怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

池谷裕二「脳はなにげに不公平」

2019-02-08 06:57:35 | 
この本は「週刊朝日」に連載していたエッセイをまとめたもの。
従って1回分3ページほどのものを62回分載せたものです。まとまった論考ではなくて3ページほどを読み切るものですので、隙間時間にちょこちょこと読むことができます。

池谷は朝起きると関係する世界の論文をチェックするのを日課としているそうですが、今はネット社会なので簡単にそういうことができるみたいです。もちろん膨大な数の論文が出ているので見出しだけのものも多いのですが、少しでもアンテナに引っかかったものはチェックして興味深いものがあれば、こういうエッセイで紹介してくれます。
最近の脳科学の進歩は目覚ましいもので、素人にもホンマでっかと思うものから、なるほどと思うものまで、トリビアな話題が豊富で、知的好奇心をそれなりに刺激されて楽しく読むことができました。
一部だけですが、拙い要約で紹介してみます。
・コンピューターでシミュレーションしてみると不平等な脳回路には、平等なシナプスだけでできた脳回路と比べて、動作が安定することと省エネという利点がある。脳においては不平等な社会の方が長期安泰なのです。
・マネをするということは単なる猿真似的行動ではなくて、「あなたに共感している」「共感されて心地よい」と相互に心を通わせるための表現手段。
・ハエの実験ですが、「ハエでも交尾が快楽である」というで、かつ「アルコールと交尾という異なる快楽が相互に埋め合わせ可能」ということです。因みに快楽をつかさどるハエのペプチドと似た物質が人の脳にもあるとか。「快の補填」は進化的には起源が古いということです。
・脳は自己暴露を促進する神経回路を進化の過程で発達させてきたみたいで、「自己暴露は快感である」というのは基本的な脳生理。みんな自分のことを話すのは気持ちいのです。
・衣食住足って道徳を知るなどと言いますが、社会的地位の高い上流層ほど貪欲かつ非道徳的だとか。しかもそれは生まれつきではなくて地位が作ったもの。ゴーンさんも地位が上がるたびに強欲になった…
・「赤色は女性の魅力を高める」女性が性的に興奮したりすると顔から胸元にかけて赤みがかり、男性はそうした女性の身体的変化に無意識に気付いている。また排卵日が近づくと地肌の色調が明るくなるので妊娠しやすさの信号。つまり赤い服を着ることは潜在的な性的アピールになっているとか。女性の勝負服は赤です!
・人に見つめられると脳の報酬系は活性化する。目が合うことは本質的に快感ということ。逆に見る方としては長く視線を送る人の方が好きになるとか。見るから好きなのか、好きだから見るのか…
・目の疲労と視力は無関係で、ゲームをする方が動体視力や視覚判断力が高まる。ゲームをすると視力が落ちるなんて言うのは俗説。視力に最も影響を与える因子は遺伝だそうです。ゲームをすると学習の速さと注意の制御力にいい結果が出るとか。
・第二言語の習得能力は、環境よりも遺伝的要因が強くて寄与率71%、そして第二言語の学習能力は母語の獲得能力とはほぼ無関係。ということは英語の成績とは遺伝子の優劣?
・小学生のIQは高校生の全国統一テストの成績と80%以上一致し、将来の職業的成功とも比較的よく相関する。青年期の死亡率も低く中高年以降も健康な傾向があるとか。ではIQと遺伝との相関は如何?年齢によって変わるそうで5歳では26%、12歳では64%と年齢を重ねるにしたがって遺伝子の寄与率が高くなる。でも60歳を超えると遺伝子の寄与率は低くなって28%になってしまうとか。歳を取れば自分の人生に責任があるということでしょうか。
・男女の差で言えば脳の形には性差が無いのですが、脳の使い方に違いがあり、特に左右の脳活動に差が認められるとか。どう違うか詳しくは本を読んでください。
・脳には顔情報を処理する専用回路がある。FFAというのですが、ここに障害があると顔を認知できなくなる=相貌失認。目や鼻や口といった顔のパーツは理解できるのですが、パーツが集合した顔を顔と認識できないのです。個人の区別とか表情の推測がこんなになるのです。相貌失認は人口の2%を超え、しばしば遺伝性が認められとか。実は著者の池谷さん自身が相貌失認の気があるとか。ネットでは簡単な診断テストが公開されているそうですが、紹介してあるアドレスにはアクセスしてもページが無くなっていました。そのテストでは平均正答率85%、診断基準は65%以下で、著者は39%、まさに相貌失認です。
こうやって書いていると話題は尽きないのですが、日ごろから私のブログは長くてくどいと言われているのでここらで辞めておきます。興味があった方はぜひ本を読んでみてください。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする