怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「キケン」有川浩

2018-10-26 07:16:47 | 
大学の学部時代、私の所属していた社会政策のゼミは同期でゼミ生が3人だけという超不人気ゼミ。先輩の4年生も3人だけで、その分至ってアットホーム。学部の授業がないとか終わった後などはみんなゼミ室に入り浸っていました。同期のうちの一人はすごく優秀で成績もほとんど「優」だけ。彼が就職を決めたときに教授は事務長から「なんで彼のような優秀な人を大学院に進学させないんだ、どこへも行くところがないようなものばかりを大学院に進学させるなんて」と抗議を受けたとか。もっともこういう人にありそうなことですが、世間に疎くてちょっと浮世離れした面も。いいとこのおぼちゃまなので当時「トニオ」へ夕飯を食べに行った時に私たち貧しい学生はメニューの中の安いものを探すのですが、いきなり「たんシチュー」を注文したので、それは何と言う料理が分からなくてびっくりした覚えがあります。
もう一人は民青でもなかったのに自治会の副委員長をして周りは民青ばかりなので孤独だったという変わり者。
こう思うと私が一番世間的にまともだったと思うのですが、タイプが違うだけに毎週のようにつるんで夕飯を食べに行っていました。
なんかそんな時代をそこはかとなく思い出させてしまう小説です。

成南電気工科大学の「機械制御研究部」略称「キケン」その黄金期の部活動の主人公の回想の記録です。
それにしても部長の上野のキャラの強烈なこと。
でも最近大学生が爆弾製造で逮捕され、彼は高校の頃からいろいろやっていて、3Dプリンターで銃まで作っていたとか。現実にもそんな志向の若者は有り得るんですよね。確か中島らもの灘髙の同級生も爆弾魔で爆発騒ぎを起こして警察沙汰になったというのを読んだ記憶があるのですが、キャラクターとしてはありなのか。
まあ、そこは小説なので抱腹絶倒の強烈なキャラクターとして書いてありますけど。そこに絡む下級生の主人公が母親の経営する喫茶店の息子としての経験を生かして(あだ名はお店の子)うまく状況を切りまわしています。
どちらかと言うと副部長の大魔神こと大神は主役となるのが失恋話の時だけなのがもったいないのですが、もう少し活躍の話が広げれたかもと思ってしまいました。若いころはとにかくやることだけで頭の中はいっぱいで相手の反応を顧みる余裕もないものですが、このエピソードの状況は、2階に上がってはしごを外された感が強いですかね。
工学部はやたらと実験とか実習が長くて長時間拘束されて泊り込んだりもしょっちゅうと聞いていますので、自然と居心地のいい部室にたむろしてしまうのは何となく分かります。
経済学部の私たちでも小説のようなドラマは何もなかったのですが、ゼミ室にたむろして青臭い議論とか、馬鹿話とか、今思うと笑っちゃうような悩みを話していて、あの頃を思い出しつつ、笑いながら一気に読んでしまいました。
でも、あの頃の3人が今度会うにしてもお互いの断絶に驚くばかりなのだろうか…二人とも首都圏在住なので結婚前は泊りがけの東京出張があれば連絡を取って会うようにしていたのだが、それもこの20年くらいは出張もなくてご無沙汰。大学の建物は変わっていないので殺風景なゼミ室は変わっていないんだろうな。でもそこには思い出となるようなものは何も残っていない。
太宰治の「老ハイデルベルヒ」ではないが、思い出は場所とか人にあるのではなくて過ぎ去った時間の中にあるのだから。
こんな過去の回想にずぶずぶに浸るのは心が弱っているからなのか‥‥
コメント
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