万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

もし中国市場へのアクセス条件が”人の自由移動”であったならば?

2016年10月04日 15時10分39秒 | ヨーロッパ
EU離脱でメイ英首相、来年3月末までに交渉開始=保守党大会で演説へ
 98%の国民が難民割当に反対票を投じたハンガリーの国民投票は投票率の低さから不成立なりましたが、イギリスのEU脱退に続き、EUでは不協和音が響いているようです。その一方で、人の自由移動こそ、堅持すべきEUの原則であるとするEU側の見解には変化は見られません。

 メイ英首相は、来年3月末までにEUとの離脱交渉を開始する方針を示していますが、人の自由移動に関する方針が真っ向からぶつかるため、EU側との交渉は難航が予測されます。EUの柔軟性を欠いた頑強な態度には驚かされるのですが、この問題を中国市場に置き換えてみますと、どうなるのでしょうか。

 EU28か国を合わせた欧州市場の総人口は凡そ5億人であり、GDP総計ではアメリカを凌ぐ世界第一位の経済規模です。一方、GDPでは欧州市場よりは劣るものの、中国の総人口は13億とEUの2.5倍です。双方とも巨大市場であり、それ故に、イギリスを含めた全ての諸国は、これらの市場へのアクセスを重視しているのです。EU側は”規模の強み”を握っており、イギリスに対して、高飛車な態度で”自由に欧州市場にアクセスしたければ、人の自由移動を受容せよ”と迫る理由もここにあります。それでは、中国が、仮に、自国市場へのアクセス条件として人の自由移動を認めるよう要求した場合、他の諸国は、この条件を飲むことはできるのでしょうか。巨大市場であることは、同時に、人口規模も巨大であることを意味します。つまり、13億の中国人が、大量に、国境を越えて自由に移動を開始するとなりますと、人口規模の小さな諸国はひとたまりもありません。おそらく、経済分野に留まらず、政治も、社会も、文化も、中国人パワーに押されて激変してしまうことでしょう。比較的人口規模の大きい日本国でさえ、人口は、中国の十分の1に過ぎません。もっとも、共産党一党独裁体制の下にある中国市場は、政府系企業優遇措置や統制経済的手法を残していることに加えて、消費市場としても十分に成長しているとも言えず、それほど魅力的な市場ではなくなってはいますが…。

 欧州市場を中国市場に置き換えてみますと、EU側の要求が、如何に無理難題であるのか理解できます。巨大市場へのアクセスは確保できても、人の自由移動の条件を受け入れたことから、国民の過半数を占めるに至った移住民が政治的権利を主張するようになり、もとからの住民が将来的には祖国を喪失し、国家の独立性やナショナル・アイデンティティーも危うくなるのですから。EUが、EEC創設以来の原則という理由だけで、頑なに人の自由移動の原則に拘っているとしますと、前例踏襲の悪しき官僚主義に陥っているのかもしれません。果たしてEUは、欧州の人々を何処に連れてゆこうとしているのでしょうか。

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”裏プロジェクト”としての”EU市民統合”の表面化

2016年10月03日 14時57分37秒 | ヨーロッパ
ハンガリー国民投票不成立=要件満たさず―難民受け入れ反対98%
 欧州統合と申しますと、直ぐに頭に浮かぶのは、経済分野における華々しいプロジェクトの数々です。60年代には関税同盟を実現し、90年代にはEUを創設すると共に、単一欧州市場をも完成させました。そして、単一通貨ユーロの登場は、EUが、不可能という声を押しのけて成し遂げた壮大なる構想として知られています。しかしながら、現在、イギリスが国民投票によってEU離脱を決定し、ハンガリーでも、EUによる難民割当に対する不満が98%の反対という国民投票の結果に表れています。

 ハンガリーでの国民投票は、有効投票数が50%を切っているために不成立ではあるのですが、棄権票を考慮しても、EUの難民政策に対する国民の強い不満が伺えます。今に至り、何故、かくも移民・難民問題が深刻化してるのかと申しますと、人の自由移動の実現は、”裏プロジェクト”であったからではないかと思うのです。経済分野におけるプロジェクトは、表舞台において堂々と推進されており、誰もがその内容や影響について凡そ理解していました。その一方で、人の移動の自由化は、EEC時代から目指すべき基本原則として掲げられつつも、その具体的な内容については、十分なコンセンサスが形成されていたとは言い難い面があります。況してや、”EU市民統合”といった名称で、プロジェクト化されていたわけでもありません。内容や範囲が曖昧な内にEU主導で進められ、国民が気が付いた時には、国家の根底を揺るがす重大事に発展していたのです。加盟国の拡大や国際情勢の変化によって、移民数や難民数も劇的に変化し、当問題への効果的な対応を理由にEUの権限も拡大するのですから、加盟国政府や国民にとりましては、”こんなはずではなかった”ということになるのでしょう。”欧州市民統合”の行き着く先には、国民の枠組みの融解させ見えています。

