朝から雨模様のために、大村市竹松遺跡発掘のアルバイト作業は中止になった。
晴耕雨読ならぬ、晴耕雨釣のウナギ釣りの日にする事を決断した。
というよりは、実は、今度雨で仕事が休みの時には、ウナギ釣りに行こうと友人と談合していた。
談合というと、一般的にしてはいけないことというニュアンスで捉えがちだが、自分が使っている国語辞典によると「はなしあい。相談」という意味になっているので、用語の使い方としては間違ってはいない。
何もしないで、ぼんやりと家の中でテレビでも見ていると、雨の日の1日なんか、あっという間に過ぎてしまう。
楽しいと思える時間を多く持てるような残りの人生にしようと心がけているので、楽しそうな談合はすぐに決まってしまう。
家の庭の端の方に溜まっている枯れ落ち葉の下から、ウナギ釣りの餌に出来る大き目のミミズ、ドバミミズを掘り出して、出かける準備をする。
梅雨時なので、枯れ落ち葉やその下の地面が湿っており、うちの庭にはドバミミズがたくさん生息している。
9時過ぎに諫早市内の友人の家に行き、そこから友人の車で、大村市の鈴田川河口右岸の余崎交差点近くの支流河川の入り口付近の橋の上まで行った。
国道からすぐ見える、JRの線路のすぐ脇付近の、他の作業員の方からあらかじめ教えてもらっていたポイントに陣取る。
その区域は、旧道の跡であり、道幅も広く、JRの線路と交差するところで車輌は行き止まりになっているので、通行する車は無く、車を止めて釣っていても邪魔にはならない、のんびりと釣りをするには絶好のポイントだ。
10時ごろからつり始めた。
つり始めた頃は干潮の時間帯で、しばらくすると潮が満ち始めた。
九州地方ではドンポと呼んでいる、ハゼ科の魚、ドンコがちらほら釣れる。
途中から雨が強く降り始めたので、雨合羽を着て釣りに熱中していたら、昼飯を食べるのも忘れてしまっている。
雨が強く降り出したので、しばらくしてから川の上流部から濁った水が流れ出してきた。
ウナギ釣りにとっては、上げ潮と川上からの濁り水の流下というコンディションとしては最高の状態が整ってきた。
ドンポは時々釣れる。
しかし、なかなかウナギは釣れてくれない。
午後1時20分ごろ、私の仕掛けに、ついにウナギが喰らいついてくれた。
かなりの重さで、ウナギの魚体が半分ぐらい水面上に出てきた所で「ポトリ」。
残念ながら逃げられてしまった。
しかし、ウナギが上げ潮と共に遡上してきている事は確認できたので、がぜん張り切って、わくわくしながら釣りに集中する。
しばらくしてから、別の仕掛けにも当たりがあったので上げてみる。
こちらもかなりの手ごたえではあったが、同じようにウナギの魚体を半分ぐらい見たところで「ポチャン」。
2回も立て続けにばらすと普通であればイラッと来る所であるが、そうはならずに、魚影の濃さを確認できたことの方がむしろ嬉しく、益々期待が膨らむ。
友人から、ウナギが餌を完全に喰い込むまでじっくり待つ方が良いというアドバイスを受けたので、当たりがあっても上げたい気分を我慢して、じっくりと待ってみる事にした。
1時30分ごろ、ついにその時はやってきた。
重い。重すぎる。
かかったウナギが水中であばれ、なかなかウナギの姿を見る事が出来ない。
やっとの思いで水中から抜き上げると、かなりの大きさのウナギだ。
空中に抜き出しても、竿のしなりで橋の上まではなかなか上げる事が出来ない。
友人がタモを準備してくれたが、タモの柄が短くて空中のウナギの所まで届かない。
やむを得ず、友人にお願いして、道糸を掴んで抜き上げてもらうようにした。
友人が道糸を掴み、慎重に引き上げながら橋の欄干の下まで持ってきて、一気に抜き上げてくれた。
その瞬間にハリスが切れて、ウナギは橋の上に落下してしまい、雨でぬれて水が少し溜まっている路面を、スルスルと逃げ回る。
