怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「円安待望論の罠」野口悠紀雄

2017-05-25 07:06:03 | 
日本の平均株価はほぼ円ドルレートに連動して動いている。
そのため為替変動が経済のムードに大きく影響してくる。円安になれば株価は上がり、円高になれば株価は下がるので直接的な為替操作はできないにしても、日銀の異次元の量的緩和は結果としての円安を狙ったものでもある。
アベノミクスの3本の矢というが事実上は金融政策の一枚看板で、その初期に円高から円安へと劇的に触れたことによって評価を高めているのだが、円安は本当にいいことなのだろうか。
アベノミクスは円安によって輸出が伸びデフレから脱却して日本経済は新たな成長へと導くものと言われているのだが、本当だったのだろうか。
実は円安になっても輸出数量はあまり伸びていない。日本の製品は価格競争で輸出しているのではなく円安になったからと言って製品の値段を下げて輸出数量を増やす必要はない。製造業の輸出企業は利益が増大し株価は上がったのだが、生産量の拡大がないので中小企業ではむしろ売り上げは減ってしまった。
円安になったことにより消費者物価が上がったため、実質賃金は低下している。当然ながら実質消費支出も停滞する。ここらあたりは経済成長を実質でみるのか名目でみるのがいいのかという論点にもなるのですが、企業などの投資セクターとしては名目でみるのだろうし、消費者としては実質で見たほうが実感があるのでしょうか。
そもそも日本は今や貿易依存度は15%程度でかつてのような貿易立国とはいいがたく消費支出こそが経済の活性化に大切なのに円安は逆効果になっている。しかし残念なことに労働者の立場から円安は望ましくないという政治勢力は誰もいないのは悲劇的でもある。
国際比較をするときには各国の経済をドルベースでみるのですが、近年日本の地位が落ちているのは為替が円安に振れたおかげです。円安はドルベースでみれば労働者の賃金の強制的な減価というか切り下げを行っていると同じでしょう。
因みに企業利益もドルベースでみればそんなに上がったわけでもないのですが、ドルベースの株価は利益の伸びを大きく上回っている。日本の株価はヘッジファンドなどの外国人投資の影響を大きく受けるのですが、資金の運用先を探している彼らにとっては円安は割安に見え格好の投機先になるのでは。
とまあ、この本の「はじめに」書いてあることを簡単に紹介したのですが、時間がなければ「はじめに」だけを本屋で立ち読みすればほぼ論点は分かると思います。でもアベノミクスの評価とかアメリカの金融危機の構造とかを詳しく見てみたいなら第1章から第4章までに非常にわかりやすく書いてあるのでぜひトライしてください。

アベノミクスは金融政策一枚看板で劇的な円安をもたらしたとされていますが、為替の動きはそれほど単純でもなく、EUのギリシャ危機が少し落ち着いてきた野田政権の末期の12年9月の頃から円安に振れてきており異次元金融緩和前からだということ。そして異次元金融緩和によってマネタリーベースは増えたのだけど実際に市中に出回っているマネーストックはほとんど増えていなかった(つまりお金を回しても有力な投資先のない国内では使い道がなかったということか)ということ。ここから言えるのはアベノミクスを過大評価しているけど実際は海外要因によって為替は動いていたと言える。円安というのは日本の通貨価値が下がるということで誇るべきことではないように思えるのですが、確か民主党政権時代の誰かが円高容認論みたいなことを言ったら経済音痴だの苦しんでいる企業のことがわかっていないなどとマスコミからも経済界からもぼろくそ言われていたのでタブーになっているんでしょうか。コモデティ化した製品の製造に縋り付くのではなく他では作ることができないような高度な製品サービスで円高にでも成長できる経済にしていくのが王道ではないでしょうか。
第5章と第6章は為替レートに関する理論面での解説なので面倒に思えばスルーしてもいいでしょう。はるか昔の私の大学時代は「為替レートは経常収支によって決まる」と教えられていたと思うのですが、現在では国際資本移動によって決まるそうです。そのため経常収支黒字にかかわらず円安が進行という逆の動きがみられるようになってきました。今は変動相場制で自由な資本移動が可能なことから金利差が為替レートを決めているみたいです。
因みに詳細は読んでいただくとして経済学としては為替レートの予測は不可能とか。FX取引で一山当てようとしてもそれは博打なので心しておくことです。以前FX取引で大もうけした人が新聞に取り上げられていましたが、その陰には大損した人が山ほどいて、その大もうけした人も今はどうなのか調べてみればたぶん損切できずに大きな損失を出しているのでは。博打である以上常勝は出来ないし、人間の習性としてなかなか勝ち逃げできないものです。
第7章ではユーロという制度について述べてあるので難しい理屈はスルーしつつ読んでおいていいと思うのですが、政治的統合に先んじて通貨統合を行った「ユーロ」という制度は歴史的大失敗という評価。ユーロという制度は域内固定相場制なのですが、ターゲット2という加盟国中央銀行間の決済システムが存在し、ユーロ各国の貿易不均衡が是正されずに残ってしまうシステムとなっている。本来ならば為替で調整されるべき不均衡が各国の中央銀行に債権債務として積みあがっているのです。従って仮にギリシャが破たんすればその債務はドイツ連銀の不良債権となってしまう…ドイツにとっては破たんさせるにさせられない状態になっています。
政治統合なしの通貨統合は大きな問題が起こるのは必然だったのでしょうが、少しでも前への理念先行のつけが回ってきたということか。経済力で政治的プレゼンを高め日本がイニシアティブをとれると勘違いしたような「アジア共同通貨圏」構想などというのは幻想にしか過ぎなかったということか。
日本経済に本当に必要なのは高齢社会が進む中で産業構造を変革して実態経済を強くしていくことなのですが、それは言うは易し…なんですけど。
コメント
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