 人の自由移動の原則に基づく”EU市民統合”が、EU統合に付随する不透明な”裏プロジェクト”であったことは、今日、EUのみならず、加盟国をも不安定化し、国内分裂の要因にもなりかねません。人の自由移動とは申しましても、ビジネスや観光等による一時的な移動もあれば、現地での就業や社会保障の享受等を伴う定住型の移動もあるのですから、移民・難民問題が噴出したのを機に、人の自由移動の曖昧さと加盟国間のコンセンサスの欠如がもたらす問題について、EUは、方向性の見直しを含め、真剣に向き合うべきではないかと思うのです。

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イギリスのEU離脱再投票の否定ーやり直しても結果は同じ?

2016年07月10日 14時50分36秒 | ヨーロッパ
国民投票のやり直し行わず 英政府が明確に
 先月23日にイギリスで実施された国民投票は、大方の予想を覆し、離脱派の勝利に終わることとなりました。この結果を受けて、イギリス政府に対して、再投票を求める請願が410万も寄せられたそうです。やり直しを求めているのは残留に投じた人々なのでしょうが、その一方で、離脱による影響の大きさに慄き、自らの投票に後悔している離脱派も少なくないとの指摘もあります。それでは、やり直し投票を実施したとしますと、投票結果は、逆になるのでしょうか。

 英政府の対応を見ますと、国民投票のやり直しを求める請願に対しては、正式にこれを否定したと報じられております。仮に、離脱に投じた国民の大半が真剣に投票結果を変えたいと望んでいるとしますと、政府も、その道を探ったかもしれません。しかしながら、やり直し投票を実施しても結果は同じとなる公算が高いと見て、きっぱりと否定したのではないかとも憶測するのです。あるいは、また、仮に、国民投票をやり直して残留派が勝利したとしても、今度は、離脱派から選挙のやり直しを求める同規模の請願が殺到することが予測され、再度、選挙のやり直しを実施せざるを得なくなります。離脱派と残留派の人口比が僅差である以上、国民投票のやり直しは永遠に続く、といった奇妙な事態ともなりかねないのです。

 このように考える理由は、EU離脱には、プラス・マイナスの両面があり、立場によって評価も違うからです。EUからの離脱により、ポンド安のみならず、不動産価格の下落も予測されており、イギリスの不動産投資ファンドでは将来への悲観から解約が相次いでいるようです。この現象は、確かに離脱のマイナス影響と見られがちですが、離脱派の人々にとりましては、決して”悪いニュース”ではないのかもしれません。何故ならば、近年、イギリス、特にロンドンでは不動産バブルが発生し、不動産価格の上昇により一般のイギリス国民がロンドンに住むことが難しくなっていたからです。ロンドンの人口が、過半数を越えて移民系となった理由も、全世界の富裕層が集まる”コスモポリタン都市”に変貌したからに他なりません(その一方で、SOHOなどのスラム地区では移民労働者が増加…)。不動産価格の下落は、一般の人々にとりましては、都心の不動産が手の届く範囲になるのですから、朗報ですらあるのです。また、ポンドの下落も、輸出競争力を考慮すれば、これもまた、必ずしも”悪いニュース”ではありません。金融シフトにより製造業が衰退したとはいえ、産業革命の発祥の地であるイギリスの産業基盤は、まだまだ強固であるとする指摘もあります。

 以上に述べたように、プラス・マイナス両面の評価に注目しますと、たとえ国民投票をやり直したとしても、一般のイギリス国民が、必ずしも残留を選択するとは限らないように思えます。”真の豊かさや幸せとは何か”を問う時、そこには、経済規模や経済成長率では測れない”何か”があるのではないかと思うのです。

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EUの”いいとこ取り”は中東欧諸国?-受益と負担の不均衡

