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昼間、クルマで仕事に向かう途中。僕は都心に近い港区の、とある大きな街道を走っていたんです。日曜日でもないのに、前にも後ろにもクルマが見えないくらい、道がすいていました。東京出身の僕には、昔からわりと走りなれた道。何度も通ったことのある道でした。
目の前の信号が赤に変わったので、ゆっくりとブレーキを踏み込み、速度を落としながら、本当になんとなく、ふと反対車線側に目をやると・・・「え?なに?」
こんな木製の標識が目に止まったんです。
「幽霊坂」
「え?ゆうれい、ざか?」。え、ここに、こんなのあったっけ?
だいぶ昔に、沖縄の久米島の「おばけ坂」というところに行ってみたことがあります。坂の途中でクルマを停め、ギアをニュートラルに入れ、ブレーキから足を放すと、なんと、クルマがゆっくり、坂を上りはじめるんです。空き缶を置いても、上に向かって、コロコロと登っていく。そんな不思議な坂です。実は、地形とかまわりの風景等の色々な条件が重なって、本当は下り坂なのに「上り坂に見える」、目の錯覚だということなんですが。でも、本当に行って体験してみると、自分の常識がひっくりかえったような、本当に不思議な感覚に襲われる場所です。
「幽霊坂」。なんとしても、どういうことなんだか確かめたい衝動に駆られました。クルマの時計を見ると、まだ仕事の時間には少し余裕がある。僕は急いで赤信号手前で左に寄せると、カメラだけを持って、道を渡り、少し心臓がドキドキするのを感じながら、その標識の前に立ちました。
港区とはいえ、この辺りは下町の匂いがします。大きなビルもありますが、昔ながらの商店も多く、しかし何故か今日はどの店も休みのようでした。潰れてしまって、そのままになっているお店も何軒かあるようです。辺りには、不思議なほど人の気配がありませんでした。
しかし、写真を撮るには持ってこい。立派なカメラでも持っているならともかく、小さなデジカメをチョコンと構えて往来で「幽霊坂」の写真を撮っている自分の姿が、少し恥ずかしい気もしていたので、人通りがないのをいいことに、寄って見たり離れてみたり、アングルを変えながら何枚か撮っていました。素人なんで手ブレしてしまいがちなので、いつも同じアングルでも何枚か撮ってみるんです。そうしてパシャパシャやっている内に、ふと、坂の向こうに人影が見えました。黒い日傘を差した女性のようです。
女性はだんだんこちらに近づいてきます。なんのことはない、きっとこの辺りに住んでいる方だろう、と思いながらも、許可もなく彼女の姿まで勝手に写真を写りこませてしまうのが失礼な気もし、さっさと撮りおえよう、と思ったのですが、思えば思うほど、手ブレが気になる。
日傘の女性は、ゆっくりとですが、確実に近づいてくる。僕は、どうしても手ブレが気になる。そこで気が付いたんです。あれ、もしかして。
僕、少し震えてるんじゃないのか?
「幽霊坂」という名前と、近づいてくる黒い服に黒い日傘の女性に、少し気圧されてるんじゃないのか?こんな真っ昼間の東京のど真ん中で。
女性の顔が写真に入ってしまうぎりぎりのところで、僕はシャッターを押すのを止め、その場を立ち去りました。まったくもって失礼な話なのですが、なんとなく、子供の頃、真夜中にトイレに起きて、布団に戻るときに背中に感じたゾクゾクした感覚を憶えました。ほんとに、きっとこの女性は、普通の女性のはずなんですけどね。
帰ってきて調べてみると、昔、この坂の両側には沢山のお寺や墓地が密集してあったそうなんす。勿論、現在でもいくつかは残っているそうですが、それで「幽霊坂」と呼ばれるようになったとか。別に幽霊が出る、とか、そういう言い伝えがある、ではなく、当時の江戸っ子が、静かで、すこし寂しい感じがするので、と勝手に付けた名前なんだそうです。何故だか、今日は登ってみようという気はしませんでしたが、また、そのうち訪れてみようかと思っています。しかし、実は東京だけでも「幽霊坂」と呼ばれる坂は、ここの他に6箇所もあるそうです。たくさん、出てた・・・いやいや、そうじゃなく。
しかし幽霊とかおばけ達も、そこら中がコンビニやら自販機やらで、夜中でも明るくなってしまった現代では、なかなか出てくることも出来なくて、ちょっと困ってたりしませんかね。いや、僕が別に積極的にお会いしたいとかじゃ、ないんですけどね(笑)。
ま、夏の終わりにこんなブログもいいでしょ
?なんてね(笑)。
では。