万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

USスチール買収が何故安全保障の問題なのか-鉄と戦争

2025年01月08日 09時46分25秒 | 国際政治
 アメリカのジョー・バイデン大統領が、大統領令をもって日本製鉄によるUSスチールの買収を禁じた一件については、昨日1月7日に、経団連、日本商工会議所、並びに、経済同友会の3団体のトップが顔を揃えて同措置を批判する記者会見を開いています。その主たる批判点は、安全保障上の理由から買収が禁止されたところにあるようです。自由主義経済を守ってきたアメリカが、このような措置を執れば、むしろ安全保障上のリスクとなる日米離反が起きかねないとして。尤もな主張のようにも聞えるのですが、同批判は、日本国側の安全保障に関する認識の甘さを露呈しているようにも思えます。

 企業買収や合併等の本質的な問題性については後に論じるとしましても、今般の買収劇の舞台が製鉄分野であったことには留意する必要がありましょう。仮に、買収案件がファッション系や食品系の企業であれば、たとえ日本企業が米国企業を買収したとしても、これほどまでに抵抗を受けたり、問題視はされなかったはずです。ところが、製鉄分野ともなりますと、これは、実のところ、‘戦争’と直結してしまうのです。

 仮に、今般のケースとは逆に、USスチール側が日本製鉄を買収するとする計画があったとすれば、日本国政府は、自由主義あるいはグローバリズムの名の下ですんなりと同案を承認するのでしょうか。今日、日本国政府はグローバリストの‘パペット’状態にありますので、アメリカのCFIUS程の審査もなく同案は承認されるかもしれません。しかしながら、おそらく、防衛省当たりからは反対の声が上がるでしょうし、日本国民の中にも日本製鉄の海外企業による買収を日本国の安全保障上の危機とみなす反対意見も現れることでしょう。製鉄産業は、軍需を支える基幹産業であり、武器製造に不可欠であるからです。たとえ、同盟国の企業と雖も、外国企業に軍需産業の主力企業を押さえられるとなりますと、日本国が独自に生産を管理することは難しくなります。売却先が同盟国の企業であったとしても、日本国の防衛や独立性に対してはマイナスに作用するのです。

 因みに、この点に注目しますと、日本製鉄によるUSスチールの買収には、隠れた目的があった可能性もないわけではありません。推測の一つに過ぎませんが、巨大な戦争利権をも握る世界権力が第三次世界大戦誘導計画を実行しているとすれば、日米同盟を含むアメリカ陣営を枠組みとした製鉄産業の合理化と一体化を図ろうとするかも知れないからです。迅速且つ効率的に武器を生産・供給するために。新年早々、習近平国家主席が演説で‘台湾の統一は阻止できない’と述べたとも伝わります。経済面を強調するメディアの報道の裏では、国際社会の上部にあって第三次世界大戦シナリオが進められており、今般の買収案は、まさしく政治、否、安全保障問題であるとする見方もあり得るのです。あるいは、さらに穿った見方をすれば、戦争準備を根拠とする生産体制のさらなるグローバルな‘集中’が真の目的であるのかも知れません。グローバリストには、国家や企業の独立性などは何の意味も無いどころか、自らの世界支配にとりましては阻害要因でしかないのですから。

 また、日本国の経済界側の主張に従えば、究極的には、中国の国有企業である宝鋼集団が日本製鉄を買収しようとした場合、これを認めざるを得なくなりましょう(中国は、アメリカによる買収阻止を批判している・・・)。政治の介入はあってはならないのですから(否定すれば、ダブル・スタンダードとなる・・・)。この場合、日本の製鉄産業の中核企業を中国側に取り込まれますので、日本国は、有事に際しても自立的な軍需品の生産体制の構築が困難となります。もちろん、‘敵国認定’によって中国企業となった‘中国製鉄’を日本国政府が接収するとする対応もありましょうが、買収に伴ってサプライチェーンで中国国内の企業と結合された生産体制が構築されますので、その切り離しは簡単ではありません。そして、製鉄産業の軍事的側面に注目しますと、昨年2024年7月における日本製鉄の宝山鋼鉄との合併事業解消は、中国側にフリーハンドを与えたようにも見えてくるのです。政経わたって日本国は中国勢力が根を張っていますので、アメリカから疑われても致し方ない要因もないわけではないのです。

 人類の歴史を振り返りましても、鉄と戦争とは切っても切れない関係にあります。古代におけるヒッタイトの台頭のバネとなったは、その高度な鉄加工技術にありました。第一次世界大戦に際しても、敗戦国のドイツは、賠償金の未払いを理由としてフランスによって製鉄に必要な石炭の一大産地であり、それ故に製鉄業が発展していたルール地方を占領されています。鉄と戦争との不可分の関係を考えますと、USスチール買収を阻止したアメリカの判断は、バイデン大統領であれ、CFIUSであれ、利己的かつ恣意的で誤っていたとは思えないのです(つづく)。

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