2016年07月05日 16時54分25秒 | ヨーロッパ
英とEU、ブレグジット後も市民の在住権利継続を=英移民担当相
 イギリス国民の多数がEU離脱を決断した最大の理由は、移民問題にあります。年間、30万人もの移民が押し寄せるのですから、イギリス人が悲鳴を上げるのも頷けます。

 イギリスへの移民は、域外からも然ることながら、域内、特に2004年5月の第5次拡大以降にEUに加盟した中東欧諸国からの移民が群を抜いています。ポーランド人移民が既に80万人を超え、2014年から規制が解除されたルーマニアやブルガリアからの移民も増加しているそうです。イギリスにしてみますと、EUへの加盟により、大量移民の受け皿となる一方で、当初主張されていた額よりは少ないとはいえ、年間で計算して凡そ7000億円のEUへの財政移転を引き受けていることになります。デメリット面が誰の目にも明らかなほど表面化しているのですが、その一方で、EU加盟のメリットの最大の享受国は、中東欧諸国です。インフラ整備などにEU予算が投入されていますし、安価な不動産価格や労働力は、製造拠点としての強みでもあります。その上、若年層を中心に西欧諸国に移民を送り出すことができるのですから、失業問題も緩和できます(西欧から東欧への逆パターンの移民は少ない…)。先日、EU側は、イギリスに対して”いいとこ取り”は許されない、と釘を刺しましたが、EUで”いいとこ取り”をしている加盟国があるとしますと、それは、中東欧諸国なのです(一人勝ち状態とされるドイツもまた、移民問題には苦しんでいる…)。

 このように、EU全体を見ますと、加盟国間に受益と負担の不均衡が見られます。仮に、真っ先に負担に耐えられなくなったのがイギリスであるとしますと、受益側である中東欧諸国は、受け入れ国側の人々の苦境を理解し、人の自由移動については譲歩すべきなのかもしれません。国造りに必要となる人材流出を止めるという面においても、この譲歩は、必ずしもマイナスとは限らないかと思うのです。 

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英EU離脱とポーランド問題-人の自由移動のパラドクス

2016年06月30日 15時10分15秒 | ヨーロッパ
「早期の離脱通告」要求=英抜き首脳会議で結束確認―EU
 EU離脱を問うイギリスの国民投票は、終盤では移民問題が主たる争点となりました。最も多いのがポーランド人移民なのですが、この現象は、ポーランド問題の深刻さをも露わにしています。

 2014年の統計によりますと、イギリスにおけるポーランド人移民の数は83.3万人に上るそうです。イギリスは、ヴィザやパスポートなしでの入国を可能とするシェンゲン・アキからはオプト・アウトしているものの、EU域内であれば、人の自由移動は原則自由ですので、働き口さえあれば無制限にイギリス国内に居住することができます。それでは、何故、群を抜いてポーランド人移民の数が多いのでしょうか。

 その理由の一つには、グローバル言語とも化している英語が通用することや、既に親族等が居住していることも挙げられるのでしょうが、ポーランド側にも要因がありそうです。昨今、ポーランドでは、政権側が報道統制を強めるなど、”プーチン化”が懸念されております。ロシアの影響力の拡大を警戒してか、EUも、ポーランド政府に対して警告を発していますが、崩壊したはずの旧社会・共産主義体制への揺り戻しが見られるのです。その原因の一つに、自由主義や民主主義にシンパシーを感じ、かつ、高い技能をも備えた若者たちが、国外に流出しているという現実があります。自国に留まって、ポーランドを自由で民主的な国家とすべく、忍耐や努力を要する国造りに参加するよりも、てっとり早く自由が満喫できる”西側諸国”に移住してしまうのです。政権側が強権志向を強めれば強めるほど、この傾向に拍車がかかります。この結果、ポーランドには、社会・共産主義体制に慣れ親しんできた中高齢者層が残り、国家としての活力を失う結果を招いているのです。1989年の東欧革命がポーランドの地から始まったことを思い起こしますと、俄かには信じられない事態です。

 ポーランドで起きている現象は、多かれ少なかれ、他の中東欧諸国でも観察されることでしょう。人の自由移動による若年人口の流出が、ロシアと接する中東欧諸国を徐々に親ロ派に染めてゆき、東部国境地帯の弱体化を招来しているとしますと、これほど皮肉な結果もありません。現在の欧州理事会常任議長のトゥスク氏もポーランド出身ですが、EUの掲げる人の自由移動には、深刻なパラドックスが潜んでいると思うのです。

