万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本国の中小企業は‘海外大売り出し’となるのか?-政府の外資斡旋事業

2018年10月17日 15時26分19秒 | 日本政治
本日10月17日の日経新聞朝刊の第一面には、中小企業の継承者難に対する対策の一環として、日本国の経産省が、外資に対して引き継ぎを仲介する新たな事業に関する記事が掲載されておりました。表向きは‘救済策’なのですが、その実態、あるいは、真の目的は、海外からの要請を受けた日本国政府による、日本国の中小企業を外資への売り渡しなのではないかと思うのです。

 同記事の説明によると、中小企業庁による試算によれば、2025年には日本国内では日本企業の凡そ3分の1に当たる127万社が後継者不足のために廃業の危機に直面するそうです。仮に、これらの企業が全て廃業したとすれば650万人もが人々が職を失い、近い将来、深刻な雇用問題が発生します。そこで、外資であれ、これらの企業の事業を引き継いでもらえば、将来の失業者を救済できるという理屈なのです。一方、食品や自動車部品の分野においては、事業のグローバル展開の文脈において日本国の中小企業を傘下に入れたい欧米の外資系企業から、既にジェトロに対して要望が寄せられているそうです。政府としては、国内の継承者難を救うのだから、外資による事業権取得は歓迎すべきと言いたいのでしょう。

具体的な制度としては、既存の「事業引き継ぎ支援センター」が集めてデータベース化したM&A関連の情報を外資系企業に開放し、ジェトロがM&Aを希望する外資系企業との間の仲介役を担う仕組みなそうです。ジェトロの仲介は、技術の海外流出を防ぐためと説明されています。また、データベースを充実させるために、地方銀行や税理士の保有している取引先情報も収集するそうですが、この制度が実際に運用を開始するとしますと、どのような結末が待ち受けているのでしょうか。

かつては、大企業が中小企業を資本関係等を介して囲い込む日本国固有の‘ケイレツ’は、英語でそのまま通用するほど、日本の悪しき企業慣行の代表格と見なされ、海外からバッシングを激しい受けた時期がありました。その理由は、日本製品の高い国際競争力の背後に、それを支える優れた中小企業の存在があったからです。結局、外圧を受ける形で日本企業は‘ケイレツ’の解消に努めたのですが、本記事を読みますと、いざ‘ケイレツ’が崩れて中小企業が独立性を高めますと、今後は、外資や海外企業がその囲い込みに動き始めたような感があります。そして、今般の日本の中小企業を獲得したいとする海外企業からの要望も、この文脈から理解されるのです。

 仮に、事業継承が困難となった中小企業の多くが外資系ファンドや企業によって買収されるとしますと、日本経済の様相は一変するかもしれません。取得先が企業の売買利益を重視する外資系ファンドであれば、さらに別の外資系企業に転売される可能性もあります。また、海外企業による事業目的のM&Aであれば、経営の合理化を理由に日本人社員や従業員をリストラし、‘移民労働者’を積極的に雇用することでしょう。目下、日本国政府が騙し討ちの如くに事実上の‘移民政策’に転じたため、国民の間から反対の声が上がっていますが、海外企業に事業権が移れば、日本人を雇用するインセンティヴも著しく低下します。(この現象は、既に先進各国で問題化している…)。あるいは、移民政策に関して菅官房長官が説明した‘中小企業からの強い要請’とは、中小企業の外資売却の展開を見越した発言であったのかもしれません。

 最近の日本国政府の基本方針は、一事が万事、‘国内の問題でも全て国外を以って解決’の様相を呈しています。人手不足であれば移民労働者で解決し、後継者不足であれば外国の事業者に売り払って解決、というように…。海外頼りが唯一の政策手段であるはずもなく、中小企業の後継者不足については、所有と経営を分離する方向で創業家による世襲制を見直し、企業内部から経営トップにまで昇進できる仕組みに改革すれば、大方解決します。江戸時代の商家では、実子に後を継がせるよりも、最も優秀な番頭さんを婿養子してお店を継承させる慣行もありました。こうした改革を実施すれば、社内にあっては社員も奮起しますし、大企業よりも経営に携わるチャンスに恵まれるとなれば、学生さんにとりましても、中小企業は魅力的な就職先となりましょう。延いては、中小企業の人手不足問題の解決手段となりますので、一石二鳥なのではないでしょうか。

 同記事は、買い手が欧米企業であるかのように解説されていますが、米中貿易戦争にあってアメリカ企業のM&Aに待ったがかかってる今であるからこそ、中国系企業にとりまして、日本国の技術力のある中小企業は喉から手が出るほど獲得したい買収先であるはずです。外資系企業の’御用聞き’となった政府主導で推進するグローバル化の果てに待っていたのが、日本経済の‘海外大売出し’の事態は、決してあってはならないことではないかと思うのです。

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コメント (2)
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