kenroのミニコミ

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どんどん先に進む台湾 それ故の悩みと希望と  「親愛なる君へ」

2021-09-10 | 映画

コロナ禍の台湾で名を馳せたのはオードリー・タン デジタル担当大臣。住民追跡システムを構築し、早期に封じ込めたと賞賛されている。もともとはIT企業の成功者で、その能力を買われて特任省大臣に任じられ、時の人となった。タン氏がもう一つ有名な理由は、トランス・ジェンダーであるということだ。LGBTQの当事者がそれを明らかにして、閣僚になるというのが日本よりかなり先に行っているよう見える。そもそも台湾では2019年に同性結婚が法律で認められている。そのような社会環境であるからこそ出てくる課題が、同棲パートナー亡き後の子どもとの関係だ。それは周囲の視線や意識とどう関係しているのか。

亡くなったゲイのパートナーの息子ヨウユーと糖尿病を患う母シウユーの面倒を見るピアノ講師のジエンイー。シウユーが亡くなった後、不動産がジエンイーとヨウユーとの養子縁組前にシウユーからヨウユー名義になっていることが分かる。亡きパートナーの弟は、借金まみれで不動産が欲しいばかりにジエンイーを疑い、警察もシウユー殺害とそのための違法薬物入手の疑いで彼を逮捕する。ヨウユーを守りたいジエンイーは、罪を認める。

法律で認められていても、人々の意識は簡単には変わらない。ヨウユーをジエンイーから引き離そうとする弟(ヨウユーの叔父にあたる)は、「甥に普通の生活をさせたい」と言い、ジエンイーのピアノ教室にはジエンイーを講師として忌避する訴えが殺到する。初めは息子の同性愛志向が受け入れられず、シウユーにきつくあたるシウユーも自分と孫に献身的に尽くしてくれるシウユーを受け入れ、彼と孫の養子縁組に賛成するのだが、一番大事な当事者の気持ちという点では、9歳のヨウユーから話を聞こうとしない大人たち。

ここで描かれているのは、姿勢の人々を縛る固定観念とその呪縛、そしてヨウユーの叔父のように目先の金銭的欲望に弱い人間や、ハナからジエンイーを疑ってかかる警察の姿などだ。しかし、そもそもパートナーがヨウユーとの父子家庭になったのには、清廉で優しさに溢れたジエンイーに理由があった。

同性結婚が認められる社会ではステップファミリーの類型にも多様性が生まれるだろう。それは異種を排除して成り立つ非民主主義的な社会から、よりマイノリティに目配りするインクルーシブな民主主義、成熟した社会へのステップでおこる必然的な問題だ。ある意味、問題を可視化し、それを解決し続けるのが民主主義社会の宿痾でもある。台湾は、既にその実験場となっていて、コロナ追跡システムで見られたように、一人ひとりの国民管理が貫徹しているからこそ成立した「国家からの自由」を放棄した現実もある。それは、いつ中国という超大国に飲み込まれるかもしれないという危惧を抱いている隣国・小国の証でもある。

興味深かったのは、ジエンイーを完全に犯人扱いする警察の取り調べでもきちんと録画されていたし、警察の取り調べに不足を感じた検察官が独自に動く様だ。台湾の刑事司法がどのようなものか知らないが、その点では明らかに日本は遅れている。

日本では菅義偉首相が突然、自民党総裁選に出馬しないとし、複数の候補者が立候補を表明している。安倍晋三前首相が支持し、その安倍の歴史修正主義、国家主義的な価値観を引き継ぐ高市早苗は、教育勅語を信奉し、夫婦別姓選択制に絶対反対という。この国はまた台湾から遅れていくのだろうか。

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