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対英離脱交渉の行方ー欧州委員会v.s.加盟国となるのか

2016年06月27日 15時36分25秒 | ヨーロッパ
英離脱で温度差も=28日から首脳会議―EU
 イギリスのEU離脱が決定されたことにより、国際社会の関心は、EUとイギリスとの間の離脱交渉の行方に移りつつあります。離脱交渉に際しては、EU側が、交渉妥結の条件として、イギリスに対して”人の自由移動”を認めるよう迫るのではないか、とする憶測もあります。

 この憶測通りに展開するとしますと、移民問題への危機感から離脱に投票したイギリス国民とりましては、離脱の成果が消滅することになるのですが、果たして、EU側は、実際に”人の自由移動”の承認を条件化するのでしょうか。ユンケル欧州委員会委員長の発言や行動を見ておりますと、イギリスに対する”懲罰的”な意味合いから、欧州委員会側が、”人の自由移動”の承認を要求する可能性は決して小さくはありません。移民・難民問題でも、”人の自由移動”の原則こそ、ユンケル委員長にとっての死守すべき砦であったようにも見受けられます。その一方で、EU加盟国はどうかと申しますと、少なくとも国民レベルではイギリスに同情的な意見も少なくなく、また、政府レベルでもイギリスとの友好関係の維持に積極的な加盟国も見られます。”人の自由移動”は、全ての加盟国にとりまして問題含みであるからです(国家喪失の危機感…)。対英離脱交渉に関しては、加盟国間のみならず、委員会とEU加盟国との間にも温度差が見られるのです。

 EUの通商政策の決定手続きを見ますと、委員会には提案権があっても、EU加盟国の閣僚から構成される理事会に主たる決定権があります。となりますと、委員会が望むほどには対英懲罰的な交渉とはならず、”人の自由移動”についても、何らかの見直しが図られる可能性もないとは言えません。対英交渉に先立って、EU内部での意見集約の行方が注目されるところなのです。

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英国民投票ー正反対の二つの理想

2016年06月24日 10時01分02秒 | ヨーロッパ
英国民投票:サンダーランドは離脱派が勝利
 昨日、EUからの離脱の是非を問う国民投票がイギリスで実施され、現在、開票作業が続いています。締め切り直後の世論調査では、残留派が僅かにリードしたものの、開票速報でも、接戦状態のようです。

 離脱派と残留派とを地域的に色分けすると、中部サンダーランドで離脱票が61%に達するなど、イングランドでは離脱票が優勢であり、スコットランド等では、逆に残留票が多数を占めています(ただし、都市部の開票はまだかもしれない…)。地域差も見られるのですが、英国の国民投票は、自国に対して、国民が全く逆の異なる”理想”、あるいは、”将来像”を持つ場合の混迷をも示しています。

 離脱派にとりましては、国民投票は、いわば”独立”の問題と化しており、死活問題ですらありました。何故ならば、EUへの残留が、国境管理や移民・難民政策を含む国家の主権的な権限の喪失を意味し、近い将来、イギリスという国が移民社会に変貌する可能性があるからです。離脱派の理想とは、イギリスの歴史や伝統が息づく安定した社会なのでしょう。その一方で、残留派は、EUとの経済的関係のメリットを強調しましたが、それは、イギリスの移民社会化の容認と表裏一体でもありました。否、国境がなく、全ての人種、民族、宗教等が融合し、仲良く共存する社会こそが理想であったのです。たとえ現実においては、深刻な社会的分裂やテロ事件が起きていたとしても…。となりますと、双方とも、他方の理想実現に向けた行動は、自らにとっては”地獄”への道の強要となります。こうした場合には、”理想”への献身は、褒め言葉とはならないのです。

 コンセンサスなき”理想”の強要は、国民の反発を買う原因となります。何れの結果となったとしても、勝利した側も、国民の凡そ半数が、逆の理想を抱いていることを考慮すべきですし、その懸念を払拭する努力を怠るべきではないのでしょう。投票結果を待つばかりとなりましたが、イギリスの国民投票は、”その後”にも関心を払うべきではないかと思うのです。

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女性初のローマ市長-広がる既成政治への不満

2016年06月20日 15時39分52秒 | ヨーロッパ
伊地方選決選投票、ローマ市長選は五つ星運動が勝利 首相に痛手
 アメリカでは、共和党の指名候補の座を手にしたトランプ氏に対して、しばしば”大衆迎合”とする批判の声が寄せられています。一方、イギリスのEU離脱をめぐる国民投票でも、残留派は、離脱派を”大衆迎合”として罵っています。

