寒桜と大島系の山桜との自然交配種と推定されるサクラ
で、雅子様ご成婚を記念して新種のサクラに「プリンセス雅」と名付けられた桜だそう
だ。地元の方がこの景色のいい場所に植えたのだろう。大きく育てば西尾根コースの景
勝地になりそうだ。
プリンセス雅の横には数珠なりに花をつけたアセビの木。少し北側を見ると四国電力の
鉄塔の横に、稜線からちょこんと頭を出した剣ケ峰のピークが見える。
するとまた急登が始まった。奥様も慣れない岩尾根だが、割とスムーズに登って行く。
この西尾根コースには丸太と板で作られたベンチが所々に設けられているが、そのベ
ンチには休という文字と番号がふられている。番号は山頂までの合目の意味だろうか?
私が通り過ぎようとしたら『これなんの花やろうね』と奥様が声をかけてきた。指さす
木を見てみると小さな花が咲いている、ヒサカキの花だ。気の早いツツジの花も所々で
咲いている。
阿波鳴門線の87番鉄塔近くまで来るとかなり遠くまでの景色が見渡せるようになる。蛇
のように曲がりくねった旧吉野川と、水面が光り輝くレンコン畑の水田。
鉄塔を過ぎると西尾根コースと猿の墓への道との分岐になる。猿の墓は西尾根をトラバー
スするようにして続く道。道の脇には小さな小さなスミレの花たち。今日はあまり期待し
ていなかったが、そこそこお花も見られて奥様も満足げだ。
トラバース道をしばらく歩くと剣ケ峰に続く稜線に出た。稜線からアップダウンをしながら
15分ほど歩くと今日ひとつめのピークの剣ケ峰に着いた。
ピークの先の展望所ではここでもスミレが群生いていた。そのスミレの花たちの中にハ
ナニラも久しぶりの日差しを浴びようと、思い切り花びらを広げている。
香川の里山でもよく見る、登頂記念の記帳ノートがここにもあった。香川では四角いお
菓子の空き缶に入れてあるのだが、ここでは珍しく仮設の電気のボックスに入れてある。
花を前にするといつまでも写真を撮っている奥様。登りで暑くなったので上着を脱いだ
せいで、日陰に立つとまだ汗で冷えてくる。『そろそろ行くよ』と声をかけて、天円山へ
ともと来た道を折り返す。
途中で登ってきた道と猿の墓との分岐。その分岐を登って行くと猿の墓があった。『なん
で猿の墓?』と二人で訝しんだが、調べてみるとこの辺りで悪さをしていた大サルを退
治にきた漁師が返り討ちにあって亡くなり、その敵討ちに漁師の弟が退治したという話
らしいのだが、悪さをしていたサルの墓をわざわざ造るのだろうかという疑問が残る。
サルの墓から天円山山頂を目指して登って行く。何カ所かの急登を登って行くと分岐に
は必ずサルの墓への矢印案内板が建っている。大猿の悪さを聞きつけ兵庫県からわざわ
ざ大猿を退治しようとやってきて、亡くなってしまった漁師の墓の道標は全くないのに、
なぜにおサルなの?と思ったが、漁師の墓は天円山のさらに北に1.5kmほど歩いた場所
にあるらしい。
しばらくすると天円山山頂直下のコンクリート道に出た。道なりに登って行くと鉄塔広
場の上からは徳島の峰々が見渡せるが、なかなか山座同定するのは難しい。
鉄塔からコンクリート道をさらに登って行くとうわさに聞いていたヤギたちが出迎えて
くれた。総勢五匹のヤギたちは私たちを見つけると立ち上がり、まるで道案内をするよ
うにして、山頂までを歩いて行く。
山頂にはベンチが並んでいて、ザックを下ろして腰掛けザックから水筒を取り出そうと
すると早速物欲しそうにして近づいてきた。水筒をだしてインスタントコーヒーにお湯
を注いだ後、おやつに持ってきたカステラを出そうとしたら、ヤギたちがザックに顔を
近づけてきたので、少し危険を感じておやつを食べるのはあきらめた。
