万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

真珠湾攻撃と北朝鮮問題―似て非なるもの

2017年12月08日 11時15分57秒 | 国際政治
 76年前の12月8日未明、日本軍はハワイの真珠湾を攻撃し、かくして、太平洋戦争の火蓋は切って落とされることとなりました。日米開戦の経緯につきましては、最近の研究によれば、米英による対日挑発説が有力となりつつあるようです。

 当時、イギリスは、破竹の勢いでヨーロッパを席巻したナチス・ドイツ軍を前にして、風前の灯の状態にありました。ドイツ軍のイギリス上陸も時間の問題ともされ、アメリカの参戦がなければ、イギリスは、ドイツの軍門に下った他のヨーロッパ諸国と運命を共にしたことでしょう。絶体絶命に陥ったイギリスが、アメリカ参戦の端緒としてドイツと同盟関係にある日本国による対米攻撃を心の底から望んだことは疑いなく、この歴史の流れからしますと、米英が結託して日本国を追い詰め、軍事行動に駆り立てたことは最もあり得るシナリオです。あるいは、特に日本海軍はイギリス海軍を範にして設立されており、解消されたとはいえ、日英同盟以来の協力関係も水面下では維持されていたとすれば、日本国の内部にあっても、このシナリオに誘導された、あるいは、暗に協力した政治家や軍人等もあったかもしれません。また、日本軍の攻撃によるアメリカの参戦は、ソ連邦も望むところでした。

 日米交渉の決裂も同シナリオの筋書き通りとなるわけですが、真珠湾攻撃の事例は、政治に関する様々な側面を教えています。例えば、当事者間の合意に期待する交渉という手段は、相手方が闘う意思を堅持している限り、全く以って無駄となります。しばしば、日米交渉における日本国側の失敗が開戦への道を拓いたとして批判されていますが、当時、ルーズベルト大統領は戦争を望んでいたわけですから、この見解は的を外しています。

 また、攻撃を受けた側の選択肢は、即時降伏を除いては、軍事的対応、即ち、戦争一つに絞られます。如何なる国にも正当防衛の権利はありますので、応戦=防衛戦争は、誰からも批判されない最も正当なる戦争事由となるのです。日本国を真珠湾攻撃へと追い込む米英の行動は、日本国の選択肢を狭め、開戦一つに追い込むと同時に、相手国の行動のリアクションとして自らの行動をも一つに決定付けるのです。歴史的文脈にあって、真珠湾攻撃は、日本国側の一方的な行動ではなく、米英の思惑とセットにして理解すべきなのかもしれません。

開戦の発端はトリッキーで短絡的であったものの、やがてこの戦争は、自由と民主主義をスローガンとして掲げる連合国と植民地解放と祖国防衛を大義として掲げた日本国との間の、価値観をもかけ足かけ4年にもわたる血みどろの戦いへと発展してゆくのです(もっとも、今日においては、両者の大義はともに正しく、普遍的価値として認められている…) 。

 北朝鮮の脅威が深まる中、北朝鮮による奇襲のリスクを日本軍による真珠湾攻撃に擬える見解もあります。しかしながら、両者は似て非なるものです。真珠湾攻撃から76年を経た今日、日本国とアメリカは、日米同盟の強い絆で結ばれています。案外、両国の政界や歴史家の多くは、教科書の説明とは異なる上記の事情を知っており、特にアメリカ側において、戦後、日本国に対する敵国意識が薄らぐ要因ともなったのでしょう。二つの大義が対立関係を構成し、アメリカが全体主義国家ソ連邦と与した、奇妙で捩じれた時代と比較して、今日の“共通の敵”は明白です。“共通の敵”とは“人類の敵”であり、独裁的全体主義を標榜し、覇権主義の下で勢力拡大を試み、自国のために他国の権利を侵害する無法国家であるからです。

 真珠湾攻撃の教訓からすれば、北朝鮮が核・ミサイルの開発・保有を断念する意思がない以上、交渉は無駄となりましょう。その一方で、中国であれ、北朝鮮であれ、今般の脅威にあっては、アメリカが血の絆で結ばれた友好国イギリスを救うために、日本国、即ち、敵国の同盟国に対して開戦を挑発するといった状況には全くありません。今度こそは、真の“敵”を見誤ってはならず、より善き国際秩序の実現を賭して、両国は、目下の北朝鮮問題、さらには、中国の覇権主義に臨むべきと思うのです。

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