 こうした中、イタリアの首都ローマでは、初の女性市長が誕生したと報じられています。新興政党である五つ星運動のビルジニア・ラッジ候補が67%もの票を獲得したというのですから圧勝です。五つ星運動とは、左右両派の既成政党に対する批判から7年前に誕生した政党であり、公約としては、腐敗撲滅や公共サービスの向上などを掲げ、EUに対しても批判的な立場とされています。既成政党の立場からすれば、五つ星運動も”大衆迎合”なのでしょうが、果たして、世界各地、しかも、先進国で散見される反既成政治の動きは、”大衆迎合”という否定的表現、批判の一言で済まされるのでしょうか。

 少なくとも民主主義国家では、”大衆迎合”を否定することは、民主主義の否定をも意味しかねません。”大衆迎合”と民意は、表裏一体であるからです。逆から見ますと、既成政治側の主張は、大衆無視の’既得権益政治’、あるいは、少数エリート支配の容認となり、既成政治側が”大衆迎合”として批判すればするほど、言われた側は見下された感覚を抱くと共に、反発を感じます。しかも、移民・難民問題の深刻化、政治腐敗、劣悪な公共サービスといった問題への対応は、一般の国民にとりましては、常識的な政治に対する要求です。”大衆”は、必ずしも、無知で野蛮な存在ではありません。”大衆迎合”は、意見を同じくする人々が多い、ということだけであり、必ずしも反知性的で反道徳的でもないのです(もちろん、実現不可能な解決方法を示すことで、国民を騙すケースもありますが…)。

 一般の国民の常識的な要求を”大衆迎合”という言葉で冷たくあしらってきた既成政党の高慢な態度、あるいは、その背後にある既得権への執着こそが、今般の地殻変動を生んでいるのではないでしょうか。既成政治であれ、何であれ、独断や独善に陥らず、政治家である限り、国民の声に真摯に耳を傾けるべきなのではないかと思うのです。

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英国民投票はEUとの合意案の是非を問うべきだった

2016年06月19日 15時00分34秒 | ヨーロッパ
英首相「不寛容排除」訴え=野党党首と議員殺害現場訪問―国民投票、残留派同情論も
 EUからの離脱を問う国民投票の投票日を23日に控え、イギリス国内では離脱派と残留派の間の対立が激化し、下院議員殺害事件も発生しました。投票結果に拘わらず、双方の間の感情的なしこりは長期的に残ると予測され、国民投票の実施は、国民の間の溝を深めています。

 悲劇的な展開とも言えますが、両派による対立の激化は、当国民投票が表面的にはEUからの離脱を問うていながら、その実、イギリスという国家の将来像を問うものであったからに他なりません。双方ともに譲れない問題であり、かつ、選択肢は”Yes”か”No”の何れしかないのです。およそ最終決定を意味し、かつ、二者択一化された状況では、両派の間で妥協点を見出すことも不可能となりますので、対立の先鋭化は必至であったとも言えます。それでは、こうした事態を避ける方法はあったのでしょうか。

 仮に方法があったとしますと、その一つは、国民投票のテーマを、2月に成立したEUとの妥協案に対する受入の是非に設定することではなかったかと思うのです。このテーマであれば、EU離脱を問う前に、もう一度、EU側と再交渉を行うチャンスが確保できます。国民投票で国民多数が受け入れを拒否すれば、イギリス政府は、その拒絶の投票結果をバックに、EUに対してさらなる譲歩を要求することができるのです。EU離脱の国民投票は、再交渉においてEU側が対英譲歩を拒絶した後でも遅くはなかったはずです。

 今般の国民投票におけるイギリスの状況を見ておりますと、より丁寧な手続きを踏んだ方が、国内の混乱は避けることができたかもしれません。国民投票を四日後に控え、もはや、”時すでに遅し”の状況ではありますが、今からでも国民投票のテーマを変更することはできないものか、と思案するところです。テーマが変更されれば、国内の緊張が緩和され、国民の心にも余裕が生まれるのではないかと思うのです。

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イギリス女性議員暗殺事件-何故現地は冷静なのか?

