万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

グローバリズムの‘隠れ負け組’-日本企業が‘捨て石’になるリスク

2018年12月16日 13時21分04秒 | 日本経済
近年、グローバリズムの理想化された世界ヴィジョンに背を向ける反グローバリズムの嵐が各国で吹き荒れるようになりました。フランスで発生している激しい反マクロン抗議デモも、それが何らかの勢力に煽られたものであれ、グローバリズム、否、新自由主義に対する抗議行動の一環として理解されます。

 こうした反グローバリズムの動きは、一般的には、産業の空洞化に見舞われた先進国の人々の間で起きているとされています。製造拠点の海外移転、移民の増加による雇用不安と賃金の低下、治安の悪化等々、どれ一つを取りましても一般の人々が反グローバリズムに転じる尤もな理由です。ポピュリズム批判もこの側面を根拠としているのですが、それでは、グローバリズムは、その恩恵を受けるとされる企業側に対して‘勝ち組’の地位を約束しているのでしょうか。

 企業にとりましては、国境を越えて自らのビジネスを展開できるようになるのですから、グローバルズムはチャンスとなるはずです。しかしながら、幾つかの点で、企業もまたグローバリズムの‘負け組’に列する可能性があります。グローバリズムとは、相互の市場を隔ててきた障壁を取り払い、フィールドを拡大することを意味しますので、自国市場に手強い競争相手が参入してくれば、‘負け組’が発生するのは必然です。羊さんがのんびりと草をはむ牧場の垣根が取り払われれば、獰猛で狡猾な狼さんに食べられてしまう羊も現れてしまいます。また、貿易障壁の撤廃をチャンスとみて他国の市場に参入しても、競争力に乏しければ、ここでも‘負け組’の運命を余儀なくされます。

こうした競争の激化による表に見える‘負け組’に加え、グローバリズムには、表面から見えづらい‘隠れ負け組’も存在しているように思えます。この‘隠れ負け組’は、グローバル市場では‘規模の経済’が有利に働くがために生じる、企業間の国際連携や結合、あるいは、M&Aによって拡大したグローバル企業においてしばしば観察されるパターンです。このパターンは、日産のゴーン元会長逮捕劇を通して、既に人々の意識に上るようになっております。

仏ルノーの出資を受けて再建した日産では、ルノー側から派遣されたゴーン前会長による半ば独裁体制が敷かれるに及び、“三社連合”の美名のもとに、日産の利益がルノー側に吸収されてしまうという構造が構築されるようになっておりまいた。さらに、日産は、ルノーに子会社化される寸前でもありました。ゴーン前会長逮捕後も日産の独立性に関する危機は続いており、特に、日産がその技術力を以って育んできたバッテリー部門は、子会社と共に中国系ファンドに売却される予定であるそうです。グローバルな視点からすれば、日本で開発された先端技術を大量生産に適した中国に移転すれば、最適な事業体制の下でグローバル市場を闘うことができます。買収、あるいは、提携した企業の技術力を利用するだけ利用して、‘捨て石’にするという経営判断は、グローバル企業の経営陣にとりましては至極当然であり、かつ、必要不可欠な戦略なのです(出資比率に拘わらず、このパターンは起こり得る…)。

このように考えますと、ルノー・日産・三菱自動車の三社連合、あるいは、独ダイムラーを加えた4社連合は(既にルノー・ダイムラー、並びに、三菱自動車・ダイムラー間に出資関係がある…)、グローバル企業としては表面的には‘勝ち組’に映りますが、その実、技術力を抜き取られてしまった日産や三菱自動車には、‘隠れ負け組’となる運命が待ち受けているかもしれません。

日産の場合には、経営が傾いたことで仏ルノーとの提携に踏み切りましたが、今後は、グローバル市場での競争を想定して規模の拡大を目指すより、シンプルなM&Aも増加することでしょう。しかしながら、国内企業間の合併でも指摘されるように、出資比率等により企業合併は必ずしも対等性が確保されるわけでも、利益が均霑されるわけでもなく、何れかの企業が‘隠れ負け組’となるリスクは否定できません。すなわち、‘勝ち組’企業体の一角を構成していながら、実は、“負け組”となってしまう企業が続出する可能性があるのです。グローバリズムの波に乗った国境を越えたM&Aはきれいごとでは済まされない段階に至っており、特に、中国系企業やファンドによる日本企業買収の増加には、国家戦略が背後に控えている故に警戒を要するものとなりましょう。

日本企業は、グローバル化によって‘捨て石’となる覚悟はあるのでしょうか。日本国の経済界は、グローバリズム歓迎一色のようにも見えますが、技術力において優りながらも規模に劣る日本企業が‘隠れ負け組’となるリスクが存在することも、慎重に考慮するべきなのではないかと思うのです。

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コメント (1)
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