kenroのミニコミ

kenroが見た、読んだ、聞いた、感じた美術、映画、書籍、舞台、旅行先のことなどもろもろを書きなぐり。

「知らない」言い訳を自覚   『ダルフールの通訳 ジェノサイドの目撃者』

2009-03-01 | 書籍
ここ数年の新聞などメディア上で「ダルフール危機は今世紀になって最大の人道的危機」と報道されているのに筆者のみならず気づいた人も多いはずだ。「見捨てられた土地」アフリカでは欧米の介入・非介入によってわずかの期間に数十万人以上の犠牲者を生んでいる。ルワンダの実相は映画になり(「ホテル・ルワンダ」や「ルワンダの涙」)、私たちアフリカから遠い(というか、意識として遠ざけているのであるが)日本の人間にとって改めて現在、私たちが生きている同じこの時代、地球上でジェノサイドがくり返し行われていることに戦慄を覚えざるを得ない。
ガザやチェチェン、チベット、あるいは米軍による爆撃などの犠牲者が出ているイラクやアフガニスタンも等しく目を向けるべきであるのかもしれないが、アフリカについての報道はそれらに比べて圧倒的に少ない。
聞き取れない部分ばかりだけれども、ヨーロッパに旅行した時など現地語はさっぱりなのでホテルでBBCニュースをつけっぱなしにしていることが多い。日本と違ってアフリカや中東の内戦や戦闘のニュースが多いように思う。ルワンダについてはベルギーなど旧宗主国の関係があるのかもしれないが、スーダンは今回の危機に限ってはその影響が強いとは報道されていないようである。(ルワンダで国連軍として派遣されながら、「介入」できなかったため犠牲者が出るにまかせるのを見守るしかなかったカナダ人ロメオ・ダレールの書『悪魔との握手──ルワンダにおける人道の失敗』(日本語版未)はそのもどかしさと、それ故PTSDにかかったことを自白していると「ものろぎや・そりてえる」(http://barbare.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_5e5a.html)さんのブログで知った。感謝。)。しかし、本書の筆者ダウド・ハリによれば国連の介入が遅れたのはスーダン近辺への武器輸出と資源権益を持つ常任理事国中国のせいであるという。そういえば「ホテル・ルワンダ」で中国からとおぼしき積み荷から大量のナタがこぼれ出てきたシーンがあった。 自分の手を汚さない武器輸出大国といえばスウェーデンなど北欧が有名であったが、今や米、ロシアと並んで中国の武器輸出はとどまるところをしらないのかもしれない。
ダウド・ハリは兄をはじめ親族を殺され、村を破壊された「ダルフール危機」の典型的な被害者である。ハリが銃を持ち、ジャンジャウィード(イスラム系民兵と説明されることが多いようである)や反政府組織に復讐することも可能であったが、ハリはそうしなかった。得意の英語を駆使して世界にダルフールの実情をジャーナリストを通じて知らせることで、復讐ではないが、自分の存在意義を確かめようとしたのである。
ダウドと彼が案内した欧米のジャーナリストが目にしたジェノサイドの実態、酸鼻を極める死体の山、ちぎれた腕、胴体、足。村を守ろうとして木の上で待ち伏せし、襲撃者の銃にたおれ、そのまま腐って体の一部がハリらの頭に降ってくる様…。
私たちは現実に起こっているジェノサイドをあまりにも知らなすぎる。その責任は誰であるのか、それを止めることができない程度の文明しか持たないことを。西側のジャーナリストを案内したため、政府軍より処刑される寸前で助かったハリらを救ったのはアメリカのジャーナリズムとそれを支えるポリティシャンであったという。現在、ハリはアメリカに逃れ、自分を救ってくれたアメリカに感謝しきりである。その「アメリカ」は同時にガザの住民を無差別殺戮するイスラエルを武器も含めて全面支援する。
イラクへからの撤兵を具体的に示したオバマ大統領を固める閣僚はヒラリー・クリントン国務長官をはじめとして親イスラエル(ロビー)が多いという。大国のダブル、いやそれ以上の、スタンダードの前にジェノサイドが潰える日は遠い。
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