2016年06月17日 10時06分22秒 | ヨーロッパ
残留派女性議員、撃たれ死亡=国民投票に影響の可能性―英中部
 今朝方、EUからの離脱を問う国民投票を前にしたイギリスから、労働党に所属し、EU残留派であったジョー・コックス議員の暗殺を伝える衝撃的なニュースが飛び込んできました。ネット上では、第一次世界大戦の引き金となった”サラエボの一発の銃声”に譬える意見が見られる一方で、BBCの報道を見る限り、現地は予想外に冷静さを保っているようです。

 それでは、何故、歴史的国民投票を控えた時期に、政治的暗殺という忌まわしい事件が発生しながら、現地はかくも落ち着いているのでしょうか。犯人は既に逮捕されていますが、居合わせた目撃者の証言によりますと、暗殺に際してこの犯人は、”ブリテン・ファースト”と叫んだそうです。”ブリテン・ファースト”とは、EU離脱を主張するイギリスの”極右団体”の名称ですが、同団体は、早々に犯行を否認しています。表面的には残留派が離脱派に対して政治的テロを仕掛けた構図となりますので、一昔前であるならば、国民世論は離脱派批判で激高したことでしょう。しかしながら、この事件は、国民投票の行方にも影響を与えるとされながら、今のところ、イギリスにおいて感情的な反応は見られないのです。その理由として推測されることは、国民の多くが、表面的な構図を素直には信じなくなってきていることです。例えば、離脱派が優勢にある中、犯人が”ブリテン・ファースト”と叫んだ点も疑問の一つです。優勢にある側が、敢えて自らに不利になるような行動をとるとは思えないからです。イギリスは、シャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロなど、名探偵が数多く誕生した国でもありますが、推理小説好きのイギリス人の多くは、事件の裏には別の思惑が働いている可能性を敏感に感じ取っているのかもしれません。

 情報に乏しく、事件の真相が不明な段階では、国民としても、判断のしようがないのでしょう。もっとも、こうした国民の警戒心と用心深さこそ、国民が”政治的テクニック”のリスクを熟知した民主主義国家の姿であるのかもしれません。

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英EU離脱の行方-EU側の大幅譲歩が必要では?

2016年06月14日 16時55分28秒 | ヨーロッパ
英国がEU離脱なら「世界恐慌」の引き金に? 勢い増す「離脱派」、日本企業にとっても脅威
 EUからの離脱を問う国民投票を今月23日に控え、イギリスでは離脱派の勢いが増しており、各社による世論調査の結果も、軒並み離脱派が残留派を上回っております。イギリスのEU離脱は、いよいよ現実味を帯びてきました。

 イギリス国内の残留派が焦りを募らせる一方で、EU内でも、イギリスの離脱派はEUの弱体化を意味するため、懸念が広がっております。こうした中、一つだけイギリスに残留を思い止まらせる方法があるとしますと、それは、EUによる大幅譲歩なのではないかと思うのです。事の発端は、今年2月のキャメロン首相とEUとの最終交渉にあり、イギリス側が折れたため、EUに移民政策等に関する権限を認める形で妥協案が成立してしまいました。言い換えますと、EUへの残留は、事実上、国境管理や難民・移民等に関する主権的な権限のEUへの委譲を意味してしまうのです。離脱派が優勢な理由は、近年の急激な移民増加と相まって、英国の国家主権へのEU側によるに浸食への抵抗感にあり、一般のイギリス国民をして国家消滅の危機感を抱かせているのです。このまま投票日を迎えれば、イギリス国民は離脱を選択することでしょう。

 となりますと、唯一、23日の国民投票を中止(過去にも状況の変化により国民投票中止の前例あり…)、あるいは、離脱の決定を防ぐチャンスがあるとすれば、それは、EU側がイギリスに対して、国境管理や難民・移民政策に関する主権的な権限の全面的な返還を申し出ることです。あらゆる犠牲を払ってでも離脱を決意したイギリス人の心情を、EU側も、汲むべきではないかと思うのです。

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ドイツ連邦議会のアルメニア人虐殺決議-検証なき決議の危険性

2016年06月03日 10時04分53秒 | ヨーロッパ
アルメニア人「虐殺」決議=トルコ反発、大使召還―独議会
 ドイツ連邦議会は、昨日、1915年頃に発生したとされるオスマントルコ帝国によるアルメニア人虐殺事件について、この事件を”ジェノサイド”と認定する決議を採択したそうです。トルコとの関係悪化も指摘されておりますが、この決議、問題含みなのではないかと思うのです。

