映画『グリース』(1978年)に出て
くる革ジャンについて。
メーカーの型番検証は後日に書く
として、まずその種類のタイプと
特徴等について。
この映画は、公開時の1978年の
約19年前の1959年を劇中の舞台
としている学園青春ミュージカ
ル映画だ。
フィフティーズのアメリカの束
の間の平和な時代を背景とした
若者たちのロマンスを描いてい
る。
オーストラリア在住のお嬢
様のコニー(オリビア・ニュ
ートン・ジョン)は別なハイ
スクールの同学年のダニー
(ジョン・トラボルタ)とアメ
リカの夏のバカンスの海岸で
出会って恋に落ちる。
物語の流れからして、どちらも
異性経験無しのピュアティーン
だ。異性と付き合った事さえな
い。
そして、9月に学年が変わり新学
期が始まって、ダニーは仲間た
ちに夏の淡い思い出を語る。
一方、コニーも女の子仲間の女
子高生たちに夏のダニーの思い
出をとっても優しくて素敵な人
だったの、と語る。
二人の場面は歌いながら踊るミ
ュージカル独特のオープニング
として描かれる。
ところが。
突然、歌い踊る最中にバンとぶ
つかるように二人は高校の校庭
で出会う。
コニーは父親の仕事の関係でア
メリカに転住して転校したが、
それは偶然ダニーの高校だった
のだ。
青春ラブコメ展開の王道である。
絵に描いたような黄金パターン
だ。食パンダッシュではないが、
このぶつかるように出会い、そ
れは運命の人、という展開。
大抵は転校生だったりする。
このパターンは、日本の劇画
『バリバリ伝説』や『あいつ
とララバイ』でもしっかりと
使われたし、映画『時をかける
少女』では悲しいラストシーン
で一方が記憶を無くされたまま
運命の人と廊下でぶつかるとい
うシーンで描かれた。
いろいろ行き違いがあったコ
ニーとダニーだが、やがて二
人はますます思いを募らせて
行く。だがうまくいかない。
アメリカでは、プロム=プ
ロムナードという学年最後の
ダンスパーティーがある。
日本の高校の文化祭のような
ものだが、アメリカの場合は、
そこで初めて異性と手を取って
ダンスができる大人への一歩、
というような位置づけだった。
高校はプロムを終わらないと
卒業できない、というような
感覚だ。
学校の競技場で、仲間に夏の思
い出を聴かせるダニー。
「それから?それから?」とちょい
ワルを気取った同級生チームの友
人たちははやしたててダニーに尋
ねる。
ダニーはかなり話を盛って「ばっ
ちり、決めてやったぜ!」とか
ホラを吹く。
空威張りの話盛り盛りの痩せ我慢
見栄っ張り。典型的なアメリカの
不良たちのスタイルだ。70年代の
日本でいうなら、「あたぼうよ!」
とか言いながら内心てんでショ
ボンだったりする。
ダニーたちは学園の仲間と "T" BIRDS
というチームを作っている。
ライディングチームでもモーター
チームでもない。群れた不良の集
まりだ。
本人たちはイカしてると思い、同じ
ようなカッコをして、他校生たちの
別チームと喧嘩したりする。
不良少年なのだが、非行少年で
はなく、日本の半グレやヤクザ
予備軍の特攻服連中とも違う。
また、30年程前にいた渋谷の
チーマーとも1970年代の暴走族
とも違う。
アメリカ独自の「高校生の不良」
であり、酒もタバコもやるが、
野放図ではなく、存外異性にウブ
で、異性と肉体関係を持ったら
「えー?!」となるようなアメ
リカの1950年代特有の若者たち
だ。
なんせ、プレスリーが歌いなが
ら腰を振ったら卑猥として逮捕
の時代である。
いくら異性交友先進国のアメリ
カでもそんな時代だったのだ。
日本などは、当時は結婚までは
女性はほぼ全て処女だった。
アメリカの戦後1950年代の高校
生の不良などもかわいいもんだ。
チェリー&バージンが一般的高
校生だった。
俯瞰するに、日本では『グリー
ス』が公開された1978年前後が、
ちょうどアメリカのその20年前