天円山は別名天ケ津峰ともいい、山頂には天ケ津神社が鎮座している。この神社には、
天鈿女命(あめのうずめのみこと)が祀られていて、この天円山に西側にある大麻山
には、もともと猿田彦命が祭られていたという。山頭越には二人の夫婦が向かい合っ
ていたが、ここでは二人は少し離れた山にいらっしゃる。(猿田彦命はその後は麓の大
麻比古神社に合祀されている) 二等三角点 雨ケ壷 434.26m
食べ物をもらえないと分かったヤギは座ってまわりの芝生をもぐもぐし始めた。立派
な角の間には淡路島に続く大鳴門橋が見えている。この山頂から景色は申し分ない。
天ケ津神社では天鈿女命に、前回山頭越で不謹慎にもおっぱいを触ってしまった無礼
をお詫びした後、ベンチでコーヒーを飲んでいると二人の男性が登ってきた。
そのうちの一人の男性がザックの中からキャベツを取り出し、足元にばらまくとヤギ
さんの争奪戦が始まった。
しばらくその争奪戦を眺めた後山頂を後にする。コンクリート道から登山口と書かれた
道標から山道へと分け入る。最初は313mの標高点へ向かってのトラバース道。時々道
幅が狭くなり危うい個所もあるが、前を行く奥様は快調にとばしていく。
313mまで来ると南へ下がる支尾根の道になる。この道が西尾根と東尾根との間にある
神社コースかな?時折木々の間が開けると天円山山頂が望める。西側に見えるのは剣ケ
峰からの支尾根だろうか、尾根に沿って感じのいい間隔で立木が並んでいる。あの支尾
根も剣ケ峰へ登るコースになっているようだ。
こちらのコースも急な坂ではロープが張られているが、けっこう古いのか握ると粉をふ
いている。登りはともかく下りの急坂はやはり慣れないのか奥様のスピードが落ちる。
ロープ場を過ぎると『大谷見晴台』と書かれた展望所。
こちらのコースは山頂からは二度鉄塔広場を通過する。二つ目の鉄塔を過ぎると右手に
社殿があった。その奥には日本の石仏とは雰囲気の違う石像が立ち並び、その奥に御嶽
神社奥の院の石祠があった。その石像の衣装からするとどこか中国や韓国といった雰囲
気が漂っている。
奥の院からもまだ急坂が残っていた。振り返るとどんどん奥様が離れていく。『大丈夫
か?』と声をかけると『膝が痛くなってきた』と言う。岩場の足元が怖くて、足を突っ
張ったせいもあるが、ここにきて疲れてきたのもあるのだろう。
それでも何とか下りきり、御嶽神社の裏手に出る。神社の周りにもたくさんの石像が立
ったり座ったりしていたが、それにしてもユニークな石像ばかりだ。
駐車場まで戻ると、朝とは違う車がまだ何台も停まっていた。少ししんどそうにしてテ
ンションの下がっている奥様に、『それじゃ海鮮丼に行きますか!』と明るく声をかけて、
道の駅へと車を走らせる。
くるくるなるとは平日にもかかわらずほぼ満車状態。自身の停めた車の前には、神戸・
京都・三重などの県外ナンバーの車ばかり。『春休みやからかな~』と奥様。
お目当ての海鮮丼のある大渦食堂は、もう13時30分を過ぎているのに、食券を買う人
の行列ができていた。先に奥様に席を取ってもらって食券を買うと、ほどなく食券に
書かれたナンバーが呼ばれて、海鮮丼が出てきた。
やはりメニューの写真よりは小ぶりなどんぶりだったが、一人ではなかなか食べきれ
ない量だ。最初はワサビ醤油で、次にゴマダレそして最後は魚のだし汁でお茶漬けと、
味へんも楽しめて二人とも大満足でてっぺんに登った気分になった。土産物売り場も
人で混雑していて、目新しいお土産や珍しい食品が色々と売られていた。
それにしても最近のサービスエリアや道の駅は侮れません!
花の季節を前にして、まずはお腹を満たした花より団子の一日だった。