友人と二人して、その逃げ回るウナギを掴もうと、必死でウナギを追いかけて回る。
国道の車の中から、もしも二人のその様子を目撃していた人がいたとすれば、きっとテレビのお笑い番組よりも面白い光景だったに違いない。
友人が、タモで押さえつけるようにしてウナギを取り押さえてくれたので、二人してタモの上からウナギを掴み、長さが40cmぐらいの小さなクーラーボックスのフタを開け、そのウナギをクーラーボックスに入れようとする。
そのクーラーボックスの長さから、かなりはみ出すサイズのウナギも必死である。
一度入れたクーラーボックスから、体をくねらせて、再び逃走を図る。
そのウナギを、またまた二人して追い掛け回して掴もうとする。
追い掛け回している二人して、自分たちの行動に笑いがこみ上げてきた。
そのような事を2回ほど繰り返して、やっとの思いでウナギをクーラーボックスに押し入れて、間髪をいれずにフタを閉じてロックをする。
二人して笑いながら握手。
魚釣りで、こんなに興奮して楽しい思いをしたのは初めてだったような気がする。
後で、家に帰ってそのウナギの長さを測ったら、全長が丁度60cmあった。
興奮冷めやらぬままで、5分もしないうちに強い当たりがあり、ウナギだと思って上げてみると、なんと水面に姿をあらわしたのは、40cm以上はあるような銀色で平べったい魚のチヌだった。
今度は本当にびっくりして、友人にタモの応援をしてもらおうと思ったが、興奮してしまって、少し離れた所にいた友人に「おーい」「おーい」と呼びかけることしかできなかった。
この魚は、友人がタモを持って駆けつける前に、4号の道糸がプツンと切れて、水の中にさよならしてしまった。
ドバミミズの餌にチヌが喰いつくなどという事は、考えてもいなかったので、本当にびっくりして興奮してしまった。
結果としてばらしてしまったが、ドバミミズの餌でウナギ釣り用のつりばりにでも、チヌが喰らいつくという事を学習した。
しかも川の河口の汽水域で。
その後また、水中から半分ほど魚体を見せてくれたウナギ1匹はばらし、その後にヒットしたウナギは、友人に道糸を抜き上げてもらうという例の方法にて、例の如く右往左往の結果、無事に取り込むことが出来た。
全長が50cmのウナギだった。
友人も、ウナギを1匹は無事に取り込み、1匹はばらしていた。
午後4時半頃に、準備していた餌のドバミミズを使い切ってしまったので納竿した。
釣果は、友人と合わせて、ウナギが3匹、ドンポが8匹だった。
ばらした魚は、友人と合わせて、ウナギが4匹、チヌが1匹だった。
帰宅してから、うちの女房殿の「料理をしてしまうまでが魚釣り」という厳しいお達しに従い、食事の後に、釣ってきたドンポとウナギを捌き、ドンポは煮付けにして、ウナギは蒲焼にする事にした。
竹串も七輪も無いので、ウナギの切り身は、プロパンガスのオーブンでじっくりと時間を掛けて素焼きにした。
それから、醤油、味醂、砂糖を混ぜてタレを作り、素焼きしたウナギをそのタレに浸してから、再びオーブンでこんがりと焼き上げて、ウナギの蒲焼の出来上がり。
焼き魚を焼く時は、川の魚は皮から先に、海の魚は身から先に焼くという事を女房殿から教わっていたので、そのようにして焼いた。
要するに、切り身の魚の皮や身が、焼き網にくっつかないようにするために、火元の方にどちら側を先に向けて焼くかという事だが、川の魚は皮から、海の魚は身からという事にすれば良いということ。
私の分類では、ウナギは川魚という事にしている。
結局、ウナギの蒲焼が出来上がり、本日の「魚釣り」の楽しい楽しい趣味を完結できたのは、夜の11時ごろだった。
かくして、雨の日を楽しく過ごすという目標を立てた1日は、残業つきのおまけまでついて、目標どおりに楽しく平穏に過ぎたのでした。
