【甘い芳香にスズメガが誘われ受粉のお手伝い!】
日本特産のユリで、本州中部以西の里山の雑木林や草原に自生する。細長い葉の形がササに似ているうえ、ササに囲まれて生えていることが多いため、この名が付いた。淡いピンク色の花をうつむき加減に開く姿には、控えめながら凛とした気品と清楚な雰囲気が漂う。学名「リリウム・ヤポニクム」。英名で「ジャパニーズ・リリー」と呼ばれる。
別名「サユリ」。万葉集にはユリを詠んだ歌が長歌も含め11首。そのうち8首が「さ百合花」と詠む。「灯火(ともしび)の光りに見ゆるさ百合花 ゆりも逢はむと思ひそめてき」(内蔵縄麻呂)。これらの歌に詠まれた「さ百合」の「さ」は接頭語で、特定のユリを指したものではないという。ただ、山野に多く自生するユリは関西ではササユリ、関東ではヤマユリのため、多分そのいずれかだろうと推定されている。
毎年6月17日、奈良市の卒川(いさかわ)神社で「三枝祭(さいくさのまつり)」が開かれる。三輪山をご神体とする大神(おおみわ)神社(奈良県桜井市)の摂社で、山の麓で採取したササユリを神前に供え、巫女4人が「ゆりの舞」を奉納する。祭神・媛蹈鞴五十鈴姫命(ヒメタタライスズヒメノミコト、神武天皇の皇后)のお住まいだった山麓の川のほとりにササユリが咲き誇っていたという故事に基づく。別名「ゆりまつり」。古く大宝元年(701年)制定の「大宝令」に国家の祭祀の1つとして定められていたという。
ササユリは上品な香りを放ち、特に夕方以降、暗くなると香りを増す。それに引き寄せられてやって来るのが夜行性のガの1種・スズメガ。ストローのような長い口を伸ばして花びらの奥にある蜜を吸う。その代わりスズメガは羽に付着した花粉を他のササユリの花まで運び媒介の役割を果たしてくれる。
その清楚な花のたたずまいから、西日本の自治体を中心に「市の花」などシンボルに制定しているところも少なくない。大阪府箕面市・泉佐野市、兵庫県篠山市・宍粟市、滋賀県甲賀市、三重県伊賀市・熊野市、岐阜県恵那市……。奈良・桜井の大神神社ではいま「ささゆり園」を公開中(6月20日まで)。ササユリ約6000本が群生する愛知県豊田市の「ささゆりの里」は6月1~16日に公開し、9日には「ささゆりまつり」を開く。
ササユリはかつて里山に多く、球根を食用にもしていた。だが、最近は乱獲などで目にすることが少なくなってきた。ササユリは山から球根を採取して平地で育てようとしても栽培が極めて難しいという。翌年咲いても、いつの間にか球根が消えてしまうことが多いそうだ。「手に取るなやはり野に置け蓮華草」(滝野飄水)。ササユリもレンゲソウと同じように、自然の野にあってこそ美しさが際立つということだろう。