 アルメニア人虐殺事件について、トルコ側は、この虐殺を歴史的事実としては認めておらず、ヨーロッパ諸国との間に”歴史認識”の違いがあります。この点は、日本国と中国との間の”南京虐殺事件”、並びに、韓国との間の”慰安婦事件”の構図と類似しています。こうした”歴史認識”については、双方の主張の隔たりは埋めがたく、議論が平行線となりがちですが、唯一、”歴史認識”紛争を解決する方法があるとしますと、それは、裁判と同様に証拠主義に徹することです。つまり、事件の存在が証拠により証明され、客観的に事実として認められない限り、”史実”と断定することは控えるべきなのです。冤罪もあり得るのですから。司法における証拠主義、つまり、歴史問題における歴史実証主義の視点からしますと、アルメニア人虐殺事件については、ドイツが、現地調査を含めて徹底した検証を実施し、証拠等を収集したようにも見えません。また、当事国でもないドイツに調査権限があるとも思えず、一方的な主観による決議では、弁明の機会も与えられず、虐殺者と認定されたトルコ側が納得しないのも当然です。

 検証なき断定による歴史問題の解決は、結局は、国際社会の火種として燻るものであり、否、それは、国家間の対立として表面化するリスクさえあります。この時期に、何故、ドイツ議会が敢えてアルメニア人虐殺決議を敢行したのか、その背景の分析も急がれますが、今般のドイツ連邦議会の決議は、”歴史認識”という魔物を呼び出したかのようです。虐殺は、非人道的な蛮行として批判されるべきではあっても、実証なき段階では、近代司法が否定した”政治裁判”になりかねないと思うのです。


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イスラム教徒のロンドン市長-不和か団結か

2016年05月07日 15時35分40秒 | ヨーロッパ
ロンドン市長に初のイスラム教徒=労働党が奪還
 本日、ロンドン市長選挙において、イスラム教徒のサディク・カーン氏の当選を伝えるニュースが飛び込んできました。パキスタン出身の父を持つとのことですが、氏は、当選受託演説において、「ロンドンが不和ではなく団結を、恐怖ではなく希望を選択したことを誇りに思う」と述べております。

 イスラム教徒のロンドン市長の誕生は、移民問題に揺れる混沌とした現代という時代の象徴のようにも見えます。イスラム過激派による地下鉄テロ事件を経験し、移民問題をめぐってEU離脱の賛否が拮抗する中、首都ロンドンの市民は、イスラム教徒を市長に選んだのですから。氏の当選には、ロンドンの人口に占める移民系住民が、既に過半数を越えたことも影響しているのでしょう。住宅不足の解消、治安の改善、並びに交通渋滞の緩和といった比較的宗教色の薄い行政問題が選挙の争点となったそうですが、民主的選挙は数の勝負となりますので、移民人口が増えるほど、移民系候補者の当選確率は高まります。イスラム教徒のロンドン市長は、イギリス史上初めてのケースとなりますが、果たして、カーン市長は、ロンドン市民に団結と希望を与えるのでしょうか。アメリカで史上初のアフリカ系としてオバマ大統領が誕生した時、国民の多くは、人種や政治的立場の違いを越えた国民統合の実現を期待したそうです。しかしながら、二期目の任期も残り僅かとなった今日、アメリカ社会の亀裂は逆に深まり、就任当初の国民の高揚感も今や冷めています。アメリカの事例は、言葉で言うほどには、”団結”が容易ではないことを示しているのです。

 今般の選挙結果に対するロンドン市民の様子を見ますと、オバマ大統領の当選時のような楽観的で晴れやかな雰囲気もなく、どこかしら不安げにも見えます。カーン市長は、”市民は団結を選んだ”と断言しておりますが、イスラム教徒の市長当選が、どの程度、その多数がキリスト教徒である一般のイギリス国民と、移民であるイスラム教徒との団結を促すことになるのかは、今後の推移を見守るしかないのではないかと思うのです。

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英EU離脱問題-現代の大陸封鎖令か

2016年04月23日 14時56分58秒 | ヨーロッパ
米英関係、英EU加盟で強化 離脱なら貿易交渉に影響も=米大統領
 イギリスでは、6月23日に、EUからの離脱の是非を国民に問う国民投票が実施される予定です。世論調査によりますと、現時点では残留派が若干リードしているものの、結果は”浮動票”の行方次第ともされています。