豊田一喜
晴耕雨読ならぬ、晴耕雨釣のウナギ釣りの日にする事を決断した。
というよりは、実は、今度雨で仕事が休みの時には、ウナギ釣りに行こうと友人と談合していた。
談合というと、一般的にしてはいけないことというニュアンスで捉えがちだが、自分が使っている国語辞典によると「はなしあい。相談」という意味になっているので、用語の使い方としては間違ってはいない。
何もしないで、ぼんやりと家の中でテレビでも見ていると、雨の日の1日なんか、あっという間に過ぎてしまう。
楽しいと思える時間を多く持てるような残りの人生にしようと心がけているので、楽しそうな談合はすぐに決まってしまう。
家の庭の端の方に溜まっている枯れ落ち葉の下から、ウナギ釣りの餌に出来る大き目のミミズ、ドバミミズを掘り出して、出かける準備をする。
梅雨時なので、枯れ落ち葉やその下の地面が湿っており、うちの庭にはドバミミズがたくさん生息している。
9時過ぎに諫早市内の友人の家に行き、そこから友人の車で、大村市の鈴田川河口右岸の余崎交差点近くの支流河川の入り口付近の橋の上まで行った。
国道からすぐ見える、JRの線路のすぐ脇付近の、他の作業員の方からあらかじめ教えてもらっていたポイントに陣取る。
その区域は、旧道の跡であり、道幅も広く、JRの線路と交差するところで車輌は行き止まりになっているので、通行する車は無く、車を止めて釣っていても邪魔にはならない、のんびりと釣りをするには絶好のポイントだ。
10時ごろからつり始めた。
つり始めた頃は干潮の時間帯で、しばらくすると潮が満ち始めた。
九州地方ではドンポと呼んでいる、ハゼ科の魚、ドンコがちらほら釣れる。
途中から雨が強く降り始めたので、雨合羽を着て釣りに熱中していたら、昼飯を食べるのも忘れてしまっている。
雨が強く降り出したので、しばらくしてから川の上流部から濁った水が流れ出してきた。
ウナギ釣りにとっては、上げ潮と川上からの濁り水の流下というコンディションとしては最高の状態が整ってきた。
ドンポは時々釣れる。
しかし、なかなかウナギは釣れてくれない。
午後1時20分ごろ、私の仕掛けに、ついにウナギが喰らいついてくれた。
かなりの重さで、ウナギの魚体が半分ぐらい水面上に出てきた所で「ポトリ」。
残念ながら逃げられてしまった。
しかし、ウナギが上げ潮と共に遡上してきている事は確認できたので、がぜん張り切って、わくわくしながら釣りに集中する。
しばらくしてから、別の仕掛けにも当たりがあったので上げてみる。
こちらもかなりの手ごたえではあったが、同じようにウナギの魚体を半分ぐらい見たところで「ポチャン」。
2回も立て続けにばらすと普通であればイラッと来る所であるが、そうはならずに、魚影の濃さを確認できたことの方がむしろ嬉しく、益々期待が膨らむ。
友人から、ウナギが餌を完全に喰い込むまでじっくり待つ方が良いというアドバイスを受けたので、当たりがあっても上げたい気分を我慢して、じっくりと待ってみる事にした。
1時30分ごろ、ついにその時はやってきた。
重い。重すぎる。
かかったウナギが水中であばれ、なかなかウナギの姿を見る事が出来ない。
やっとの思いで水中から抜き上げると、かなりの大きさのウナギだ。
空中に抜き出しても、竿のしなりで橋の上まではなかなか上げる事が出来ない。
友人がタモを準備してくれたが、タモの柄が短くて空中のウナギの所まで届かない。
やむを得ず、友人にお願いして、道糸を掴んで抜き上げてもらうようにした。
友人が道糸を掴み、慎重に引き上げながら橋の欄干の下まで持ってきて、一気に抜き上げてくれた。
その瞬間にハリスが切れて、ウナギは橋の上に落下してしまい、雨でぬれて水が少し溜まっている路面を、スルスルと逃げ回る。
