万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ティラーソン米国務長官の無条件対話提案―譲歩か、最後通牒か?

2017年12月13日 15時52分30秒 | アメリカ
米国、前提条件なしで北朝鮮と直接対話の用意=国務長官
今月12日、ワシントンD.C.のシンクタンクでの講演においてなされたティラーソン米国務長官による北朝鮮に対する無条件対話の呼びかけは、北朝鮮問題が緊迫化する中、様々な憶測を呼んでおります。核・ミサイル開発・保有の放棄を前提としてしか対話には応じない、とする従来の方針が転換されたことにもなりますが、果たして、この発言の意図するところは、何処にあるのでしょうか。

 無条件対話への転換は、強硬姿勢を貫いてきたアメリカ側から軟化の姿勢を示し、北朝鮮側に歩み寄ったようにも見えます。しかしながら、この発言、二つの解釈が成立するように思えます。

 その一つは、上述したように、アメリカが対話の窓口を自ら用意することによって、北朝鮮側の立場を尊重する形での、対話による解決を図るための意思表示とする解釈です。これまでも、同国務長官については宥和的との指摘があり、更迭論が囁かれるほど、路線をめぐるトランプ大統領との確執も指摘されてきました。特に中国への配慮が強く、今般の発言も、対話解決を求める中国に同調し、対話路線へと引き込むための誘導である可能性があります。再三指摘されてきたように、この解決方法には、(1)核・ミサイル開発の凍結合意に留まり、日本国や周辺諸国の安全は確保されない、(2)結局、北朝鮮に開発に時間的猶予を与え、合意が反故にされた過去二度の失敗を繰り返すこととなる、といった重大なリスクがあります。同長官は、北朝鮮による核・ミサイル開発への多額の投資に言及しており、“現実的な落としどころ”として、イラン核合意と同様に、完全放棄ではなく、暫定的な凍結、もしくは、米本土を射程距離に収めるICBM開発のみの放棄を選択するかもしれません。

 もう一つの解釈は、同長官の発言は、北朝鮮に対する事実上の最後通牒とする見方です。同長官は、同発言において、“危機発生時”、即ち、朝鮮半島有事において、北朝鮮の核使用を阻止する手段を中国と協議したことを明らかにしており、かつ、中国に対して米軍が北朝鮮領内に進軍したとしても、韓国領内に帰還させる旨を確約したと述べております(米中間で38度線の現状維持の合意か?)。戦後処理については、中国は、合意内容が漏れれば北朝鮮を刺激するとして協議の議題には載せるのを拒否しているとの情報もありましたので、米中間で、同問題の合意が成立しているとすれば、米軍による対北軍事制裁は、中国の容認の下で実施されることを意味します。つまり、北朝鮮は、もはや中国の支援に期待することはできず、残された道は、同長官の提案に応じて話し合いの席につき、その場で、核・ミサイル開発・保有の完全放棄を承諾するか、あるいは、勝利の見込みのない絶望的な対米戦争に望むかしかなくなります。

 講演会におけるティラーソン米国務長官の発言は、トランプ大統領の承認を得ているのか不明とされ、上記の二つの解釈も、憶測の域を出ません。しかしながら、同長官の発言の節々に、何れの方向であれ、中国の動向を含め、北朝鮮問題が重大な局面に達している様子が窺えるのです。

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コメント (2)
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