 残留派の主たる説得材料は、離脱に伴ってイギリスが被ると予測される経済的マイナスなのですが、こうした中、国外からも残留を求める動きが活発化しております。イギリスの離脱を阻止したいEUからの圧力に加えて、本日も、キャメロン英首相との会談の席で、アメリカのオバマ大統領も、離脱した際の対米貿易交渉への影響に言及し、残留派を後押ししたと報じられています。イギリスを取り囲むかのように、通商関係を盾にした”離脱反対”の大合唱が起きているかのようなのです。この現象、どこか、凡そ200年前に発令されたナポレオン1世の大陸封鎖令を髣髴とさせます。ナポレオン1世は、軍事力を以ってヨーロッパ大陸にナポレオン体制を敷いたものの、唯一イギリスだけは上陸作戦にも失敗し、支配下に置くことができませんでした。そこで経済的手段によってイギリスを屈服させるべく、ナポレオン1世は、プロイセンの首都ベルリンにおいて勅令を発令します。つまり、フランス帝国の従属化にあった全てのヨーロッパ諸国に対して、イギリスとの通商が堅く禁じられたのです。当時と今日では、ヨーロッパの政治状況は著しく違っていますが、通商関係が外交的な圧力とされている点において、両者には共通性が見られます。

 200年前の大陸封鎖令では、産業競争力に優るイギリスが逆封鎖を実施したため、思惑とは反対にヨーロッパ経済に深刻な打撃を与えました。ロシア遠征の発端は、封鎖に耐えかねたロシアが同勅令を破ったことにありましたが、果たして、今日、仮に”大陸封鎖令”が発動されるとしますと、どのような展開が待ち受けているのでしょうか。通商政策の効果の正確な予測が極めて難しいのは、当時も今日も変わらないのではないかと思うのです。

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EU・トルコ難民合意でトルコ加盟は遠のく?

2016年03月09日 15時14分26秒 | ヨーロッパ
ギリシャの難民受容=流入抑制でEUと原則合意―トルコ
 昨日、EUとトルコとの間で、ギリシャに密入国した全ての難民送還とEUのシリア難民の受け入れに関して大筋合意が成立しました。EU・トルコ間で新たな協力関係が開かれたとも評価されておりますが、この合意によって、果たしてトルコのEU加盟は近づくのでしょうか。

 合意の内容は、トルコが、シリア出身者以外の経済難民を含め、トルコ側からギリシャへ不法入国している難民を全員引き取る代わりに、EU側は、この送還費用を全て負担し、トルコ政府に難民支援のための資金を提供すると同時に、この措置でトルコに送還されてきたシリア難民と同数の同国居留のシリア難民、乃ち、不法にギリシャ側に渡海せずにトルコに滞留しているシリア難民を、”第三国定住者”としてEU諸国が分担して受け入れるとするバーター取引です。不法入国者をシャットアウトする一方で、合法的に入国してくる難民を同数受け入れるのですから、EUに移住するシリア難民の数がどれほど減少するかは未知数ですが、密航を試みたシリア難民には、合法的な難民としての資格を与えない方針ともされ、心理的な効果を狙ってるのかもしれません(密航者が減少すれば、自動的にEU側の受入数も減少…)。EUとトルコは、難民問題を介して堅く手を結ぶことになったのですが、その一方で、シリア難民がEUに危機をもたらした現実は、トルコ加盟に際して、難しい問題を突きつける結果ともなりました。何故ならば、仮にトルコが加盟すれば、”移動の自由”はトルコにも適用され、トルコ国民のみならず、現在、270万人ともされるシリア難民がEUに押し寄せる可能性があるからです。尤も、ブルガリアとルーマニアに対しては、暫定的に”移動の自由”を制限する措置も採られた例もありますが、現在ではこの制限も解除されております。

 イギリスは、EUからの脱退を辞さずの姿勢で自発的に”移動の自由”からの離脱を試みていますが、一方、トルコは、加盟に際して、たとえ暫定的であっても、’移動の自由’に対する制限には難色を示し、積極的に”移動の自由”を求めるてくるかもしれません。現在、EUは、”移動の自由”を死守すべく躍起になっておりますが、トルコに対しても、この方針を貫くのでしょうか。トルコのEU加盟問題は、シリア難民の大量発生によってさらに難しい局面に至ったのではないかと思うのです。

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