友人と二人して、その逃げ回るウナギを掴もうと、必死でウナギを追いかけて回る。
国道の車の中から、もしも二人のその様子を目撃していた人がいたとすれば、きっとテレビのお笑い番組よりも面白い光景だったに違いない。
友人が、タモで押さえつけるようにしてウナギを取り押さえてくれたので、二人してタモの上からウナギを掴み、長さが40cmぐらいの小さなクーラーボックスのフタを開け、そのウナギをクーラーボックスに入れようとする。
そのクーラーボックスの長さから、かなりはみ出すサイズのウナギも必死である。
一度入れたクーラーボックスから、体をくねらせて、再び逃走を図る。
そのウナギを、またまた二人して追い掛け回して掴もうとする。
追い掛け回している二人して、自分たちの行動に笑いがこみ上げてきた。
そのような事を2回ほど繰り返して、やっとの思いでウナギをクーラーボックスに押し入れて、間髪をいれずにフタを閉じてロックをする。
二人して笑いながら握手。
魚釣りで、こんなに興奮して楽しい思いをしたのは初めてだったような気がする。
後で、家に帰ってそのウナギの長さを測ったら、全長が丁度60cmあった。
興奮冷めやらぬままで、5分もしないうちに強い当たりがあり、ウナギだと思って上げてみると、なんと水面に姿をあらわしたのは、40cm以上はあるような銀色で平べったい魚のチヌだった。
今度は本当にびっくりして、友人にタモの応援をしてもらおうと思ったが、興奮してしまって、少し離れた所にいた友人に「おーい」「おーい」と呼びかけることしかできなかった。
この魚は、友人がタモを持って駆けつける前に、4号の道糸がプツンと切れて、水の中にさよならしてしまった。
ドバミミズの餌にチヌが喰いつくなどという事は、考えてもいなかったので、本当にびっくりして興奮してしまった。
結果としてばらしてしまったが、ドバミミズの餌でウナギ釣り用のつりばりにでも、チヌが喰らいつくという事を学習した。
しかも川の河口の汽水域で。
その後また、水中から半分ほど魚体を見せてくれたウナギ1匹はばらし、その後にヒットしたウナギは、友人に道糸を抜き上げてもらうという例の方法にて、例の如く右往左往の結果、無事に取り込むことが出来た。
全長が50cmのウナギだった。
友人も、ウナギを1匹は無事に取り込み、1匹はばらしていた。
午後4時半頃に、準備していた餌のドバミミズを使い切ってしまったので納竿した。
釣果は、友人と合わせて、ウナギが3匹、ドンポが8匹だった。
ばらした魚は、友人と合わせて、ウナギが4匹、チヌが1匹だった。
帰宅してから、うちの女房殿の「料理をしてしまうまでが魚釣り」という厳しいお達しに従い、食事の後に、釣ってきたドンポとウナギを捌き、ドンポは煮付けにして、ウナギは蒲焼にする事にした。
竹串も七輪も無いので、ウナギの切り身は、プロパンガスのオーブンでじっくりと時間を掛けて素焼きにした。
それから、醤油、味醂、砂糖を混ぜてタレを作り、素焼きしたウナギをそのタレに浸してから、再びオーブンでこんがりと焼き上げて、ウナギの蒲焼の出来上がり。
焼き魚を焼く時は、川の魚は皮から先に、海の魚は身から先に焼くという事を女房殿から教わっていたので、そのようにして焼いた。
要するに、切り身の魚の皮や身が、焼き網にくっつかないようにするために、火元の方にどちら側を先に向けて焼くかという事だが、川の魚は皮から、海の魚は身からという事にすれば良いということ。
私の分類では、ウナギは川魚という事にしている。
結局、ウナギの蒲焼が出来上がり、本日の「魚釣り」の楽しい楽しい趣味を完結できたのは、夜の11時ごろだった。
かくして、雨の日を楽しく過ごすという目標を立てた1日は、残業つきのおまけまでついて、目標どおりに楽しく平穏に過ぎたのでした。
豊田一喜