万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

外国人労働者受け入れ賛成多数の不思議-グローバルな潮流の逆

2018年10月29日 10時27分10秒 | 日本政治
「在留資格拡大」に賛成51%…読売世論調査
新聞各社では、目下、国民の関心を集めている外国人労働者の受け入れ政策について、国民の賛否を調べるべく世論調査を実施したようです(日本経済新聞社や読売新聞社など…)。何れの調査結果でも、外国人労働者受け入れ賛成が過半数を越えていますが、この数字、日本国の世論を正確に反映しているのでしょうか。

 何故、疑いを抱くのかと申しますと、つい数年前までは、移民政策に対する反対意見が圧倒的多数を占めていたからです(国際的な定義では、一時的であれ、国境を越えた人の移動は移民とされる)。過半数の賛成が一般世論であれば、僅か数年の間に日本国民の多数が移民政策に対す賛否の態度を変えたことになります。それでは、賛否の比率を逆転させるほど移民政策にとりまして好材料があったのかと申しますと、事実は全くの逆です。

全世界規模で移民反対の動きが顕在化しており、イギリスのEU離脱やアメリカのトランプ政権の誕生の背景には、増え続ける移民に危機感を感じた一般国民の移民反対の世論があったことは周知の事実です。移民の増加は、雇用問題、賃金低下、治安の悪化、社会的亀裂、増加した移民に対する社会保障・福祉・教育・医療費負担による財政悪化、ヘイトスピーチ規制の名の下における言論統制、文化や伝統の消滅危機など、それに付随する様々な負の問題を引き起こすからです。さらに巨視的な見方をすれば、主権平等と民族自決を原則とする国民国家体系崩壊の危機にも繋がりかねないリスクも指摘し得るのです(世界政府樹立への布石?)。

 しかも、今現在、北米大陸では5000人とも推計される移民集団がホンジュラスからアメリカに向けて北上しており、国境地帯に米軍が展開される事態に至っています。おそらく、何らかの政治的意図を有する勢力が組織化したのでしょうが、ヒスパニック系の米国民以外の一般の米国民は大挙して押し寄せてくる移民に不安を募らせていることでしょう。シリア難民の大量受け入れで大混乱に陥ったドイツでも、張本人とされるメルケル首相率いる与党は各種選挙で連敗を続けており、同首相は、退陣要因を自らの手で作った観があります。加えて、ヨーロッパのみならずブラジルでも、‘ブラジルのトランプ’とも呼ばれ、‘ブラジル・ファースト’を掲げたジャイル・ボウソナロ下院議員が、今月28日に実施された大統領選挙で当選を確実にしました。メディアでは、ポピュリズムと称して批判的に報道されていますが、全世界的な潮流は、明らかに、‘移民反対’、‘自国民ファースト’なのです。

 こうした‘移民反対’、‘自国民ファースト’というグローバル・レベルでの潮流に照らしますと、日本国の世論調査の結果はこの流れを逆流しているとしか言いようがありません。マスメディアは、常々、日本国民に対して世界に対して目を開き、グローバル化の流れに乗り遅れないよう説教していますが、今般の世論調査結果が真の‘世論’であるならば日本国はグローバル化に逆行しており、日本国のグローバル化は遅々として進んでいないことになります(もっとも、マスメディアは、’グローバル’を国家や国境をなくして一つのグローブ=地球とする方向性として定義しているのかもしれない…)。

もっとも、日本国ならではの事情があるとしますと、少子高齢化による人手不足なのでしょうが、今般、問題視されている新たな在留資格の創設に際して、介護や建設などの一部分野を除いて政府が対象分野を明確にできず、人手不足の分野を洗い出しているとする報道があるところからしますと、本当のところは怪しいようです(立法を急ぐほど差し迫った危機であるならば、今さら調査する必要はないはず…)。AIやロボットの導入による雇用減少の方が余程現実味を帯びておりますので、むしろ、国民の多くは、将来的な雇用の減少を敏感に感じ取っているのではないでしょうか。また、移民問題に苦しむヨーロッパ諸国の現状は、シリア難民問題は別としても、1970年代以降、人手不足から移民労働者を積極的に受け入れた結果なのですから、人手不足の解消策であれば移民問題は発生しないとは言えないはずです。

これらの調査では、‘移民’という言葉は極力避け、国籍付与についても触れていませんが、永住資格の要件充足は、国籍取得の要件を充たすことでもあります。また、家族の帯同が許される資格を取得しますと、今般の法案にあってたとえ厳しい条件を付したとしても、政府も事業者も家族全員を管理下に置くことはできませんし、受け入れ人数の制限も無意味となります(中国残留孤児の場合、一人の孤児の帰国によってその何十倍ともされる家族が日本国内に居住することになった…)。現在でも、過激派を含む左翼活動家には朝鮮半島出身者、並びに、その子孫が多いとされていますが、在留資格保有者であれ、永住者であれ、国籍取得者であれ、人口パワーを有する中国系の人々が増加しますと、中国政府の動員によって国内でテロや工作活動が発生しないとも限りません。加えて、フィリピン政府が国内においてISとの闘いに苦慮しているように、東南アジア諸国にもイスラム過激派との繋がりがある人々がおり、移民として日本国内に潜入してくる可能性もあります。

なお、同調査結果では、自民党支持者にあっても賛成派が過半数を上回るとされていますが、保守政党を自認する自民党も、外国人受け入れ政策を前面に掲げて次の選挙を闘うのでしょうか(もっとも、政府は、総選挙を待たずして同法案を通したいらしい…)。仮に、世論調査の結果と現実の国民世論との間に乖離があるとしますと、選挙結果に‘読み違い’が生じるかもしれません。一方の野党側は、日本人保護と言うよりも、外国人労働者の人権保護に主たる反対理由があるようです。与野党何れを見ましても、日本国民に対して優しい政党は存在していないようなのです。

最近の世論調査は、政府、あるいは、そのバックとなる勢力の目的や既定路線の政策に根拠を与えるために予め結果が準備されているかのような事例が少なくありません。一般の国民が反対しそうな政策でも、何故か、賛成多数の結果が公表されるのです。百歩譲ってこれらの調査が信頼に足るとしましても、‘賢者は歴史から学び、愚者は経験から学ぶ’とも申しますように、日本国が移民問題の深刻さを経験していないが故に国民多数が賛成に転じたのであれば、それもまた危険な兆候です。ローマ帝国滅亡の歴史のみならず、人類史は、移民が契機となって国家が崩壊したり、解決困難な問題を社会が抱え込んだ事例に満ちているのですから(アメリカの人種差別問題も元を質せば人の移動という移民問題に起因…)。

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コメント (5)
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