万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

組織の集金システム化に用心を-日産のゴーン独裁体制化に学ぶ

2018年12月31日 16時08分19秒 | 日本政治
“失敗は成功のもと(Failure teaches success)”という諺は、失敗からその原因や教訓を学びとれば同じ失敗を繰り返すことはないと、人々に教えています。この諺で肝要なのは失敗の原因を的確に掴むことであり、原因の探索なくしては後の成功もあり得ません。2018年にも数々の耳目を驚かす事件が起きたのですが、こうした‘失敗’とも言える出来事であっても、目を逸らすことなくその原因を突き止めることができれば、再発防止のみならず、危険の事前回避や悪弊の改善に向けた出発点となるかもしれません。

 例えば、年末に至って‘ゴーン・ショック’とでも表現される大事件となったのが、日産のカルロス・ゴーン前会長の逮捕劇です。同容疑者は、レバノン人の両親の元でブラジルに生まれ、レバノンでイエズス会系の学校で中等教育を受け、高等教育過程では、パリの教育機関でエリート・コースを歩んでいます。ブラジル、レバノン並びにフランスの3国の国籍を有するとされる同容疑者は、日産、仏ルノー、三菱自動車の3社連合を束ねる要に位置しており、グローバリストの典型的な人物であっただけに、その衝撃も国境を越えて広がることとなったのです。そして、この‘失敗’の教訓の一つは(あくまでも多々ある教訓の内の1つ…)、組織とは、独裁化によって、いとも簡単に私的集金システム化してしまう点です。

 ゴーン容疑者による独裁化の手口としては、(1)人事権の掌握、(2)利益分配権の獲得、(3)決定プロセスのブラック・ボックス化、(4)制御・チェック機能の無効化、(5)私的コネクションの内部化(親族や知人の登用)(6)ライバル、抵抗者、反対者の排除、(7)自己神格化、(8)自己正当化のための詐術的テクニック、並びに、偽善的詭弁の駆使(9)責任転嫁、(10)自らの行動や個人情報の操作等を挙げることができます。実のところ、これらの手法は、ゴーン容疑者によって初めて考案されたというよりも、昔から存在している独裁化の手口であり、古今東西を問わず、国家レベルにおいても観察されています。今日の中国や北朝鮮の独裁体制は、まさにこれらの手法によって成立したと言っても過言ではありません。

一方、日本国に限って言えば、古来、聖徳太子による『十七条憲法』にも、その第一条として記されたように、調和を重んじ独裁者の出現を嫌う国柄であったため、日本国民の多くは、こうした独裁化が現実に存在するリスクを殆ど意識してきませんでした。ところが、今般のゴーン事件は、その巧妙な手口の詳細が明らかになるにつれ、独裁リスクに国民が漸く目覚めるきっかけになったとも言えるかもしれません。そして、この独裁リスクは、日産のみならず、日本国政府を含めてあらゆる組織に潜んでおり、否、過去においても国民には見えないところで存在していた可能性さえ認識されるに至っているように思えるのです。

 集権化を特徴とする独裁体制は常に私物化と背中合わせにあり、組織の私物化が起きますと、その組織に属する人々は、特定の個人に奉仕する、あるいは、‘搾取’される立場に陥ります。そして、一旦、同体制が固定化されますと、それを覆すことはなお一層難しくなります。日産の失敗を繰り返さないためには、あらゆる組織がこの事件を教訓とし、独裁への移行手口を熟知した上で、常にその兆候には警戒すべきではないかと思うのです。

よろしければ、クリックをお願い申し上げます。

にほんブログ村 政治ブログへにほんブログ村

本年は、拙き記事ながらも本ブログにお越しくださりましたこと、心からありがたきことと、御礼申し上げます。皆さま方が、健やかによき年をお迎えなされますよう、お祈り申し上げます。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする