奈良などのチ-ム マウスで成功 幹細胞に薬剤併用
神経細胞を作るもとになる神経幹細胞に、てんかん薬を加え、効率良く神経細胞を再生させ、脊髄を損傷したマウスを歩けるまでに回復させることに奈良先端科学技術大学院大や鹿児島大などのチ-ムが成功し、16日付けの米医学誌電子版に発表した。チ-ムはこの手法を「HINT法」と命名。今後は霊長類で試し、人間での臨床応用を目指す。交通事故で生涯、下半身不随となるなど、治療は困難とされてきた脊髄尊称の治療に向け、大きな前進となりそうだ。これまで人工多能性幹細胞(iPS細胞)などを使った神経再生がマウスで試みられているが、チ-ムは、てんかん薬のパルプロ酸が神経幹細胞の遺伝子構造を変え、高い効率で神経細胞を作り出すことに着目。脊髄が傷つき下半身不随のマウスに、ほかのマウスの胎児の脳から採取した神経幹細胞を移植し、パルプロ酸を1週間注射した結果、その6週間後には21匹のうち15匹が歩けるようになった。残り6匹も症状が大きく改善した。移植した幹細胞からできた神経細胞が、損傷した神経回路をリレ-するようにつないでいた。移植した幹細胞は、パルプロ酸を投与しないと1%以下しか神経細胞にならなかったが、投与すると約20%に増えた。移植した幹細胞からて゛きた神経細胞を除くと再び歩けなくなり、移植細胞が直接効果を発揮していることも確かめた。チ-ムの中島欽一奈良先端大教授は、「幹細胞と、てんかん薬を組み合わせた世界初の試み。脊髄損傷だけでなく、神経回路の損傷を伴う脳卒中などの治療にも使えるかもしれない」などと話している。
幹細胞の供給源課題
<解説>奈良先端科学技術大学院大などのチ-ムの成果は、人間の治療にも大きく貢献する可能性があるが、幹細胞をどこから調達するかといった課題も多い。チ-ムは、移植した幹細胞から神経細胞への変化を進める薬剤として、てんかん薬としてすでに使われいるパルプロ酸を使用。新規薬剤に比べ、安全性のハ-ドルは低い。ただ、移植した神経細胞はほかのマウス胎児の脳から採取しており、人では入手が難しい。神経幹細胞の供給源として期待されるのが人工多能性幹細胞(iPS細胞)だ。iPS細胞は人間の皮膚にどから作製でき、あらゆる組織になれるとされる。移植に伴う拒絶反応を避けられるなど、再生医療の切り札とみられている。チ-ムは、iPS細胞から作った神経幹細胞でも同じ治療効果があるかマウスで検証中で、成功すれば人間での応用も現実味を帯びてくる。一方で、iPS細胞からできた組織はがん化しやすいとされる。実用化には時間がかかりそうだ。