『巨人の星』では、昭和32年(1957年)
に大学野球のスター選手だった立教大学
の長島茂雄が巨人軍に入団が決まる
ところから物語がスタートする。
その時、小学校5年生だったのが主人公
星飛雄馬だ。
つまり、星飛雄馬は昭和21年(1946年)
生まれということになる。
第10話では、昭和41年(1966年)、中学
3年になった飛雄馬は進学か就職かで悩む。
(作品では年齢の設定に5年ズレが生じて
いる。1966年に15才ならば1951年-
昭和26年生まれとならなければおか
しい。
だが、昭和26年生まれだと、昭和32年時
では6才児であり小学校進学前となる。
原作、アニメ共に飛雄馬の年齢設定は5年
すっとばしの不整合が生じている。小学校
5年の教室で長島の話題に怒った星飛雄馬
が長島の入団パーティーで魔送球を投げ
るが、それは小学校入学前の幼児の投球
になってしまう。また、中学生で自動車
を乗り回す花形の設定は当時の免許制度
とも合致しないが、それは無免許運転と
いう事で説明はつくにしても、飛雄馬と
の年齢差があり過ぎる事になり、高校
時代に花形との対戦は出来なくなる。
これまた年齢の整合性が作品では取れて
いない)
飛雄馬が高校進学に迷ったのは、家の
経済状況から高校進学が厳しかった
からだ。成績は5科目のほとんどが95点
程の成績優秀な学力だった。(当時、
シグマ偏差値計算法は導入されていない)
しかし、父星一徹は高収入が保証される
元同僚の巨人川上監督からの巨人軍の
コーチ就任あっせんを断ってでも、息子
飛雄馬を野球人として鍛えて将来は独力
で巨人に入団させたがっていた。
だが、経済的には高校進学させる事
さえもおぼつかない。
星の年上のライバル花形満は自動車
メーカーの御曹司であり、好敵手が
ほしいために、飛雄馬の姉明子に
飛雄馬の進学資金を貸し出そうと
もちかける。明子は飛雄馬が高校に
進学できるのならと進学資金貸付の
厚意を受けることにする。
だが、結果として、星一家は巨人
川上の提案も、花形家の申し入れ
も断る。父一徹は昼夜工事現場で
働き、姉明子はガソリンスタンドで
働き始める。
飛雄馬はそんな父と姉を見て進学に
逡巡していたが、父一徹は「星雲
高校に行け」ときっぱりと言う。
進路指導の教師に「君は星雲高校が
どんな高校か知っているのか」と
言われた飛雄馬は、星雲高校まで
赴き、学校事務室にて、入学要綱を
見て驚く。
当時としては、高額な入学金を納め
なければならないお坊ちゃま学校
だったのだ。
消費者物価指数からすると、1965年次
は令和2年-2020年次と1965年の比較で
は4.2倍なので約84万円の入学金となる。
だが、実際には、給与換算でいくと、
現在の150万円近くにはなるのではなか
ろうか。ちなみに私立大学の年間授業料
は7万円ほどの時代だった。
また、大学の進学率は7%程であり、
高校でさえ、高校進学者がほとんどと
いう現在の時代とは大きく違うのが
昭和40年(1965年)前後だった。
飛雄馬が小学生の時に姉明子は家にいて
炊事洗濯をして父子の面倒をみていた。
つまり高校には通っていない。飛雄馬
とも年が4歳以上離れている設定だ。
後年花形満と星明子は結婚するが、
姉さん女房だ。実は星雲高校で飛雄馬
より学年上で盟友となる伴忠太も明子
にはぞっこんだったが、花形との恋の
レースでは敗れたようだ。
伴忠太も自動車メーカーのボンボンで
あり、花形モータースが「ミツル花形号」
というスポーツカーを発表したのに
対抗して自分の車を作ってほしいと
父に忠太はねだる。
するとできた新車はダンプだった。
だが、そうした大金持ち御曹司の花形
満と伴忠太は、星飛雄馬との出会いに
より、一切そういった金銭が絡む価値
観とは離れて、実力のみの勝負で雌雄
を決する野球というスポーツの世界で
生きる事を決心するのだ。
そして若者たちはぶつかり合いながら
互いを切磋琢磨し、人間的に成長して
行く、という物語なのである。
このパターンの日本の物語の原型は、
吉川英治が小説『宮本武蔵』で完成
させた。
己を律し、自己を錬磨して昇華する
という事を好む日本人が旧来から持つ
心の琴線に触れ、それを扱うスポーツ
物語が広く人気を博したのが戦後日本
の一つのアニメ映像表現世界での現象
だった。スポ根ものと呼ばれるが、
根性ものというよりも、人間の自立的
成長を讃美した内容の物語であるのだ。
そして、そこには、嘘偽りのない生き
方を讃える、人としての良心を問う
テーマが中心幹に据えられている。
現在、都内の私立男子高校で一番入学
金が安い高校が約80万円。
ちなみに私の母校の高校が約96万円。
私立高校では入学金が高い慶應や立教が
約150万円だ。
実際のところ、1966年次時点での入学金
が20万円というのは、星雲高校はかなり
高額な入学金を納めないとならない高校
という設定になるだろう。
なお、地方の場合は、高校は公立高校の
滑り止めとして私立高校を捉える風潮が
あるが、都内の場合、第一進学希望で
私立を目指すのが一般的だ。旧帝大以外
の国立ではない国公立大学を目指すより
も早慶上智ICUを目指す、というような
ものと同じ風潮が東京の高校進学には
ある。都内の高校数は640校を超える。
学力に見合った高校を受験できるのだ
が、入試難易度が高い高校は一部の都立
や筑波大附属等の例外を除いて全て
私学であるという事実がある。開成、
麻布、武蔵、慶應、早稲田、女子なら
櫻陰、というように、すべて難関高は
私立高校で占められている。
それにしても学費というのはかなり高い。
私立高校も高いが、私立大学も高額だ。
一般学部でさえ高額なところ、これが
私大医学部などというと、大学の学部
6年間の間に6000万~7000万円ほど
かかる。まず、一般勤め人の家庭では
私立大学医学部には進学させてあげ
られないという現状がある。
ただ、高校については、昨年2020年度
から家庭年収960万円以下の家庭の
学費無償化が実質導入される動きが
あるため、高校進学での学費を大学
進学のために貯蓄で回すこともできる
ようになるだろう。
いや、でも学校行くのはお金がないと
行けない、という現実。これは厳しい。
子どもが4人いて、全員私立高校、私立
大学進学と仮になったとすると、これは
父母の努力だけで行かせられるのだろう
かとなる。日本の賃金センサスを見ると
かなり難しくなってくるのが現実なの
ではなかろうか。
ただ、少なくとも自分が私立高校、私立
大学に進学させてもらった者は、自分の
子には最低限でも私立高校、私立大学
進学希望であるならば、それをかなえて
あげるのが自分が親からしてもらった
事の継承のようにも思える。
ただ、今のご時世、国民の経済収入の
疲弊状態が続くと、医療崩壊の次に来る
のは教育崩壊のようにも思える。
教育を受けるのは、義務ではなく権利だ。
本人が希望するならば、どんな苦労を
してでも子には教育は受けさせてあげ
たい。そう思ってもままならない、と
いう状態が世間的に蔓延するのは、
今の見通しだと数年後にはにっちも
さっちも行かない時代として確実な
ように思える。
【公式】巨人の星 第1話
「めざせ栄光の星」
"THE STAR OF THE GIANTS" EP01(1968)