の高校生の風俗と感覚が重なる
ように思える。時代として。
"T" BIRDS たちはそれぞれ個人
で好きなタイプの革ジャンを着
ている。
ダニーと親友ケニッキー(ジェフ・
コナウェイ)はダブルライダース
だ。
ケニッキーの革ジャンは茶芯が
出ていて、ダニーの革ジャンよ
り渋い。
チームの他のメンバーはシングル
だ。
襟付きトラッカータイプやMA-1
タイプ。
彼らは革ジャンは揃いではなく
それぞれ好きな物を着ているが、
背中には手描きの白ペイントで
チーム名の看板を全員が描いて
いる。 "T" BIRDS だ。
対立チームや仲間と喧嘩もするが、
すぐに打ち解けて仲良くなる。
これが青春。ネチネチ野郎は
いやしねえ。
「不良は嫌い」とコニーに言われ
たダニーは、健全少年になってみ
ようと高校のスポーツジムを訪ね
る。好きな娘に好かれたいと無理
して。
この時、多分紙型切り抜きでチー
ムのみんなで同じようにペイント
したであろう背中のチームの看板
が見える。
面白い現象が現在ある。
現在、映画『グリース』に登場す
る "T" BIRDS のレプリカと称
する背中文字書きの革ジャンが
アメリカでは多く販売されている。
しかし、正確に映画のダニーらの
革ジャンの文字と文様をコピーし
た商品は皆無なのだ。皆無。
一つもない。
これなどは、文字が大きすぎて"T"
が傾いていない。ダメ。似て非な
るもの。
デカすぎ、傾けすぎている。
それに『グリース』では『ウエ
ストサイドストーリー』(1961)の
ようなナイフ乱闘などはやらない。
ほのぼのミュージカルだ。完全に
アウト。世界観さえ解ってない。
ダメ。
論外。大気圏外。
惜しいところ行ってるが、文字
大きさとフォントが違う。
こちらも残念系。
太陽系外。
これも惜しいがでかい。
てんでダメ。映画よく見ろ!系。
一番原本に近い系。
但し、Tが大きすぎ。実に惜しい。
原本。
"T" BIRD とはサンダーバード
の事だ。
アメリカインディアンに伝わる
伝説の霊鳥である。
体長5メートルほどの怪鳥で、
雷の精霊であり、自在に雷を落
として獲物を獲るとの伝承があ
る。多くのインディアンの部族
に共通する伝説として残されて
来た。
英国TV実写人形劇の「サンダー
バード」の1号のロケットは、
このトーテムポールからデザ
インされた。
日本や中国オリエンタルでは
鳳凰、西欧ではフェニックス
など、霊鳥は古くから人類は
ある種の強い霊的存在として
捉えていた。
ダニーは何度もコニーに気持ちを
打ち明けるが、コニーは夏と違う
ダニーにおかんむりだ。
プレスリリース時のオリビアとジョン。プロムでようやく意気投合するが、
これもうまくいかない。
不貞腐れたダニーは、それでも
諦められずに、ついに革ジャン
を脱いで、真面目君のようなセ
ーターを着て仲間たちが待つ
カーニバルに行く。
仲間たちからは「そのセーター、
どこでかっぱらってきたんだ?」
などといじられる。
そこに、大変身したコニーが登場
して、ダニーは魂にサンダーバー
ドの雷を落とされる。
そしてダンスによる大円団。
ここのシーンは能天気でかなり好き。最後はファンタジー。二人を乗せ
た車は天に昇って行く。
ケニッキー役のコナウェイは、
この作品の二年後にオリビア
の実姉のローナ・ニュートン・
ジョンと結婚する。
今は二人とも病没した。
ローナとオリビア。オリビアとジョンは今でも時々
グリースメモリアルイベントに
二人で登場する。ばばあとじじいになっても、
心の時は変わらず。
『グリース』は1978年時点で
1959年時点を描いた作品だ。
その頃の両アメリカの共通項。
それは、「戦争をしていなかっ
た時代」である。
彼らの青春グラフティは、戦
争のない時代の象徴でもあっ
たのだ。50'sの魂は不滅。
日本は戦争をやめて76年。
ヘボでもいいじゃん。好きな
あのコと踊れるならば。