万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

高校教科書歴史用語問題-暗記から理解・分析テストへの転換で解決を

2017年12月04日 14時43分00秒 | 日本政治
高校歴史用語に「従軍慰安婦」 教科書向け精選案「南京大虐殺」も
 目下、教科書会社では、次期学習指導要領に沿うよう教科書内容の改訂の作業が進められているようです。この作業に合わせて、約400人の高校・大学の教員によって構成される高大連携歴史教育研究会が提言を行ったところ、その用語の選別が波紋を広げております。

 同研究会では、暗記力から思考力重視への転換を図るとする基本方針から、歴史用語を大胆に削減しております。古代から現代に至るまで、蘇我馬子、武田信玄、上杉謙信、坂本竜馬、吉田松陰、高杉晋作といった日本人であれば誰もが知っている歴史上の著名人物が削除対象とされる一方で、中江兆民、幸徳秋水、徳富蘇峰、幣原喜重郎等の人物が加えられていることから、その選別基準が、左右何れであれ“国際主義”、あるいは、“グローバル”であることが窺えます(もっとも、グラバー商会と協力関係にあった坂本竜馬は国際組織の一員であったかもしれない…)。また、“従軍慰安婦”や“南京大虐殺”など、事実によって反証されている用語も“当確”させているところを見ますと、選考基準には色濃いイデオロギー上の偏向も見受けられます。

 同研究会は、暗記偏重の歴史教育の現状を削減理由として強調しておりますが、この理由付けも不可解です。思考とは、その素材となる情報を知らなければ、誤った判断に導かれてしまうか、あるいは、浅薄な考察に留まるからです。ある一つの情報を知っているか知らないかによって、歴史上の評価も大きく変わりますし、正確な情報の収集量は物事の理解や判断の的確さと凡そ比例するのです(AIでさえ、正確な回答を得るためには、できる限り多くの情報のインプットが必要…)。教科書とは、いわば情報提供の基礎的ツールですので、情報量の乏しい教科書で学習しても、読む側の思考力が高まるとは思えません。歴史用語が大幅削減されれば、学生の方は暗記する量が少なくなったのを歓迎し、逆に、“これなら全部暗記できる”とばかりに用語暗記に励むことでしょう。たとえ日本史履修者が増加したとしても、これでは本末転倒であり、用語削減は逆効果となります。

 加えて、同研究会が、高校や大学の教員であることにも驚かされます。何故ならば、思考力が問題ならば、変えるべきは教科書に掲載されている用語の量や内容ではなく、自らが行っているテストの方法と考えられるからです。テスト用紙の( )内の空欄に人物名や発生年等を書き込む暗記方式ではなく、時代の流れの把握、歴史的事件の背景や要因の分析、あるいは、歴史的な意義を問う設問に変更すれば、自ずと思考力は高まります。出題する側が暗記力を問うことを止めれば、この問題は容易に解決するのです。

 用語=情報としますと、歴史の教科書は分厚くてもよいはずです(暗記目的でなければ、苦痛にはならない…)。そして、情報の共有は、国民間にあっては自らの国家が辿ってきた歴史に対する共通意識を醸成し、コミュニケーションをも円滑化します。もっともらしい理由を付けながら、その実、日本国の教育レベルの低下を狙った“第二のゆとり教育”や“国民消滅”が真の目的である可能性もあり、こうした提言には大いに警戒すべきと思うのです。

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